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7 雑用係、お買い物に行く
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「おはようございます。」
二乃子はシャツにロングスカートという姿で朝食の席に現れた。
「おそようございます。もうみんな出かけてしまっていますよ。」
「なんか九条邸ってよく眠れるんですよね。」
いや、きっと寝具の問題だろう。巫覡院ではずっと雑魚寝だったのだから。
先ほど布団に関しては九条家の古くなったものをもらい受けることで誠二と話がついた。
「今日ですが、まず敷物や茶器を買いましょう。あまり高いものは買えないので竹田街に行きますよ。」
都のお買い物スポットは大きく三つある。
貴族御用達の高級店が並ぶ、貴族街。
幅広く様々な商店が立ち並ぶ商人の町、竹田街。
異人たちが店を構える異国情緒あふれる、異人街。
「竹田街って市民街から近いですか?」
「ええ、隣接してますけど。」
「それはちょうどいいですね。」
何がちょうどいいんだろう。
ーーーー
昨日はあまり気乗りしなさそうな様子だった二乃子だが、いざ買い物に連れてきてみると、ノリノリで買い物を楽しんでいた。
「満殿、この小さめの麻の敷物も買って縁側に引きましょう。相談に来る方たちを縁側で対応しましょう。」
相談に来る方たち、というのは日ごろ怪奇現象に悩まされ、藁にもすがる思いで二乃子に相談に来る人々だ。
二乃子はいつも丁寧に対応し、お札を書いて渡している。
改善しました!という人も多くいるので、よく効くお札なのだろう。
「お札用の紙も買わないといけないですね…。」
「特別な紙なんですか?」
「いや、何でもいいんですけど、丈夫な方が長持ちするので。」
敷物などの会計を済ませて戻ると、二乃子は客の女性たちと話し込んでいた。
「そうなのよ。白い犬が現れて市民街の方へ消えていくんですって。」
「何か害があるわけではないんでけど、不気味よね。」
「時間はいつも夜でね。この前仕事で遅くなった主人が見てしまったらしくて、その夜は眠れなかったわ。」
「どのあたりで見られたか、教えていただけますか?」
…何の話だ?怪奇現象の話?白い犬?
会話が終わったところで二乃子に声をかけた。
「二乃子殿、今のは何の話で?」
「巫覡院の相談の中に、どうも気のせいで片付けられなさそうなものがあって。調査してるんです。」
「…今日は休日ですよね?」
「はい。この話を調べるために休日にしました。」
どうやら俺と休日の定義が違うようだ。
この後に行った茶器の店でも茶葉の店でも、二乃子は同じように客に質問をしていた。
買い物を済ませれば、時間はすでにおやつ時。お昼をまた食べ損ねてしまっている。
「二乃子殿、お腹がすきませんか?お店に入って休憩しましょう。」
二乃子は地図を見ていた顔をあげた。少しきょとんとしている。
「もうそんな時間でしたか。そうですね。何か食べましょう。」
ーーーー
「え、夜に出かけるんですか?」
荷物を持って九条邸に戻ってきたのは夕方だった。そこから準備をしてまた出かけると二乃子は言う。
「満殿はお留守番されていても大丈夫です。私一人で行ってきます。」
「いや、それは巫覡院の仕事なんですよね?さきほどの白い犬?についてですか?」
「はい。」
二乃子は縁側に地図を広げた。地図にはいろいろな線が引かれている。どの線も市民街の外れから中央付近へと伸びている。
「これは謎の白い生き物も目撃情報です。すべて市民街の外から中へ向かいます。消えるところは…」
二乃子は一点を示した。
「この家の周りでよく目撃されています。」
二乃子はシャツにロングスカートという姿で朝食の席に現れた。
「おそようございます。もうみんな出かけてしまっていますよ。」
「なんか九条邸ってよく眠れるんですよね。」
いや、きっと寝具の問題だろう。巫覡院ではずっと雑魚寝だったのだから。
先ほど布団に関しては九条家の古くなったものをもらい受けることで誠二と話がついた。
「今日ですが、まず敷物や茶器を買いましょう。あまり高いものは買えないので竹田街に行きますよ。」
都のお買い物スポットは大きく三つある。
貴族御用達の高級店が並ぶ、貴族街。
幅広く様々な商店が立ち並ぶ商人の町、竹田街。
異人たちが店を構える異国情緒あふれる、異人街。
「竹田街って市民街から近いですか?」
「ええ、隣接してますけど。」
「それはちょうどいいですね。」
何がちょうどいいんだろう。
ーーーー
昨日はあまり気乗りしなさそうな様子だった二乃子だが、いざ買い物に連れてきてみると、ノリノリで買い物を楽しんでいた。
「満殿、この小さめの麻の敷物も買って縁側に引きましょう。相談に来る方たちを縁側で対応しましょう。」
相談に来る方たち、というのは日ごろ怪奇現象に悩まされ、藁にもすがる思いで二乃子に相談に来る人々だ。
二乃子はいつも丁寧に対応し、お札を書いて渡している。
改善しました!という人も多くいるので、よく効くお札なのだろう。
「お札用の紙も買わないといけないですね…。」
「特別な紙なんですか?」
「いや、何でもいいんですけど、丈夫な方が長持ちするので。」
敷物などの会計を済ませて戻ると、二乃子は客の女性たちと話し込んでいた。
「そうなのよ。白い犬が現れて市民街の方へ消えていくんですって。」
「何か害があるわけではないんでけど、不気味よね。」
「時間はいつも夜でね。この前仕事で遅くなった主人が見てしまったらしくて、その夜は眠れなかったわ。」
「どのあたりで見られたか、教えていただけますか?」
…何の話だ?怪奇現象の話?白い犬?
会話が終わったところで二乃子に声をかけた。
「二乃子殿、今のは何の話で?」
「巫覡院の相談の中に、どうも気のせいで片付けられなさそうなものがあって。調査してるんです。」
「…今日は休日ですよね?」
「はい。この話を調べるために休日にしました。」
どうやら俺と休日の定義が違うようだ。
この後に行った茶器の店でも茶葉の店でも、二乃子は同じように客に質問をしていた。
買い物を済ませれば、時間はすでにおやつ時。お昼をまた食べ損ねてしまっている。
「二乃子殿、お腹がすきませんか?お店に入って休憩しましょう。」
二乃子は地図を見ていた顔をあげた。少しきょとんとしている。
「もうそんな時間でしたか。そうですね。何か食べましょう。」
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「え、夜に出かけるんですか?」
荷物を持って九条邸に戻ってきたのは夕方だった。そこから準備をしてまた出かけると二乃子は言う。
「満殿はお留守番されていても大丈夫です。私一人で行ってきます。」
「いや、それは巫覡院の仕事なんですよね?さきほどの白い犬?についてですか?」
「はい。」
二乃子は縁側に地図を広げた。地図にはいろいろな線が引かれている。どの線も市民街の外れから中央付近へと伸びている。
「これは謎の白い生き物も目撃情報です。すべて市民街の外から中へ向かいます。消えるところは…」
二乃子は一点を示した。
「この家の周りでよく目撃されています。」
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