人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

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第7章 ーノエル編ー

2 学園入学前

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母が亡くなったのは冬の始まりの寒い日だったが、父は悲しみに浸らずすぐに次の行動に出た。ノエルはまだ母が亡くなったこともよくわかってなくて、荷造りをする父を不思議そうに見ていた。

「ノエル、パパンとパパンの生まれた国に行こう。」

「お引越しするの?」

「そうだよ。」

「いつ?」

「今日だよ。」

「ママンは?」

父はぴたりと荷造りの手を止めて、ノエルを抱きしめた。

「ノエル、ママンはもういないんだ。でも、パパンがノエルを守るからね。」

父に愛猫のオズマを置いていきなさいと言われたときは、悲しかった。黒薔薇騎士団のお兄さんたちが飼ってくれるということで、オズマを首都において隣国のルクレツェンに向かって旅立った。



もともと父はルクレツェンの出身で、オールディに来たのは実は一時的なものだったのだ。結局、母と出会い、仕事をやめてオールディで暮らしてきた。父にとってはかれこれ10年ぶりにルクレツェンに帰ることとなった。

ノエルはその旅の途中で6歳になったが父は早くルクレツェンの首都に向かうことに必死ですっかり忘れていた。
ノエルの誕生日はクリスマスなこともあって、毎年母が主導してしっかりお祝いしてくれていた。年に一度母も料理をしてくれるのだ。父の料理の方がおいしいのだが、母の料理は特別なのだ。

そこで、もう母はいないんだ、もう会えないんだ、ということをノエルはちゃんと理解した。


「ああ!ノエル、ごめん!昨日、誕生日だったね!」

「パパン…。」

自然と涙がぽろぽろこぼれるのを止めることはできなかった。

「ママンはもういないの…?もう会えないの…?」

「ノエル…。」

「うううううぅ~っ…ママンっ…ママンっ…どこ…。」

「ノエル!」

父に抱きしめてもらって一緒にずっと泣いた。



ー---



「仕事は、新聞での作家の仕事を続けて…それだけじゃたりないよな…。あと、住むところか…。」

ルクレツェンの首都についたのは年明けのまだ寒い日だった。

「今日はどこかの宿に泊まるか…。首都の宿は高いな…。シングルでなんとか…。」

父がぶつぶつと言っているのをノエルが見上げていると、後ろでニャーという声がした。振り返ると青っぽい毛の猫がいた。

「オズマ!!」

オズマはノエルを見ると尻尾をふりながらどこかへと歩いて行ってしまうので、慌ててノエルは走って追いかけた。

「オズマ、待って!」

「ちょ、ノエル!待ちなさい!」

オズマはちょっと進んで角を曲がったところで立ち止まった。急いで駆け寄ってがしっと抱きしめる。

「オズマ、つかまえた!偉いね!一人でここまで来たんだね!!」

にゃーと鳴いてごろごろとすり寄るオズマをノエルはわしゃわしゃとなでる。

「あら、こんにちは。かわいい猫ちゃんね。」

ヒューゲン語で話しかけられて前を見て上を見るとくるくるした金髪をポニーテールにしたおしゃれなウエイトレス姿の女性が看板を出しているところだった。年は父と同じぐらいだろうか。

「すみません!」

同じくヒューゲン語で答えながら父がしゃがみこんでいたノエルの手を引いて立ち上がらせる。

「パパン!見て!オズマが来てくれたの!」

「え?」

にゃーと鳴いて見上げてくるオズマに父はぎょっとした顔をしていた。

「旅の方かしら?観光に来たの?」

ノエルは元気よく違うよと言いたかったが、とっさにヒューゲン語が出てこず、黙り込んでしまった。

「いや、ルクレツェンに引っ越してきたんです。」

「…あら。仕事と住むところは決まっている?娘さんと二人かしら?」

「いや…これからです。」

「お料理はできる?よかったらこの店の上の部屋がちょうど一つ空いてるんだけど。」

「…え??」


その後、父は持ち前の料理の腕前で欠員がでていたレストランの料理人に採用された。なんてラッキー。ノエルが出会った女性はマリー・モンテス。ウェイトレスとして働きながら下宿を運営するシングルマザーだ。

マリーの息子には、父がマリーと店長と今後の仕事とか家賃とかの交渉をしている間に、遊び相手として上の階の下宿の部屋で出会った。
サラサラした銀髪に目が釘付けになる。

「ママン!」

「え?ママン?」

銀髪の男に子は黒い目をまん丸にしてノエルを見た。よく見れば顔もきれいだ。年は同じぐらいだろうか。

「ザラ。この子はノエルちゃんよ。ここの下宿に住むことになりそうなの。
ノエルちゃん。この子は私の息子のザラ。この間に6歳になったの。ノエルちゃんと同い年よ。」

「…よろしく。」

ノエルはたどたどしいヒューゲン語でなんとかあいさつした。これがザラとノエルの出会いである。



ー---



「じゃあ、ノエルちゃんは無事に住民登録と魔力登録ができたのね。よかったわ。」

住む場所を見つけた次の日は役所で引っ越しの報告をしたり、ルクレツェン特有の魔力登録をしたり、必要なものを買ったりして一日が終わった。

「そうなんだ。ちょっとノエルの魔力登録で役人たちがざわついていたのが不安だけど…。」

それはノエルが魔力もちだったからなのだが、それが判明するのは12歳になって魔法学園入学案内が届いた時だ。


その日のよるから父は早速レストランを手伝うことになった。マリーもそこで働いているため、ノエルはザラとお留守番をさせられる。

「ザラはオールディ語話せる?」

「…話せない。」

ノエルはむうとむくれてしまった。父の母国語がヒューゲン語だったこともあり、母がいないところでは父とヒューゲン語の練習をしてきたが、やっぱりオールディ語の方が話しやすいため、特にここ1年はオールディ語ばかりを使っていた。
…ママンがヒューゲン語を勉強するようにずっと言ってたのはルクレツェンに引っ越すつもりだったからなのかな?今はもうママンの考えていたことはわからないけど。

ノエルは急に寂しくなってザラの銀髪をじーっと眺めた。母の髪と比べれば、キラキラしすぎだが、まっすぐでサラサラの髪はノエルにとって母を想起させるに十分だった。

「髪の毛触ってもいい?」

「…いいよ。」


帰宅した父とマリーは細かい三つ編みだらけになったザラの頭を見て言葉を失っていたのを今でもよく覚えている。




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