人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
15 / 80
第3章 3年時 ーアレックス編ー

1

しおりを挟む
三方を他国に囲まれた内陸の国・ルクレツェン。年間を通して穏やかで涼しい気候は避暑地として人気が高い。
かつては近隣三国の領地だったが、紛争の絶えなかったその地域を憂い、初代国王と臣下の7人の偉大な魔法使いにより中立地帯として建国された。
7人の魔法使いはそれぞれに貴族家を興し、それが7大貴族の始まりと言われている。

7大貴族も今は2家が絶え、1家は貴族とは名ばかりに没落し、1家は直系の血を絶やした。正統に血を継いだとされる3家も近親婚を繰り返したためか、年々その魔力量を減らし、魔法界での存在感をなくしていた。

しかし、政界では傍系の貴族家を従え、確かな存在感を残す。年々革新派の政策へと舵をきる王家にとっては政敵となり、初代国王と7人の臣下の構図はもう消え失せていた。




そんな王家が力を入れている国家事業の一つが科学技術と魔法技術を組み合わせた魔法科学技術の開発。その最たるものが10年前に導入された首都と魔法学園を結ぶ魔法汽車だ。




ーーーー





アレックスは7大貴族ドーリン家の次男であり、兄のネイト、ナサニエル・ドーリンに二年遅れて魔法学園に今年入学する。そのため普段暮らしている郊外から魔法汽車に乗るために母と兄と三人で首都へと出てきた。

「ナサニエル、アレキサンダー、ドーリン家の誇りを忘れてはいけませんよ!ドーリン家は正しい血統を継ぐ7大貴族の一つなのです!卑しい獣人や貴族の血も引かない平民たちと馴れ合ってはいけませんよ!」

駅までの道中、母はずっとこんな感じだった。母は根っからの貴族至上主義者で貴族以外の魔法使いを魔法使いとは認めていなかった。父は議会の保守派の議員であり、ふたりは従兄弟同士、典型的な7大貴族の婚姻だ。
そんな貴族至上主義家庭で育ったにも関わらず、アレックスも兄のネイトも貴族至上主義には懐疑的だった。

貴族至上主義はそのまま魔法族至上主義につながっていいはずなのに、貴族の血を濃く保つことに重きを置いている。強い魔法族だから優遇するならまだわかるが、もはや非魔法族と大差がない貴族優先の政策をしようとするのは意味がわからない。

正直、そう思う。

でも、アレックスは家族愛の気持ちがあって、大きな声で両親を否定はできなかった。まあ、兄のネイトは反骨精神の塊なのだが。

「じゃあ、行ってきます、母上。」

駅に着くなり荷物を持ってその場から消えた。

「ナサニエル!待ちなさい、ナサニエル!全くあの子は!」

兄がそんなんだからいつも母の期待はアレックスに降りかかる。

「いいですか、アレックス。あなたはドーリン家の誇りを忘れてはいけませんよ!ネイトの様子も伝えて頂戴ね。あの子は手紙の一通もよこさないのだから。」

「はい。母上。」

「ネイトがおかしな交友関係を持っているようだったら、兄を諭すのもあなたの役目ですよ。貴族家とは積極的につながりを持つのです。あなたの将来につながりますから。」

「はい。母上。」

「あなたもネイトも魔力は少ないのですから、将来は政界に出るでしょう。父上のように。将来は普通科特進への進学を見据えて勉学に励むのですよ!」

母の話は出発直前まで続いた。




ーーーー



「どうしよう、どの席にも人がいるや…。兄さんもいないし…。リアとか会えないかな…。」

魔法汽車の中はコンパートメントに別れており、どの席にも仲良しグループみたいなのが座っていてアレックスは入っていけなかった。

「あ、ここすいてる。」

6人掛けのコンパートメントの中には2人しか座っていなかった。中にいたのは青っぽい毛をしたスリムな猫を抱えたくせ毛の金髪の女子学生と、浅黒い肌の男子学生だった。ここにいれてもらおう。

「あの…。」

扉を開けると女子学生がこちらを振り返った。キラキラして宝石のような青い目をした綺麗な女子学生だった。多分、年上、かな?

「どこも空いてなくて、ここ座ってもいいですか?」

「もちろん!一年生?私は三年生のノエル・ボルトンよ。」

中にいた長身の男子学生が荷物を荷棚に積んでくれる。

「はい。アレックス・ドーリンです。」

「ドーリン?ナサニエル・ドーリンの弟?あ、僕はショーン・ロバート。よろしく。」

浅黒い肌の男子学生、ショーンがきいてきた。

「はい。兄です。」

「そうなんだ!私、同じクラスなの。」

「ということはドーリン家直系だよね?僕ら貴族の血は引いてないけど、大丈夫かな?」

「あ、大丈夫です。言わなきゃバレないんで。」

ショーンは拍子抜けしたような顔をして、『あ、そう。』と呟いた。

「たしかに、ちょっとネイトと似てるかも。」

「ほんとですか?兄さんはイケメンだから、あんまり言われたことないや。」

「カーディガン着てくれてるんだ!一年生からカーディガンって通だね!」

「リアが導入に一役買ったからって、入学祝にくれたんだ。」

「リアとも知り合いなの?彼女も同じクラスだよ。」

「リアは…。」

その時、がらりと扉が開いた。

「ノエル、見つけた!ショーンも久しぶり!ザラはいないね!」

明るい茶髪の男子学生が入ってきた。

「ハロルド、久しぶり。」

ノエルがちょっとめんどくさそうに対応する。ハロルドはすごくノエルに会えてうれしそうなのに、なんだろうこの温度差。

「あれ、君はアレキサンダー・ドーリンだね。ネイトの弟の。僕はハロルド・フィリウス。ネイトとはルームメイトだよ。」

フィリウス家。7大貴族の一つだけど、母からするとフィリウス家は偽貴族、数代前に直系の血が途絶えてしまったらしい。現在の当主は魔法商会を抱えていたり、その息子のハロルドは神童と呼ばれていたり、魔法界での存在感は一番あるのがこのフィリウス家だろう。

「ネイトは?一緒じゃないの?」

「兄さんは駅についてすぐどこかに…。」

そうなんだ、と気にした様子のないハロルドは荷物を荷棚に上げるとショーンの隣に座った。そして肩掛けカバンから何やら四角いものを取り出した。

「ノエルとショーンに会えてよかったよ。これ、父上が考案した新商品の魔法ゲームなんだけどね、なんと、魔石を応用して非魔法族でも使えるようにしたすごいものなんだ。
ぜひ感想を集めてほしいって言われて。一緒にやらない?アレックスもどう?」



こうしてアレックスは気さくな先輩たちと楽しく魔法汽車の旅を過ごすことができたのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...