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エピローグ
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エリーがサマルと正式な婚約を結んだのはそのすぐ後のことだ。結婚式は一年後にアーチボルト領でささやかに行われる。
エリーはサマルに愛されて花開くように綺麗になり、また彼をやきもきさせた。いまだに犬の姿で軍略部隊の会議にまでついてくる姿は、正体を知る一部隊員の失笑をかっている。
二人で参加した初めての社交はセオドア王子殿下の帰還を祝う式典だった。なんと、魔女の呪いで姿を変えられていたセオドア殿下をロンズデール伯爵が発見したらしい。
式典には揃って軍服で参加したが、その後の舞踏会ではドレスを着る予定である。ドレスを着て社交場に出るのは初めてだ。
しかもこのドレス、サマルの見立てなのだが、なかなか恥ずかしい。似合っているのは間違いないのだが。
式典でエリーは初めてエリザベス・オルグレン夫人を見た。彼女はロンズデール伯爵の長女であり、なぜかブラッドリーとではなく、伯爵の家族として式典に参加していた。
小柄で金髪の可愛らしい女性でエリーとは真逆の守ってあげたくなるような可愛らしさがあった。
これでロンズデール家はないがしろにできない家になったし、ブラッドリーも彼女を尊重するようになるだろう。結婚生活にいい噂はあまり聞こえてこないが、彼女の周囲がなるべく心地よい環境になってくれればいい。
にぎわう式典の会場から少し離れた場所で一人休憩していると、背後に気配を感じた。振り返れば、先ほど見たオルグレン夫人がいた。
「もしかして、あなたは…エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢、いえ、アーチボルト少佐でしょうか?」
「はい。オルグレン夫人ですね。お初にお目にかかります。」
オルグレン夫人は困惑したように微笑んだ。小柄な夫人は比較的長身のエリーの口のあたりまでしか背丈がない。ヒールを脱いだらもっと低いだろう。
「この度は、英雄様とご婚約されたそうで、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。オルグレン夫人も御父上のこの度のご活躍、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
オルグレン夫人はエリーと何か話したいようで、そわそわしていた。話をうながそうかと口を開けた時、別の珍客が二人の間に割り込んだ。
「*******…!!!!」
驚いて二人で振り返ると、そこにはポートレット帝国の礼装を来たプラチナブロンドの年下の青年が立っていた。
…どこかで見覚えがある顔な気がする。あと少しで思い出せそうだが、いったい…?
======
父であるロンズデール伯爵の名誉を回復する式典後、にぎわう式典会場から外れたところに佇んでいた軍服の麗人は予想通り、エリザベス・アーチボルト少佐だった。
「この度は、英雄様とご婚約されたそうで、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。オルグレン夫人も御父上のこの度のご活躍、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
無難な挨拶を終えたが、できればエリーはアーチボルト少佐とブラッドリーのことや英雄のことを話したかった。さすがに人がいないとはいえ、この場でするのははばかられる。どうしたものか…。
「*******…!!!!」
突然聞こえてきた見知らぬ言語に二人は驚いて振り返った。すると、そこにはいつかの晩餐でみたポートレット帝国のイヴァン皇子がこちらを指さして立っていた。
そのままずんずんと近寄ってくる。
エリーは冷や汗だ。これまで、アーチボルト少佐はイヴァン皇子から巧妙に隠されてきた。最近はなりふり構わずに探していると聞いたが、まさかこのタイミングで見つかってしまうとは。
「*****?*******!」
イヴァン皇子は少佐の顔をまじまじと見ているが、少佐もエリーも帝国語がわからないので困惑するしかない。
「お久しぶりでございます、イヴァン皇子殿下。アーチボルト少佐に何か御用でしょうか?」
エリーが皇子に話しかけると、皇子ははっとした様子で咳ばらいをする。
「失礼した。私は彼女と戦場であっているので。あの時につけた傷がなく、驚いてしまったんだ。」
このタイミングで少佐は左頬をおさえて「ああ」と言った。
「あの時の帝国兵でしたか。まさか帝国の第三皇子殿下でいらっしゃったとは。」
少佐は彼を覚えていなかったらしい。イヴァン皇子は少し不機嫌になったが、頭を振って切り替える。
「お名前を伺っても?」
「エリザベス・アーチボルトと申します。」
「もしや、フレデリック・アーチボルト大将は…。」
「兄です。」
イヴァン皇子はそれを聞いて「****…。」とつぶやいた。
「エリザベス嬢。強き戦士でもあるあなたにお話があるのです。」
「はあ。」
「あの日、あなたに切られて私は恋をしました。」
「はい???」
イヴァン皇子は、その場に跪き、少しもったいぶった言い回しで愛の言葉をささやき始めた。もったいぶるのが帝国流なのかも、とエリーは他人事のようにそれを眺めていた。
「あの日からあなたを忘れた日は一日もありません。あなたを想うことで辛い治療に耐え、こうして、帝国で反乱を起こしてここまで逢いに来てしまいました。どうかあなたの愛を乞うことを…。」
イヴァン皇子の言葉はそこで途切れた。彼がしりもちをつくように後ろに倒れたからだ。
「エリー!大丈夫か!?」
駆け寄ってきたのは白髪の美青年、ブルテンの英雄サマルである。
「サム。」
少佐を背中に庇うように二人の間に割って入ったサマルはぎろりとイヴァン皇子を睨みつける。
「こいつはどこの貴族だ?エリーに何をしようとした?」
「ポートレット帝国のイヴァン皇子よ。私が頬を切られて、あなたがやっつけたでしょう?」
「あいつ?生きてたのか。じゃあエリーに復讐に?」
ガバリと起き上がったイヴァン皇子はサマルを指さす。
「お前、知ってるぞ?式典で褒章を賜っていたな?そこで求婚していたろう?その時の相手が…そうか!俺が先に目をつけていたんだぞ!!」
「何言ってるんだよ、お前。」
「俺の方が先に彼女に求婚しようと思っていたんだ!!」
サマルの目が怪しく光った。
そこに、騒ぎを聞きつけてブラッドリーがやってきた。実は使用人間では”イヴァン皇子対処法”が共有されており、何か問題があればすぐにその場にブラッドリー、宰相閣下、王太子殿下、セオドア殿下の誰かを呼ぶことになっている。
ブラッドリーはなぜか、まっすぐにエリーのもとにやってくると庇うように自分の背後に隠した。……何で?
「イヴァン皇子、どうされたのです?」
「お前たち、俺から彼女を隠していただろう!それで、こいつと彼女が婚約することに許可を出したわけだ!随分とコケにしてくれたじゃないか!」
ブラッドリーの背中は見るからに緊張している。せっかく終戦したのに帝国と揉め事は起こしたくない。
「我々も、マクシミリアン皇帝も、あなたが意中の女性を探すことは止めませんでしたが、協力するとは言っていません。我々の国の事情を最優先にさせてもらうと。」
「俺はまだ戦争を続けたっていいんだぞ!」
たった一人で何ができると思わなくもないが、彼は”戦闘狂”と呼ばれた第三皇子。帝国内には支持者もいるという。横目で見ると、アーチボルト少佐も事態を察したらしくサマルの後ろで青い顔をして、彼の腕をつかんだ。
その手にサマルは自分の手を重ねる。
「*************?***********。」
サマルは突然異国語で話し始めた。イヴァン皇子も驚いてサマルを見ている。
「*********************。行こう、エリー。」
そして、サマルは少佐の手を引いて歩いて行ってしまう。
「でも、サム…!」
「大丈夫だよ。やっといたから。舞踏会の準備もあるし、帰ろう。」
なにやらショックを受けて立ち尽くすイヴァン皇子を残して二人は去って行った。
エリーはサマルに愛されて花開くように綺麗になり、また彼をやきもきさせた。いまだに犬の姿で軍略部隊の会議にまでついてくる姿は、正体を知る一部隊員の失笑をかっている。
二人で参加した初めての社交はセオドア王子殿下の帰還を祝う式典だった。なんと、魔女の呪いで姿を変えられていたセオドア殿下をロンズデール伯爵が発見したらしい。
式典には揃って軍服で参加したが、その後の舞踏会ではドレスを着る予定である。ドレスを着て社交場に出るのは初めてだ。
しかもこのドレス、サマルの見立てなのだが、なかなか恥ずかしい。似合っているのは間違いないのだが。
式典でエリーは初めてエリザベス・オルグレン夫人を見た。彼女はロンズデール伯爵の長女であり、なぜかブラッドリーとではなく、伯爵の家族として式典に参加していた。
小柄で金髪の可愛らしい女性でエリーとは真逆の守ってあげたくなるような可愛らしさがあった。
これでロンズデール家はないがしろにできない家になったし、ブラッドリーも彼女を尊重するようになるだろう。結婚生活にいい噂はあまり聞こえてこないが、彼女の周囲がなるべく心地よい環境になってくれればいい。
にぎわう式典の会場から少し離れた場所で一人休憩していると、背後に気配を感じた。振り返れば、先ほど見たオルグレン夫人がいた。
「もしかして、あなたは…エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢、いえ、アーチボルト少佐でしょうか?」
「はい。オルグレン夫人ですね。お初にお目にかかります。」
オルグレン夫人は困惑したように微笑んだ。小柄な夫人は比較的長身のエリーの口のあたりまでしか背丈がない。ヒールを脱いだらもっと低いだろう。
「この度は、英雄様とご婚約されたそうで、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。オルグレン夫人も御父上のこの度のご活躍、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
オルグレン夫人はエリーと何か話したいようで、そわそわしていた。話をうながそうかと口を開けた時、別の珍客が二人の間に割り込んだ。
「*******…!!!!」
驚いて二人で振り返ると、そこにはポートレット帝国の礼装を来たプラチナブロンドの年下の青年が立っていた。
…どこかで見覚えがある顔な気がする。あと少しで思い出せそうだが、いったい…?
======
父であるロンズデール伯爵の名誉を回復する式典後、にぎわう式典会場から外れたところに佇んでいた軍服の麗人は予想通り、エリザベス・アーチボルト少佐だった。
「この度は、英雄様とご婚約されたそうで、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。オルグレン夫人も御父上のこの度のご活躍、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
無難な挨拶を終えたが、できればエリーはアーチボルト少佐とブラッドリーのことや英雄のことを話したかった。さすがに人がいないとはいえ、この場でするのははばかられる。どうしたものか…。
「*******…!!!!」
突然聞こえてきた見知らぬ言語に二人は驚いて振り返った。すると、そこにはいつかの晩餐でみたポートレット帝国のイヴァン皇子がこちらを指さして立っていた。
そのままずんずんと近寄ってくる。
エリーは冷や汗だ。これまで、アーチボルト少佐はイヴァン皇子から巧妙に隠されてきた。最近はなりふり構わずに探していると聞いたが、まさかこのタイミングで見つかってしまうとは。
「*****?*******!」
イヴァン皇子は少佐の顔をまじまじと見ているが、少佐もエリーも帝国語がわからないので困惑するしかない。
「お久しぶりでございます、イヴァン皇子殿下。アーチボルト少佐に何か御用でしょうか?」
エリーが皇子に話しかけると、皇子ははっとした様子で咳ばらいをする。
「失礼した。私は彼女と戦場であっているので。あの時につけた傷がなく、驚いてしまったんだ。」
このタイミングで少佐は左頬をおさえて「ああ」と言った。
「あの時の帝国兵でしたか。まさか帝国の第三皇子殿下でいらっしゃったとは。」
少佐は彼を覚えていなかったらしい。イヴァン皇子は少し不機嫌になったが、頭を振って切り替える。
「お名前を伺っても?」
「エリザベス・アーチボルトと申します。」
「もしや、フレデリック・アーチボルト大将は…。」
「兄です。」
イヴァン皇子はそれを聞いて「****…。」とつぶやいた。
「エリザベス嬢。強き戦士でもあるあなたにお話があるのです。」
「はあ。」
「あの日、あなたに切られて私は恋をしました。」
「はい???」
イヴァン皇子は、その場に跪き、少しもったいぶった言い回しで愛の言葉をささやき始めた。もったいぶるのが帝国流なのかも、とエリーは他人事のようにそれを眺めていた。
「あの日からあなたを忘れた日は一日もありません。あなたを想うことで辛い治療に耐え、こうして、帝国で反乱を起こしてここまで逢いに来てしまいました。どうかあなたの愛を乞うことを…。」
イヴァン皇子の言葉はそこで途切れた。彼がしりもちをつくように後ろに倒れたからだ。
「エリー!大丈夫か!?」
駆け寄ってきたのは白髪の美青年、ブルテンの英雄サマルである。
「サム。」
少佐を背中に庇うように二人の間に割って入ったサマルはぎろりとイヴァン皇子を睨みつける。
「こいつはどこの貴族だ?エリーに何をしようとした?」
「ポートレット帝国のイヴァン皇子よ。私が頬を切られて、あなたがやっつけたでしょう?」
「あいつ?生きてたのか。じゃあエリーに復讐に?」
ガバリと起き上がったイヴァン皇子はサマルを指さす。
「お前、知ってるぞ?式典で褒章を賜っていたな?そこで求婚していたろう?その時の相手が…そうか!俺が先に目をつけていたんだぞ!!」
「何言ってるんだよ、お前。」
「俺の方が先に彼女に求婚しようと思っていたんだ!!」
サマルの目が怪しく光った。
そこに、騒ぎを聞きつけてブラッドリーがやってきた。実は使用人間では”イヴァン皇子対処法”が共有されており、何か問題があればすぐにその場にブラッドリー、宰相閣下、王太子殿下、セオドア殿下の誰かを呼ぶことになっている。
ブラッドリーはなぜか、まっすぐにエリーのもとにやってくると庇うように自分の背後に隠した。……何で?
「イヴァン皇子、どうされたのです?」
「お前たち、俺から彼女を隠していただろう!それで、こいつと彼女が婚約することに許可を出したわけだ!随分とコケにしてくれたじゃないか!」
ブラッドリーの背中は見るからに緊張している。せっかく終戦したのに帝国と揉め事は起こしたくない。
「我々も、マクシミリアン皇帝も、あなたが意中の女性を探すことは止めませんでしたが、協力するとは言っていません。我々の国の事情を最優先にさせてもらうと。」
「俺はまだ戦争を続けたっていいんだぞ!」
たった一人で何ができると思わなくもないが、彼は”戦闘狂”と呼ばれた第三皇子。帝国内には支持者もいるという。横目で見ると、アーチボルト少佐も事態を察したらしくサマルの後ろで青い顔をして、彼の腕をつかんだ。
その手にサマルは自分の手を重ねる。
「*************?***********。」
サマルは突然異国語で話し始めた。イヴァン皇子も驚いてサマルを見ている。
「*********************。行こう、エリー。」
そして、サマルは少佐の手を引いて歩いて行ってしまう。
「でも、サム…!」
「大丈夫だよ。やっといたから。舞踏会の準備もあるし、帰ろう。」
なにやらショックを受けて立ち尽くすイヴァン皇子を残して二人は去って行った。
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