救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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6 新米巫覡、情報を集める

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帝との最初の謁見で二乃子はお后を紹介された。

「后の天花てんかだ。九条将軍の末娘にもあたる。」

つまりお二人は従兄弟同士でもある。

お后様は少し膨らんだお腹を抱えていた。

「まだ公表していないが、天花は私の子を妊娠中だ。二乃子にはこの子を守ってほしい。」

ーーーー

それからの一週間、二乃子は城下の異変についての情報を集めていた。

子を守れとは言われたが具体的な指示はなく、どうやら試されているようだった。何かが起きていて巫覡院の運用が試運転と銘打って始まったのだろう。
それを任せられる巫覡に二乃子が育っているのか、きっと試されているのだ。

ふと上空を見上げれば薄青い半透明の膜のようなものが城全体を覆っていることがわかる。
これは初代の帝の代からある伝説級の結界だ。
妖たちは入ってくることができない。
このため城内ではそういった怪奇現象はほとんど起きないのだ。

ゆえに城下である。

情報は、気のせいなものまで含めて、たくさん集まっている。
人は悪いものだと思ってみると悪いものが見えてしまうからだ。
そういう人にはおまじない程度のお札を渡しておけばいい。

本物らしい報告が、一つ。
二乃子の手元にあった。

ーーーー

「二乃子、何を始めるんだ?」

二乃子は巫覡院のある平屋を囲うように大きな円を描いていた。
満と陽己を円の内側に入れ、自分も内側に立つ。両手には鈴のたくさんついたハンドベルのようなものを持つ。

「今から、この家の周りに結界をはります。」

「結界!」

陽己の目が輝く。満は少しいぶかしげだ。

「俺たちも入れなくなったり、出れなくなったりするんですか?」

「いいえ。これは閉じ込める類のものではなく、訪問者と住人を識別するためのものです。
ずっと来る人を予知しているのも大変なので、私たち以外の人がやってくると鈴が鳴るようにします。」

二乃子が鈴を鳴らすと円を描いた線がひかり膜のようなものが家を覆って、やがて薄くなっていった。

最後に居間に鈴をつるして終わりだ。

「満殿。」

「はい。」

「明日は休日にしましょう。」

満の目が輝いた。そんなに働かせてしまっただろうか…。

「それはいいですね!用意したいものもたくさんありますし、買い物にいきましょうか。」

「用意したいもの…?」

「仮眠室の環境を整えたいんです。布団や枕を九条家から搬入するか、新しく買いましょう。
あと来客も増えてきたので、居間を小ぎれいにしないと。机の劣化も目立つので、買い替えるか、クロスで隠すか…。」

「あーわかりました。」

全部満に任せよう。それがいい。そうしよう。

「満殿に任せます。」

「何言ってるんですか、一緒に買いに行きますよ。」

「え。」

「あなたがボスなんですから。俺は予算を確認しておきますね。」
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