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第三章 無計画な告白

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キャサリンの雰囲気に気圧されたように周囲が静まり返り、デジレも口をつぐむ。


「ブルテンの海軍は世界最強を謳われています。確かに、帝国に対して昨年、大敗をしましたが、その後は負けておりません。今年になってからはむしろ勝利を重ね、帝国軍を追い払っています。今年も無事に海を守り切るでしょう。」

キャサリンの言葉は静かだったが、怒りを伴っており、周囲によく届いた。

「ブルテンが海で戦うのは帝国軍の侵略をくい止めるためです。それはブルテンだけの問題ではありません。あなたは北でいくつもの国が帝国に侵攻されているのを知らないのですか?海を制されれば、帝国はヒューゲン・エスパルのみならず、オールディーにも攻め入るでしょう。
我々が戦うのは自国を含む周辺国の安全のためです。それをなさけないこととは、嘆かわしい!はっきりと言わないとわからない様なので申し上げましょう!
あなたに一国の王女たる資格はありません!」

キャサリンが握りしめていた扇子がびきりと音をたてた。


「国のために命を懸けて戦う兵士たち、その死を笑いものにするなど、誇りのないこと。王族はただそこにいれば、美しいドレスを着て、美しい殿方と結婚できる、そんな馬鹿みたいな存在だとお思いですか?
、たしかにこのお目出たい日には最適ですね。」


にっこりと笑うキャサリンにヨーゼフはドキドキしてしまった。そこにいるキャサリンが高貴な姫に見えたのだ。あの絵本の姫ならば、同じように国の兵を馬鹿にされたら怒るのではないだろうか。
ああ、なぜキャサリン、君は……。


「妹の言う通りですね。これは我がブルテンへのオールディーからの宣戦布告とさせていただきます。」

惚けていたヨーゼフの前にベネディクトが現れた。

「女王陛下に免じて、不問としますが、オールディー国には対応を求めます。」

人ごみがさっと別れ、奥からコンスタンス女王が現れた。

「ベネディクト殿、キャサリン夫人、妹が大変な失礼をいたしました。駆け付けるのが遅くなり、申し訳ありません。不快な思いをさせたことを重ねて謝罪させてください。」

女王は流ちょうなブルテン語でそう言うと頭を下げた。そしてオールディー語に切り替えて、その場に宣言する。

「デジレは大変な不敬を働きました。これはブルテンとオールディーの絆を揺るがすものです。責任をとり、デジレは王族籍をはく奪し、北の塔へ入れます。」

「お、お姉さま!?」

オールディーの人々がざわついている。北の塔が何かはわからなかっただ、王族籍をはく奪されるのは重たい処分だ。

「ま、待て、コンスタンス!何を勝手に宣言している!」

元国王陛下が慌ててやってくるが、コンスタンスは首を振る。

「父上、デジレが戦争の火種になってもいいのですか?」

「しかし、北の塔など!私は許さんぞ!」

「では父上も戦争をしたいのですね。一緒に仲良く北の塔にお入りください。」

「な!?」

「衛兵!デジレを貴族牢に!」

デジレ元王女の喚く声は、衛兵に引きずられていくことによって小さくなって、やがて聞こえなくなった。



ーーーー



コンスタンス女王から丁寧な謝罪を受けてヨーゼフたちは大使館へと戻る馬車へと乗った。

「今日はすまなかった。」

「…旦那様が謝られることではありませんわ。」

馬車の扉が閉まるとキャサリンは握りしめていた扇子を手放した。見事にヒビが入った扇子が現れる。

「しかし、もとはと言えば私がデジレ王女を諦めさせられなかったことが原因にある。君が今日嫌な思いをすることもなかったはずだ。」

「はあ…。」

キャサリンは面倒くさそうにいなしているが、気分が高揚していたヨーゼフは気づかなかった。


「今日の君は王族にも負けない高貴さだった。とても好ましく思ったよ。」

キャサリンは怪訝な表情でヨーゼフを見ている。確かに今日、ヨーゼフはキャサリンに運命の姫の片りんを見た。その高貴さはほれぼれするものだった。それだけではない。高い教養に他国の王族や大使たちと渡り合う姿もそうだ。

ああ、本当に…。


「君がかわいらしければ完璧に私の”運命の姫”だったのに。」


ポロっと口から出た言葉。しかし、二人しかいない馬車の中で良く響いた。


「まあ、そうですか。」

温度の伴わない声にはっとして顔をあげると、キャサリンはヒビの入った扇子を開いて口元を隠していた。


「旦那様にはが屋敷でお待ちですもの。他にを求める必要など全くありませんわ。早くの下に帰りましょうね。」

「あ、いや、そうでは…。」

「私も旦那様のように運命の相手とですわ。」

遠回しに私の理想もお前ではない、と言われてしまった。


なぜかそのことがヨーゼフにはとてもショックだった。



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