理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき

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第四章 無計画なプロポーズ

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翌朝、朝食に現れたキャサリンはいつも通りに化粧をし、髪をセットしていた。

「おはようございます、旦那様。昨日はだったようですね。」

「本邸で騒ぎを起こしてしまい、申し訳なかった。」

「ええ、本当に。」

まじまじとキャサリンの顔を見る。いつも通りのきつい目つきだ。しかし、昨日の姿を思い出せば不思議とそれが化粧だとわかる。きつめの美人だったはずのキャサリンが可愛く見えてくるから不思議だ。


「あ、あの。」

「はい。」

「マリアは屋敷から出そうと思う。」

「他の屋敷で囲われる、ということですか?」

「いや、お金を渡して、田舎で過ごしてもらおうと思う。」

「まあ。」

キャサリンは驚いた顔をして、ちらりとヨーゼフの後ろを見た。そこにいるのはペーターであるからその反応を確認したのだろう。

「よろしいのではないですか。あのように騒がれてはこちらの屋敷においておけませんし、旦那様が愛想を尽かされるのもわかります。」

「いや…。」

反論しようとして押し黙る。ヨーゼフがマリアに愛想を尽かしたというのはその通りだからだ。

「そうだな。もう、君の視界には入らないところに彼女を送るよ。」


その後、ヨーゼフはマリアを屋敷から出すために動いた。ペーターがかなり前から移送先には目星をつけていたようで、臣籍降下時に譲り受けた領地にある修道院が選ばれた。

監視のない状況にマリアを追いやると何をしでかすかわからないとヨーゼフ自身が思ったため、修道院は都合がよかった。多額の寄付金とともに最後までマリアの面倒を見るように頼んだ。


ヨーゼフ自身にも大きな外交案件があったため、マリアの引っ越しは時間をかけずに粛々と行われた。


マリア自身、文句も言わずに従った。

「マリア、すまない。」

「いいの。ヨーゼフ様がのだから、愛人がいらないのは当然よ。」

マリアの言い方には棘があったが、憑き物が落ちたかのように清々しくもあった。そして、ヨーゼフを傷つけることに躊躇がなくなっていた。

「よかったわ。私に女としての魅力がなくなったわけじゃなくて。ヨーゼフ様がだけで。」

そうして、マリアはちゃっかりとヨーゼフが与えたドレスや宝石のすべてを持って修道院へと旅立っていった。そんなものを持っていたって使う機会はない生活なのだが。


こうして12年にもわたり、愛人であったマリアはヨーゼフの下を去ったのだ。



ーーーー



ヨーゼフ自身もゆっくりはしていられなかった。


ずっとブルテンと海戦をしていたポートレット帝国で反乱がおき、皇帝が倒されたのだ。


新しく皇帝となったのは不遇だった第一皇子で、ただちに終戦を宣言した。春には終戦協定を結ぶためにブルテンに新皇帝がやってくる。

それに合わせてヨーゼフもブルテン入りしなければならない。ヒューゲンの王都からブルテンの王都まではどんなに短く見積もっても一か月はかかる。しかも、船に乗るので余裕をもって出発しなければならない。

マリアが出て行ったわずか一週間後、ヨーゼフは出発しなければならなかった。そして春の会談に参加した後は皇帝と共にエスパルに向かい、皇帝を連れてヒューゲンに戻る。全てを終えるのは夏だろう。

「せっかくブルテンでの外交なのに連れていけなくてすまない。」

「問題ございません。ポートレット帝国の皇帝陛下をお迎えする準備をしておきます。」

「ああ。頼む。」

これから少なく見積もっても半年はまともにキャサリンとは会えないだろう。そう思うととても寂しい。


「キャサリン。」

「はい。」

「帰ってきたらゆっくり今後について話がしたい。」

「かしこまりました。」

「行ってくる。」


ヨーゼフはブルテンへ向けて旅立った。よく晴れた冬の朝のことだった。


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