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5 永遠姫と新しい家族
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国一番勢いのある九条家には六歳の好奇心旺盛なお姫様がいた。一緒に勉強するお友達を得てからはちょっとだけ協調性を身に着けて今日も元気に遊んでいる。
お姫様の名前は永遠。最近は学友の誠二とかけっこをすることにハマっているアクティブな女の子である。
いつも永遠と誠二の元気な声が響いている九条家も、今日は少し静かだった。
「母上、大丈夫なのかな?あさごはん、食べれなかったんだよ?」
「きっと大丈夫ですよ。診察が終わるまで待ちましょうね、姫様。」
やがて頭を下げながら、「また来ますね」と言って医師が部屋を出て行った。朝子がそれに付き添って門まで医師を送っていく。
入れ替わるように永遠が母の休んでいる部屋に駆け込んだ。
「母上!大丈夫!?」
永遠は母に抱き着こうと駆け寄ったのを寸前で止まり、母がおいでと手招きしてくれるのを確認してから母に抱き着いた。
「大丈夫だ、永遠。誠二もおいで。」
誠二は部屋の入口のところで心配そうに部屋の中を覗き込んでいたが、母の声掛けで部屋に入ってきて、母が座る布団の横に座った。
「二人に大事な話があるんだ。」
永遠はごくりと息をのんで誠二の隣に正座した。
「お腹に赤ん坊ができた。」
二人がきょとんとする。
「来年の夏に永遠に弟か、妹ができるぞ。」
その言葉は徐々にゆっくりと永遠の頭に染みて行った。弟か、妹ができる?つまりそれは…?
「とわ!あねうえになる!!」
「そうだな、永遠は姉上になるんだ。」
「おなか?おなかに赤ちゃんいるの?でも母上のおなかに入るかな?」
母は勢いよくしゃべり始めた永遠に苦笑しながらその手をとり、お腹にあてた。
「赤ちゃんはまだ小さいんだ。だからわからないけど、これから大きくなっていくんだ。」
永遠は「母上のおなかがはぜちゃう?」「赤ちゃんはどこからでてくる?」「すぐには会えないの?」と母を質問攻めにしたが、母はその一つ一つに丁寧に答えてくれた。その後、そわそわしていた誠二の手も取り、お腹にあててあげていた。
誠二も兄はいるが弟妹はいないので妊娠している女性を見るのは初めてだ。
「さて、これから姉上と兄上代わりになる永遠と誠二には守ってもらわないといけないことがある。特に永遠。」
「はい!」
「母上はこれからしばらく走ったり、早く動いたりできない。だから母上と一緒に出掛ける時に、勝手に走って行ってはいけない。あと、母上に走って抱き着いてはいけない。赤ちゃんが驚いてしまうからな。」
永遠にとっては我慢の日々が始まった。
ー---
そうして次の年の夏の夜、永遠は父とともに母の部屋に通された。そこには寝間着姿で布団に横になる母と、そばに控える朝子、そしておくるみにくるまれた双子の赤ん坊がいた。
「え?赤ちゃん二人いるの?どっちがとわの弟?」
「どっちも永遠の弟だ。」
しわくちゃの顔をした二人の赤ちゃんはすやすやと眠っていた。父と母が「この子たちは母親似だね」「まだ顔なんてわからないだろう」とか話している間、永遠の目は小さな弟たちにくぎ付けだった。
その後、帰る時間になっても帰らずにいた誠二が鳴海と入室して、弟たちを見に来たときも永遠は微動だにせず赤ん坊をずっと見ていた。
ー---
赤ん坊たちの名前は王族っぽい名前を父がいくつか考えて帝が決めることになっているらしく、まだついていない。双子の赤ん坊は顔がそっくりであるため、後から生まれた方の右手には青いリボンが巻かれていた。
なので、一時的に上の子を赤ちゃん、下の子を青ちゃん、と永遠は呼んでいた。
最初の内は「赤ちゃん、青ちゃん、かわいいね!」と飽きずに双子を眺めていた永遠だったが、一週間もするとそれに飽き、いつものように誠二と遊ぶようになった。
双子が生まれて変わったのは、父と母が永遠に構ってくれる時間が減ったことだ。
「母上!今日は”近”の字を書いたよ!次は…。」
「悪い、永遠。ようやく双子が寝て、今から仕事をしないといけないんだ。ごめんな、またあとで。」
長い髪を揺らしながら足早に去っていく母を永遠は見送ることしかできなかった。赤ちゃんは寝つきもよくて夜泣きもしないいい子なのだが、青ちゃんの方はちょっと気に入らないことがあると大きな声で泣き始める。しかも、母か朝子じゃないと泣き止まないときた。おかげで母は青ちゃんが泣くたびに朝子と交代で駆り出されて仕事にならない。
「あ、父上!おかえりなさい!」
母と入れ替わりで父がやってきた。
「永遠、誠二、母上を見なかったかい?」
「母上、さっき仕事があるって言ってしょさいに行ったよ。」
「ああ、ありがとう。」
「父上!あのね、とわね…。」
「ごめんね、永遠。父上は母上に用事があるから、ちょっと待っていてくれるかい?」
背の高い父は長い脚でずんずんと廊下を進んでいく。永遠は見送ることしかできなかった。青ちゃんの泣きわめきで母の仕事が遅れ、結果、どういう訳か父の仕事にも影響が出ているそうだ。「双子のために人員を増やしたはずなのに、これは想定外だなあ」と父はのん気に言っていたが、父と母に甘えられない永遠はたまったものではない。
「父上…。母上…。」
永遠の目にみるみると涙がたまっていく。誠二が「とわ…?」と困ったように声をかけてくるが、永遠はそれどころではない。口をへの字に曲げて一生懸命涙をこらえていた。
「とわ、いっしょにすごろくする?」
「すごろく!する!」
というように、誠二がいる日はいいのだが…。
ー---
誠二は週に四日、最近は五日程度しか九条家に来ない。この日は誠二が来ない日だった。永遠はすやすやと眠る双子の横で双子を睨みつけるように仁王立ちしていた。
「姫様…何をしているのかしら?」
「若様たちに…怒っていらっしゃるのかしら?」
「まさか手をあげたりはしないわよね…?」
部屋に控えていた女中たちはそわそわと永遠と双子たちを見守っている。
やがて双子の片方、青いリボンをつけた青ちゃんが顔をムズムズさせて目を開く。永遠とぱちりと目が合うと顔をゆがめて大声で泣き始めた。
「泣いちゃダメ!泣いちゃダメなんだよ!!」
永遠は突然に大声をあげるとつられて青ちゃんもさらに大きな声で泣き始めた。永遠は「泣いちゃダメー!!」と言いながら、青ちゃんにつかみかかろうとして女中たちに止められる。
「青ちゃんがわるいんだよ!父上と母上を困らせるのがいけないんだよ!泣いちゃだめなんだよ!!」
「姫様…。」
「…ううううぅぅぅぅ~っ!」
永遠の目にみるみると涙がたまり、やがて大声で泣き始めた。青ちゃんと永遠の泣き声二重奏は赤ちゃんの耳に入り、驚いた赤ちゃんの泣き声も響き始め三重奏となった。
赤ちゃんと青ちゃんに泣かれてしまった永遠はさらに声を張り上げて泣いた。永遠の泣き声は一際大きく、屋敷中に響き渡り、書斎にいた母と朝子を呼び寄せた。
「永遠!どうしたんだ?」
うずくまって泣きわめく永遠を母は真っ先に抱き起してくれた。永遠はずっと「ぐすっ」「ううう」「いやーあー!」と泣き続けるので、母の顔が涙ににじんでよく見えない。
「永遠、泣いてばかりじゃ母上にはわからないぞ。」
「あおぢゃんがー!なぐがらー!ああうえがー!」
永遠は最後まで言い切れず「うわあああああ!」と再び泣き始めたが、頭のいい母はそれですべてを理解してくれた。
「そうか、永遠は母上のために弟たちを怒ってくれたんだな?」
「ぐうんっ…。」
永遠は変な声を出しながら大きく頷いた。母は苦笑して永遠の頭をぽんぽんと叩くと、自然と永遠の涙も止まった。えぐえぐ言いながら母に抱き着いて抱きしめてもらっていると、母に「弟たちをみてごらん」と言われて見てみると、双子はまん丸に目を見開いて永遠を見ていた。もう泣いていない。
「永遠のおかげで二人とも泣き止んでくれたみたいだな。」
「とわのおかげ!?」
「しゃっくりと同じだろう。」
驚いて泣き止んだのだろうと母は言いたかったのだが、永遠は聞いていなかった。赤ちゃんと青ちゃんは母と朝子だけじゃなく、永遠の前でも泣き止むのだ、と永遠は思い込んだ。
「じゃあこれからはとわが赤ちゃんと青ちゃんのおせわする!」
何か勘違いしているらしいことを母は察したが、問題があるまでは放っておくことにした。
「…だから、母上、もっと永遠と遊んでくれる?」
永遠が必殺の上目遣いで母を見上げたが、母はその必殺技を受けすぎていてもう効かない。永遠を見ながらどうしようかと考える。
「じゃあ、母上が永遠と遊ぶ分は永遠が弟たちと遊んであげるんだぞ?」
「うん!」
「母上の分も弟たちを守れるか?」
「うん!!」
母に満足そうに頷かれると、永遠の決意も強くなる。今日から永遠が父上と母上の分も弟たちを守ってあげるのだ。
この日から、永遠のこの世で一番好きなものは父上と母上と二人の弟になった。
ー---
永遠は青ちゃんの泣き声を聞くと双子の下に駆けつけた。最初は泣き止まなかった青ちゃんも、最近は永遠のめんどくささに泣き止むようになった。
赤ちゃんは永遠が大好きで、永遠が来るたびに嬉しそうに笑い声をあげてくれる。
「赤ちゃんと青ちゃんはとわ姉上が守ってあげるからね!」
「あーあー!」
「見て、これとわ姉上の名前にも入ってる”遠”の字だよ!上手に書けたでしょ?」
そう言って永遠は双子の上に手習いの紙を広げて見せる。最近は父と母よりも先に弟たちに手習いの成果を見せるのだ。
「赤ちゃんと青ちゃんが大きくなったら姉上が漢字をおしえてあげるからね!」
「あーあー!」
毎日嬉しそうに弟たちにくっつく永遠の姿は九条家の名物となり、訪れる人を楽しませたという。双子がお買い物デビューをして城下に現れると、甲斐甲斐しく引っ付いて回る永遠の姿に城下中の子供が弟を欲しがったとか。
「永遠、まだ弟たちを赤ちゃん、青ちゃんって呼ぶけど…とっくに名前付いてるよね?」
双子の部屋には彼らの名前を記した書が飾られているのに、と父は困った顔で母を振り返った。母は「そのうち治るだろう」と肩をすくめた。
お姫様の名前は永遠。最近は学友の誠二とかけっこをすることにハマっているアクティブな女の子である。
いつも永遠と誠二の元気な声が響いている九条家も、今日は少し静かだった。
「母上、大丈夫なのかな?あさごはん、食べれなかったんだよ?」
「きっと大丈夫ですよ。診察が終わるまで待ちましょうね、姫様。」
やがて頭を下げながら、「また来ますね」と言って医師が部屋を出て行った。朝子がそれに付き添って門まで医師を送っていく。
入れ替わるように永遠が母の休んでいる部屋に駆け込んだ。
「母上!大丈夫!?」
永遠は母に抱き着こうと駆け寄ったのを寸前で止まり、母がおいでと手招きしてくれるのを確認してから母に抱き着いた。
「大丈夫だ、永遠。誠二もおいで。」
誠二は部屋の入口のところで心配そうに部屋の中を覗き込んでいたが、母の声掛けで部屋に入ってきて、母が座る布団の横に座った。
「二人に大事な話があるんだ。」
永遠はごくりと息をのんで誠二の隣に正座した。
「お腹に赤ん坊ができた。」
二人がきょとんとする。
「来年の夏に永遠に弟か、妹ができるぞ。」
その言葉は徐々にゆっくりと永遠の頭に染みて行った。弟か、妹ができる?つまりそれは…?
「とわ!あねうえになる!!」
「そうだな、永遠は姉上になるんだ。」
「おなか?おなかに赤ちゃんいるの?でも母上のおなかに入るかな?」
母は勢いよくしゃべり始めた永遠に苦笑しながらその手をとり、お腹にあてた。
「赤ちゃんはまだ小さいんだ。だからわからないけど、これから大きくなっていくんだ。」
永遠は「母上のおなかがはぜちゃう?」「赤ちゃんはどこからでてくる?」「すぐには会えないの?」と母を質問攻めにしたが、母はその一つ一つに丁寧に答えてくれた。その後、そわそわしていた誠二の手も取り、お腹にあててあげていた。
誠二も兄はいるが弟妹はいないので妊娠している女性を見るのは初めてだ。
「さて、これから姉上と兄上代わりになる永遠と誠二には守ってもらわないといけないことがある。特に永遠。」
「はい!」
「母上はこれからしばらく走ったり、早く動いたりできない。だから母上と一緒に出掛ける時に、勝手に走って行ってはいけない。あと、母上に走って抱き着いてはいけない。赤ちゃんが驚いてしまうからな。」
永遠にとっては我慢の日々が始まった。
ー---
そうして次の年の夏の夜、永遠は父とともに母の部屋に通された。そこには寝間着姿で布団に横になる母と、そばに控える朝子、そしておくるみにくるまれた双子の赤ん坊がいた。
「え?赤ちゃん二人いるの?どっちがとわの弟?」
「どっちも永遠の弟だ。」
しわくちゃの顔をした二人の赤ちゃんはすやすやと眠っていた。父と母が「この子たちは母親似だね」「まだ顔なんてわからないだろう」とか話している間、永遠の目は小さな弟たちにくぎ付けだった。
その後、帰る時間になっても帰らずにいた誠二が鳴海と入室して、弟たちを見に来たときも永遠は微動だにせず赤ん坊をずっと見ていた。
ー---
赤ん坊たちの名前は王族っぽい名前を父がいくつか考えて帝が決めることになっているらしく、まだついていない。双子の赤ん坊は顔がそっくりであるため、後から生まれた方の右手には青いリボンが巻かれていた。
なので、一時的に上の子を赤ちゃん、下の子を青ちゃん、と永遠は呼んでいた。
最初の内は「赤ちゃん、青ちゃん、かわいいね!」と飽きずに双子を眺めていた永遠だったが、一週間もするとそれに飽き、いつものように誠二と遊ぶようになった。
双子が生まれて変わったのは、父と母が永遠に構ってくれる時間が減ったことだ。
「母上!今日は”近”の字を書いたよ!次は…。」
「悪い、永遠。ようやく双子が寝て、今から仕事をしないといけないんだ。ごめんな、またあとで。」
長い髪を揺らしながら足早に去っていく母を永遠は見送ることしかできなかった。赤ちゃんは寝つきもよくて夜泣きもしないいい子なのだが、青ちゃんの方はちょっと気に入らないことがあると大きな声で泣き始める。しかも、母か朝子じゃないと泣き止まないときた。おかげで母は青ちゃんが泣くたびに朝子と交代で駆り出されて仕事にならない。
「あ、父上!おかえりなさい!」
母と入れ替わりで父がやってきた。
「永遠、誠二、母上を見なかったかい?」
「母上、さっき仕事があるって言ってしょさいに行ったよ。」
「ああ、ありがとう。」
「父上!あのね、とわね…。」
「ごめんね、永遠。父上は母上に用事があるから、ちょっと待っていてくれるかい?」
背の高い父は長い脚でずんずんと廊下を進んでいく。永遠は見送ることしかできなかった。青ちゃんの泣きわめきで母の仕事が遅れ、結果、どういう訳か父の仕事にも影響が出ているそうだ。「双子のために人員を増やしたはずなのに、これは想定外だなあ」と父はのん気に言っていたが、父と母に甘えられない永遠はたまったものではない。
「父上…。母上…。」
永遠の目にみるみると涙がたまっていく。誠二が「とわ…?」と困ったように声をかけてくるが、永遠はそれどころではない。口をへの字に曲げて一生懸命涙をこらえていた。
「とわ、いっしょにすごろくする?」
「すごろく!する!」
というように、誠二がいる日はいいのだが…。
ー---
誠二は週に四日、最近は五日程度しか九条家に来ない。この日は誠二が来ない日だった。永遠はすやすやと眠る双子の横で双子を睨みつけるように仁王立ちしていた。
「姫様…何をしているのかしら?」
「若様たちに…怒っていらっしゃるのかしら?」
「まさか手をあげたりはしないわよね…?」
部屋に控えていた女中たちはそわそわと永遠と双子たちを見守っている。
やがて双子の片方、青いリボンをつけた青ちゃんが顔をムズムズさせて目を開く。永遠とぱちりと目が合うと顔をゆがめて大声で泣き始めた。
「泣いちゃダメ!泣いちゃダメなんだよ!!」
永遠は突然に大声をあげるとつられて青ちゃんもさらに大きな声で泣き始めた。永遠は「泣いちゃダメー!!」と言いながら、青ちゃんにつかみかかろうとして女中たちに止められる。
「青ちゃんがわるいんだよ!父上と母上を困らせるのがいけないんだよ!泣いちゃだめなんだよ!!」
「姫様…。」
「…ううううぅぅぅぅ~っ!」
永遠の目にみるみると涙がたまり、やがて大声で泣き始めた。青ちゃんと永遠の泣き声二重奏は赤ちゃんの耳に入り、驚いた赤ちゃんの泣き声も響き始め三重奏となった。
赤ちゃんと青ちゃんに泣かれてしまった永遠はさらに声を張り上げて泣いた。永遠の泣き声は一際大きく、屋敷中に響き渡り、書斎にいた母と朝子を呼び寄せた。
「永遠!どうしたんだ?」
うずくまって泣きわめく永遠を母は真っ先に抱き起してくれた。永遠はずっと「ぐすっ」「ううう」「いやーあー!」と泣き続けるので、母の顔が涙ににじんでよく見えない。
「永遠、泣いてばかりじゃ母上にはわからないぞ。」
「あおぢゃんがー!なぐがらー!ああうえがー!」
永遠は最後まで言い切れず「うわあああああ!」と再び泣き始めたが、頭のいい母はそれですべてを理解してくれた。
「そうか、永遠は母上のために弟たちを怒ってくれたんだな?」
「ぐうんっ…。」
永遠は変な声を出しながら大きく頷いた。母は苦笑して永遠の頭をぽんぽんと叩くと、自然と永遠の涙も止まった。えぐえぐ言いながら母に抱き着いて抱きしめてもらっていると、母に「弟たちをみてごらん」と言われて見てみると、双子はまん丸に目を見開いて永遠を見ていた。もう泣いていない。
「永遠のおかげで二人とも泣き止んでくれたみたいだな。」
「とわのおかげ!?」
「しゃっくりと同じだろう。」
驚いて泣き止んだのだろうと母は言いたかったのだが、永遠は聞いていなかった。赤ちゃんと青ちゃんは母と朝子だけじゃなく、永遠の前でも泣き止むのだ、と永遠は思い込んだ。
「じゃあこれからはとわが赤ちゃんと青ちゃんのおせわする!」
何か勘違いしているらしいことを母は察したが、問題があるまでは放っておくことにした。
「…だから、母上、もっと永遠と遊んでくれる?」
永遠が必殺の上目遣いで母を見上げたが、母はその必殺技を受けすぎていてもう効かない。永遠を見ながらどうしようかと考える。
「じゃあ、母上が永遠と遊ぶ分は永遠が弟たちと遊んであげるんだぞ?」
「うん!」
「母上の分も弟たちを守れるか?」
「うん!!」
母に満足そうに頷かれると、永遠の決意も強くなる。今日から永遠が父上と母上の分も弟たちを守ってあげるのだ。
この日から、永遠のこの世で一番好きなものは父上と母上と二人の弟になった。
ー---
永遠は青ちゃんの泣き声を聞くと双子の下に駆けつけた。最初は泣き止まなかった青ちゃんも、最近は永遠のめんどくささに泣き止むようになった。
赤ちゃんは永遠が大好きで、永遠が来るたびに嬉しそうに笑い声をあげてくれる。
「赤ちゃんと青ちゃんはとわ姉上が守ってあげるからね!」
「あーあー!」
「見て、これとわ姉上の名前にも入ってる”遠”の字だよ!上手に書けたでしょ?」
そう言って永遠は双子の上に手習いの紙を広げて見せる。最近は父と母よりも先に弟たちに手習いの成果を見せるのだ。
「赤ちゃんと青ちゃんが大きくなったら姉上が漢字をおしえてあげるからね!」
「あーあー!」
毎日嬉しそうに弟たちにくっつく永遠の姿は九条家の名物となり、訪れる人を楽しませたという。双子がお買い物デビューをして城下に現れると、甲斐甲斐しく引っ付いて回る永遠の姿に城下中の子供が弟を欲しがったとか。
「永遠、まだ弟たちを赤ちゃん、青ちゃんって呼ぶけど…とっくに名前付いてるよね?」
双子の部屋には彼らの名前を記した書が飾られているのに、と父は困った顔で母を振り返った。母は「そのうち治るだろう」と肩をすくめた。
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