人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
20 / 80
第3章 3年時 ーアレックス編ー

6

しおりを挟む
「じゃあアレックス、留守をよろしくね。」

「はい。母上、兄さん、いってらっしゃい。」

夏休みのある日、家族でリアの家、マクレガー家に遊びに行くことになったのを何かと理由をつけてアレックスだけお留守番するように手を回した。
僕がいると兄さんはリアと話さないから、と言えば母上はすんなり許可してくれた。

父上は議会の仕事で今は首都におり、郊外の自宅を留守にしている。

そうして家族みんなが家を出るという状況を作り上げた。



「「「お邪魔しまーす。」」」

ノエル、ハロルド、ショーンがドーリン家にやってきた。なぜかノエルは腕に猫を抱いていた。

「ごめん、アレックス。家の猫がついてきちゃった。」

いつかにも見た青っぽい色の毛の猫だ。アレックスに向かってニャーと鳴く。

「大人しい子だから安心して。ね、オズマ、いい子にしてるよね?」

ノエルに対しても猫はニャーと鳴いた。まるで返事するかのようだ。

「ノエルの猫が神出鬼没なのはいつものことだから。さ、行こう。ネックレスの場所に当たりはついてる?」

「うん。母上の部屋のショーケースの中だよ。」

4人はぞろぞろとドーリン夫人の部屋まで移動する。

「通いの使用人は今日はお休み?」

「うん。もともと食事と母上の着替えの世話をしてくれる人だから、僕だけだったら作り置きで大丈夫って言って休んでもらった。」

母上の部屋は、もとはおばあさまの部屋でこの屋敷で二番目にいい部屋だ。アレックスは子供の頃から何度も中に入っており、今日もいつもの調子で扉を開いて中に入った。ノエルが中に続こうとすると、カバンの中から猫がニャーと鳴いてばたばたと暴れた。

「あら、オズマ。どうしたの?」

「…この部屋。僕たちは入れないみたいだ。」

ハロルドがどこからかハンカチを取り出して入口に向かってぽいと投げると、部屋と廊下の狭間でバチバチと火花が散り、ハンカチが焦げた。

「多分、部屋主不在だと血縁者しか入れなくなるんだ。アレックス、ネックレス取ってこれる?」

「う、うん。」

アレックスも知らなかった部屋にかけられている魔法にちょっとびくびくしながらも、母上の衣裳部屋に入り、母上がネックレスをしまっているケースを取り出した。
とりあえずそれを持って衣裳部屋を出て、ノエルたちのいる扉の方へ向かう。

「待った。アレックス。もしかしたらネックレスの持ち出しにも制約があるかも。」

眼鏡をかけたハロルドがこちらを見た。

「この部屋の魔法、多分かけられたのは100年ぐらい前だ。この部屋に主がいる限り続くことになってる。もしかしたらそのネックレスがファクターになってるかも。」

「…この家、100年以上前からあるの?」

「貴族の家ってみんなそうだよ。魔法で綺麗に維持してるんだ。使用人も魔法使いな場合がほとんどだからね。」

「…我が家、掃除の使用人は雇ってないんだよ。ひいひいおばあ様が強い魔法使いで、強力なお掃除の魔法をかけてくれたから…。」

「それだ。アレックスはそこで箱をあけてネックレスを見せてくれる?」

アレックスは頷いて入口ぎりぎりで箱を開けて床に置く。中から出てきたのは緑色の大きな石が中央につき、その周りも同色の小さな石が飾っている。
アレックスもしばらく見ていなかったが、以前に見せられた”古の魔道具”と全く同じものだ。

「これだ。アレックス、一度部屋を出て。ノエル、試しにこの魔法越しにネックレスに光魔法がかけられそうかやってみて。ショーン、ビビを呼んで。」

この場の司令塔・ハロルドの指示にみんなが従う。『ちょっと!気安く名前を呼ぶんじゃないわよ!ショーンしか私の名前は呼んじゃダメなの!』と怒りながら出てきた時の精霊を除いて。

「ハロルド、かけれるみたい。」

「よかった。時の精霊はどう?」

『ちょっと!私にはショーンにもらったビビっていう名前があるの!』

この精霊さん、ちょっとあほの子だ。ショーンが頼みなおすとすんなり言うことを聞いてくれた。魔法越しに時の魔法をかけるのも問題ないようだ。

「周りの石から一つずつ術がかかるようにしてほしいんだ。真ん中の大きな石には最後に術がかかるように。期間は3年間で全部完了するように。」

ショーンがハロルドの指示を復唱してビビに指示を出す。

「これで、徐々に魔道具の力は弱くなっていくと思う。でもドーリン夫人の精神が健全に戻るとは保証できない。いきなり壊すよりかはましだと思うけど。
どうする?アレックス?始める?」

アレックスは少し震えた。これだけのことをしても三年後に母上が廃人になる可能性がある。でも、このままだと将来家族になる人たちにも魔道具が作用してしまう。

「アレックス、大丈夫よ。どちらを選んでもアレックスのお母さんはアレックスのことを愛してるし、アレックスもそうでしょう?
話を聞いてるだけの私でもわかるわ。いつも心配してたくさん手紙をくださる素敵なお母さんじゃない?」

アレックスは頷いてノエルを見た。

「アレックスがお母さんのためだと思う方をすればいいのよ。」

「うん。…お願いします。魔道具を壊してください。」



ーーーー



こうして母上の精神汚染をした魔道具のネックレスは徐々に効力を失っていった。母上は時々貴族至上主義理論を振りかざす途中で言いよどむことが増えていった。

石が割れ始めたネックレスをつけることもなくなり、「もともと気に入ってなかったの」と潤ってきたドーリン家の財政で新しいネックレスを買っていた。

そうして、アレックスが4年生を終えた夏休み、ついに魔道具は完全に効力を失った。母上はその後寝込みがちになったが、ドーリン家が貴族主義から脱却して行っても怒ることはなかった。


あの日、ノエルと魔法汽車で同じ個室に乗り合わせたこと。ノエルに冒険クラブに誘われたこと。ノエルと出会ったおかげでいい方向に物事が進んだ。
唯一、兄さんのことだけは全く良い方向に転んでいないが、それは兄さんのせいだし。

いつしかアレックスも特別な気持ちでノエルを見るようになっていった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...