人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

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第6章 6年時 ーユージーン編ー

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冒険クラブの新歓キャンプには今年も12、3人の新一年生が参加していた。ノエルたち6年生組は差し入れの食材を運び込んだ後、あとはお若い皆さんでとでも言うように去っていった。

「それじゃあグループごとにBBQを開始してください。」

ノエルから引き継ぎを受けて、冒険クラブの部長に就任したアレックスの指示のもとグループ分けが行われ、それぞれにBBQがスタートした。


「アレックス、まだ言えてなかったけど上級魔法科への進学、おめでとう。」

「ありがとうございます、ユージーン先生。」

上級魔法科に進学するためにずっと魔力増強の訓練をしていたアレックスは無事に4年生に進学した今年に上級魔法科に進学した。

「念願の上級魔法科です。冒険者目指すんで今後もよろしくお願いします。」


ユージーンは土魔法で調理場を形成し、アレックスが火魔法で火を起こす。4年生部員のアリソンと副顧問のシャーリーが切った野菜やお肉を焼いていく。

「親御さんも喜んでいるんじゃないか?」

「両親がとても喜んでくれていて。ドーリン家からは5世代ぶりだって。ただ、兄さんはちょっと…拗ねてるんだけど…。」

「アレックスの兄、たしかノエルたちの同級生だったね?」

「はい。普通科特進コースに進学したんですけど、卒業後はセドリック商会への就職を希望しているみたいで。政治家にしたい両親ともめてるんです。僕が上級魔法科に進学して政治家コースをキャンセルしたのが気に食わないみたいで。」

アレックスはせっせと食材を焼きながら苦笑する。

「あと…、幼いころから続いていた婚約が昨年解消になったのも、両親と喧嘩になってて。両親はお嫁さんが来るの楽しみにしてたので。」

「ああ、それは…。」


アレックスの生家ドーリン家は7大貴族の一つだ。幼いころから、特に嫡男には婚約者がいるというのもおかしくはない。
第一王女の立太子が検討されてきたことで、婚約者に不満を持つ優秀な女子たちが立ち上がり、近年貴族間の婚約の破談は多くはないが珍しくもない。その先駆けがリアと、アレックスの兄だった。


「お兄さんの婚約解消後、新しい婚約者を決める話はある?サフィラ家は子だくさんだから良縁を紹介できるよ。」

シャーリーがちょっと真面目なトーンで話し出す。サフィラ家も7大貴族の一つだが、貴族家の中では群を抜いて貧乏なため、ここ近年は貴族家との縁はあまりない。フィリウス家との縁ぐらいだろう。平民との縁も持ちにくい。ぶっちゃけ縁談に困っている。

「今3年生と1年生に妹がいるよ…。むしろアレックスかな?」

「僕!?」

ぎょっとした顔でアリソンがこちらを振り返ったのが目の端に見えた。

「ああ…でも、そうだね。ノエルもハロルドと付き合い始めたし、僕もだれかいい人がいれば…。」

「ん?」

シャーリーが引っかかったようにアレックスの顔を見る。

「アレックス、もしかして、ノエルのこと好きだったの?」

「うん…。去年、僕、告白したんだよね。」

「こ、ここ告白!?」

「いや、もちろんだめだったんだけど、上級魔法科に進学したらもしかして…と思ってて。でも付き合い始めたのがハロルドだったから。ああ、僕はもう無理なんだと思って。」

ユージーンはちょっと、なぜノエルがアレックスはだめでハロルドはオッケーだったのか疑問に思った。将来有望なのはハロルドかもしれないが、彼はどうにも変人なところがある。アレックスの方が性格がいいだろう。

「そ、そっか。じゃあ、諦めるんだね。」

「うん。ショーンだったらあきらめなかったけど、ハロルドなら敵わないよ。」

アレックスの意味深なセリフにまた首を傾げるが、教師から突っ込んで聞くような話でもない。この話はそこで終わりとなった。


しかし、無事に上級魔法科に進学できたことが自信につながったのか、アレックスは4年生になって、顔つきが変わった。もともと、美形の血をつないできたドーリン家の一員ということで素材はよかったのだが、男ぶりは上がったようにも見える。15、6歳のまだまだ少年なのだが。


「アレックスなら縁談なんて斡旋しなくてもモテそうだね。冒険クラブも安泰だ。」

シャーリーも同意の様で苦笑して、またキラキラした目をしてこちらをちらちら見ている新一年生の女子を見ながらそう言った。

「アレックス目当てで入部されちゃっても困るわ。」

「アリソン目当てよりはいいよ。新聞部で偉くなって、来れる頻度減りそうなんでしょ?」

「減らさない。」

「無理しなくていいよ。」

「アレックスは私と会う頻度が減ってもいいの!?」

「え?どうせ上級魔法科の授業で会うじゃない。僕の貴族の友達、誰も上級魔法科に行かなかったから、アリソンがいてくれないと友達がいないよ。」

「そっか…。そうね。」

アリソンはちょっと安心したように笑った。アリソンも意外にも上級魔法科に進学した。彼女は魔力量が入学時から学年でも1、2を争う多さなため、一定の成績を保てて入れば上級魔法科には容易に入れはするのだが、ずっとジャーナリストになりたいと言っていて、魔法職を希望していなかったからだ。

「アリソンが上級魔法科に進学したのは意外だったな。」

「そう?でも魔法学園に入学できたなら、魔法を極める方がいいわ。ヒューゲンでは学ぶ機会なんてないもの。
それに第一王女殿下の立太子後を考えると、魔法外交が増えていくと思うのよね。魔法を専門に扱うジャーナリストになるのもいいかなと思って。
魔法を学んだからこそ伝えられる真実…かっこよくない?」


…第一王女の立太子後って。
目ざとい学生たちは敏感に社会の変化を感じ取っているのだろう。立太子の儀に不幸なことが起きなければいいが。




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