理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
30 / 56
第三章 無計画な告白

裏/ベネディクト・ダンフォード

しおりを挟む
「あっはっははははは!なんだそれは!」

オールディー滞在の最後の夜、ベネディクトは兄妹水入らずで話したいと、嫁いだ妹をブルテン大使館に呼び出して夕食を共にしていた。

「いや、報告の通りの男だな、ヨーゼフ・バッツドルフは。」

げんなりした顔で好物の食後の紅茶を飲んでいる妹を見ながら、ベネディクトはにんまりする。向かいの妹、キャサリンは紅茶を一口飲んで嫌そうにわずかに眉を寄せた。

「私の好きな紅茶じゃありません。」

「なぜ俺がお前の好きな紅茶を出してやらなきゃならない。」


ダンフォード公爵家は数代前に王弟が立ち上げた一族だ。内政に外交に存在感のある一族であるが、その存在感をもたらしているのが、圧倒的な諜報能力の高さである。

ダンフォード家の五人兄弟のそれぞれが独自の諜報網を持ち、情報を集めている。長男のアンブローズは内政に関わる国内貴族の情報を、次男のベネディクトは外交に関わる諸外国の情報を、長女のキャサリンは社交に関わる流行や家庭内のプライベートな情報を、それぞれ独自に集めて定期的に情報交換をしていた。

キャサリンが他国に嫁いだ今、その役目は次女のドローレスに引き継がれているが、キャサリン独自の情報網はヒューゲン国内に展開されている。キャサリンがバッツドルフ邸を瞬く間に掌握し、ヒューゲン社交界にあっという間に馴染むのもあたりまえだろう。


「お前はさすがに今回のデジレ元王女の暴言は怒っていたな。」

「私が怒るような情報を彼女に吹き込んだのはお兄様でしょう?」

「お見通しか?」

「コンスタンス女王が妹のデジレ元王女とそれを過剰に可愛がる前国王を疎ましく思っていたことは何年も前からです。実際、コンスタンス女王はダンスフロアから戻らないという形で静観していました。
前々から示し合わせていたのか、お兄様が勝手にやったのかは知りませんけれど。」

コンスタンス王女は近隣諸国の王族の中でも群を抜いて腹黒い。それはもう真っ黒だ。仲のいい友人だろうと、お世話になった恩師だろうと、かわいがっている部下だろうと、関係なく囮に使うし、罠に嵌めるし、権力を奪う。疎ましい妹なんて、気にするはずがない。

妹を怒らせるという形でヒューゲンまで巻き込んで大事にしたのはベネディクトの独断だ。これでオールディーはブルテンと帝国の戦への援助を約束してくれるだろう。


「周囲には亡くなった元婚約者を侮辱されての怒りに見えただろうな。」

「それで構いませんわ。」

別にキャサリンは過去の婚約者たちに惚れていたわけではない。王太子のことは全くタイプではなかったようだし、戦死した将軍は父と同年代の男だった。ただ、キャサリンは将軍の娘を気に入っていたので、将軍に嫁ぐことは実は楽しみにしていたようだ。

家族にしかわからない些細な変化ではあったが。


「にしても、お前の夫は人が良すぎるな。それに純粋すぎるだろう。」

王族として育ってきたが故の無神経さはキャサリンは嫌いなところだろう。婚前の下調べでもほぼ愛想を尽かしている愛人を責任感だけで囲い続けていることはわかっていた。若気の至りを上手く清算できないのは優しすぎるからだろう。

「それでこのまま白い結婚を続けるとして、お前はどうするんだ?」

「どう、と言いましても、戦が続く間はどうにもできないでしょう?それにヒューゲンを裏からぐちゃぐちゃにすることも楽しそうで。」

キャサリンは悪い顔でにっこりと笑う。

「ヒューゲンに根付く男尊女卑は根強いもの。切れ者と噂の国王陛下であっても、女に何ができるのかと私のことはノーマークです。こちらにいる間にダンフォード家の、ブルテンの利になるようにいじってみるわ。」

「ああ、怖いね。」

キャサリンの素顔と本性を知るものは恐れるだろう。ギャップがすごすぎる。化粧で本性に顔の方を寄せているが、幼い頃はすっぴんの状態でこのようなことを言うものだから、よく末の弟が怖がっていた。


「もしかしたら、案外早く戦は終わるかもしれないよ。」

そうして、ベネディクトはキャサリンが持っていないだろう特ダネを与えた。


しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

処理中です...