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第二章 無計画な白い結婚

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「兄上、しかし、私にはマリアが…。」

「お前が相変わらずあの女を屋敷で囲っていることは知っている。しかし、この婚姻は決定事項だ。覆ることはない。」

軍事同盟に関わる婚姻だ。王族としての務めである。

「別に愛人を追い出せとは言わない。どのように扱うかは嫁いでくる令嬢と相談して決めればいい。何しろ、日がないからな。」

「日がない…とは?」

「令嬢は秋に嫁いでくる。三か月後だ。」

「三か月!?」

ヨーゼフは目を剥いた。王族の婚姻としてはありえないスピードだ。それほどに、戦況は切羽詰まっており、形だけでもさっさと整えたいと言うのが透けて見える。

「すでに書類上は婚約が成立している。お前に否やは認めない。早急に屋敷にて令嬢を正妻として迎える準備を整えろ。」

「結婚式などはどうするのです?」

「令嬢側の準備は整っている。お前も正装を用意しておけ。」

「準備は整っているって…。」

結婚式の準備には長い時間をかけるものだ。それをもうできているだなんて。他国の一令嬢の動向まではさすがに把握していなかったヨーゼフにも何が起きているのかわからない。

「話は以上だ。ただちに準備をするように。」


ヨーゼフの意見は一切関係なく、結婚が決まってしまった。



ーーーー



「嫌よ!」

マリアは結婚の話を聞いて泣き叫んだ。

「ヨーゼフ様には私一人だけだと言ったじゃない!それを今更妻だなんて!」

「マリア、臣籍降下したと言っても、私は王弟だ。国の危機には協力しなければ。」

「その令嬢に子供を産ませる気なのでしょう!」

「そ、そんなことはない!」

マリアはヒステリックにヨーゼフに縋りついた。

「お願い、ヨーゼフ様…。妻との間に子供は作らないと誓って…。妻がいるだけでも嫌なのに…、そんな夫婦としての時間まで過ごされてしまったら…、私…。」

マリアが哀れだった。

「わかったよ、マリア。妻として丁重に迎えるが、体の関係は持たないよ。子供も、もちろんいらないから。」

マリアはヨーゼフの言葉を聞き、嬉しそうに笑った。


「いいのですか?」

その場に同席していた家令のペーターは執務室に戻ると、気づかわし気にヨーゼフに尋ねた。ペーターは父よりも年上のベテランの家令であり、ヨーゼフが独立する際に心配だからと城からついてきてくれた男だ。

「ああ。構わない。」

ヨーゼフは部下から提出された結婚相手である令嬢の情報と絵姿をペーターに見せた。


「キャサリン・ダンフォード嬢は春に戦死されたアーチボルト将軍の後妻に入る予定だったらしい。だから婚姻の準備も整っているんだ。しかし、将軍が戦死され、嫁ぎ先をなくし、行き遅れかけていた。」

「王太子の婚約者であられたので、実に優秀ですね。異国語も堪能で、ヨーゼフ様のパートナーとしてふさわしいではないですか。」

「ああ。そうだな。しかし、仕事に連れて行けばマリアが怒る。」

「…失礼ながら、ヨーゼフ様のお心はすでに離れの方にはないように思いますが。」

「そんなことはない!」

ヨーゼフは机をたたいて立ち上がった。

「私はマリアを愛している!愛しているんだ!」

ヨーゼフははっとして着席をし直す。そして咳ばらいを二つ。

「なのでキャサリン嬢とは白い結婚にしようと思う。」

「若くお綺麗な令嬢ですのに…。」

「確かに若いが私の好みではない。」


キャサリンの姿絵には目つきの強い、金髪のきつい巻き髪の令嬢が描かれていた。マリアにも運命の姫の要素は亡くなっていたが、キャサリンは性格がきつそうでさらにかけ離れた令嬢に見えた。
水色の瞳だけは姫に近いかもしれないが。

「運命の姫からかけ離れているから、私に彼女は抱けなかっただろう。」

「…またそれですか。最近はあちら様ともご無沙汰だと聞いていますが。」

「そ、それは…。」

最近、ヨーゼフはあの絵本を読み返していた。見れば見るほど、マリアと運命の姫は違うような気がして、半年ほどマリアとはご無沙汰である。


「あちら様が最近不安定なのはヨーゼフ様のせいでもあると思いますよ。」


それがどういう意味なのか、ヨーゼフには理解できなかった。


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