救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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8 雑用係、夜の市民街を駆ける

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動きやすい服装に身を包み、念のために小ぶりな剣を腰にさした。
料理長に握り飯をいくつか握ってもらい、カバンにいれる。

「満?今から出かけるの?」

珍しく早く帰ってきた当主の永遠とわが声をかけた。

「はい。巫覡院の仕事で。二乃子殿と。」

「二乃子も行くの!せっかく早く帰ってきたのに!」

どうやら永遠は二乃子と夕食が食べたかったらしい。

「一週間ぶりに帰ってきてくれたと思ったら…仕方ないわね。」

永遠が奥に下がったのと入れ替わりに二乃子が庭へと出てきた。
巫覡の装束、ぽいものを着ている。長い袖やひらひらしていた飾りが取り払われ、ずいぶんと動きやすそうだ。

「二乃子殿、その服は?」

「攻撃型巫覡である常磐涼夜りょうや師匠が編み出した巫覡の戦闘着です。」

巫覡の術は多岐にわたるため、一つか二つの分野に特化する者が多いと聞く。
有名な涼夜殿は戦闘系の巫覡の術にめっぽう強く、先の内戦でもおじい様の右腕として大活躍した。
ちなみに誠二の叔父である。

「巫覡は一芸特化が多いと聞きますが、二乃子殿は何か強みはありますか?」

「うーん、特に苦手なものはありませんね。」

ーえ、まさかのオールラウンダー?何でもある程度できるということか。

満はちょっとを感じた。

ーーーー

二乃子に連れられて、満は市民街の端に来た。

「目星をつけた家に行くのではないのですか?」

「いいえ、まずは白いやつを捕まえます。」

捕まえる?

「おそらく白いやつは人の動きに反応して姿を現し、問題の家に私たちを誘導しているんだと思うのです。」

二乃子はカバンの中から白い網袋を取り出し、満に渡した。

「霊体でもとらえられる結界術を施した袋です。白いやつを見つけたらこれで捕まえてください。」

すごい簡単なことのように言われてしまった。

「二手に分かれましょうか。満殿はこちらからじわじわとあの家に向けて歩いてきてください。
私は反対から行きます。でも、あまり家に近づくとすぐに白いやつは消えてしまうので、近づきすぎないようにしてください。」

ーーーー

そして、雑用係、夜の市民街を駆ける。

「なんてすばしっこいんだ!」

白いやつ、が現れたのは二乃子と別れてから一時間後のことだった。
暗くなった道にぼうっと白い光が現れた。遠目には犬のようにも、キツネやタヌキのようにも見える、謎の生き物だ。
立ち止まって満を見ているのに瞬時に駆け寄った。足には自信があったが、ある程度近づいたところで、向こうも走りだしてしまった。

捨て身のスライディングもかわされ、逃げられたか、と思いきや、離れたところで立ち止まり満が起き上がるのを待っている。

ーどうやら、あの家に導こうとしているというのは本当らしい。

家が近づいてくるにつれて満は焦った。
ーこれ、挟み撃ちでもしないと捕まえられない…!

そこに上空から何かが一直線に白いやつに向けて勢いよく飛んできて、つかんだ。…鷹か?
獲物だと思っている?それはまずい!

しかし、その鷹はカーっと鳴くと満に向けて白いやつを投げつけてきた。慌てて網袋を広げて捕獲する。

それを見届けると、鷹はカーっと鳴いて再びどこかへ飛んで行った。
いや、鷹はカーとは鳴かないだろう。カラスか?

「…何、あれ?」

とりあえず、と手の内の白い生き物を見る。ところどころ半透明のようにも見え、普通の生き物ではないことは巫覡ではない満にも察せられた。

「…とりあえず二乃子殿が俺を見つけてくれるって言っていたけど。」

その時、満のお腹がぐるると鳴った。そういえば夕飯を食べていない。
二乃子は小食なのか、平然とご飯を抜いて過ごしてしまうことが多々あるのだ。付き合っていると身がもたない。

満はその場に座り込んで持ってきた握り飯を取り出した。

「あ。」

それは先ほどのスライディングで見事にぺちゃんこになっていた。

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