人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

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第1章 2年時 ーショーン編ー

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三方を他国に囲まれた内陸の国・ルクレツェン。年間を通して穏やかで涼しい気候は避暑地として人気が高い。
かつては近隣三国の領地だったが、紛争の絶えなかったその地域を憂い、初代国王と臣下の7人の偉大な魔法使いにより中立地帯として建国された。
7人の魔法使いはそれぞれに貴族家を興し、それが7大貴族の始まりと言われている。

ルクレツェンはその成り立ちから魔法使いが尊ばれている。魔法の力は血筋により伝えられ、7大貴族の子孫たちや、中立地帯へと集まってきた獣人一族の中で脈々と伝えられてきた。

時にはごく稀に非魔法族の中から魔法の力を持つ者が生まれることもあったが、みな強い魔力を持つにもかかわらず、貴族主義の学園の中では差別されてきた。



首都からルクレツェンが誇る魔法汽車で三時間。雄大な自然に囲まれた山奥にルクレツェン魔法学園は存在した。



ーーーー



「年度末の幻の歌姫。結局誰かわからなかったみたいよ。」

「すごい歌声だったわ!また聴きたいわね!」

中庭で女子学生たちが噂話をしていたが、視界にショーンをとらえるとこちらを見てそわそわとし始める。


「見て!あの浅黒い肌!」

「あれが噂の?」

「なんかでかいわね?本当に二年生?」

進級時の実力試験の結果を確認した帰り道、普通科の上級生の女子学生たちがショーンを見てそわそわと噂話をしている。…違う。僕の父親はロバート商会の職員でれっきとした魔法族だ。母が砂漠の国出身の異人で、この魔法学園の大半の学生の真っ白な肌と比べて浅黒いだけ。

この国は中立国と銘打っているのに、国の名を冠する魔法学園は排他的で異物を受け入れない。

ショーンは一年生の間だけでこの魔法学園の空気がすっかり嫌になり、両親に退学して働きたいと言ったが、商人の父は『魔法学園を卒業した経歴はお前の将来に役立つ。』と言ってきかず、ちょっと不思議なところのある母は『二年生だけは我慢して行きなさい。きっといいことがあるから。』とかなんとか言って…、つまり退学は認められなかった。

一年通って友達もできなかった学園でどんないいことが起きるっていうんだ。

ショーンは所属する二組でクラスメイトに遠巻きにされていた。寮で同室の二人は仲良くしてくれようとしたが、とある事件がきっかけで上手くいかなかった。その事件というのは…。


「おい!ロバート!」

突然背後から制服の襟首をつかまれる。振り向けばそこには三年生の男子学生たちだ。全員が貴族の出である。

「ちょっと来いよ!!」

男子学生たちはイラついた表情を隠しもせず、ショーンを数人がかりで引きずっていく。ショーンは暴れて抵抗したが、身長は必要以上に高くても数の力には勝てなかった。
…ついてない。人目の多いところではいつも何もしてこないのに。

周りの学生たちは遠巻きにこちらを眺めるだけで、特に何も反応はなかった。




ショーンが退学したいと思った一番の理由はこの一学年年上の男子学生たちだった。

彼らのリーダーは入学式の日にショーンに目を付け、『お前が非魔法族生まれか?』とからんできた。その後、ショーンを見つけるたびに集団で囲み、『お前なんか魔法学園にふさわしくない』と罵倒されるようになった。
そして、それはやがていじめへと発展した。




人通りのない校舎の裏手。ショーンは壁に向けて投げつけられた。

「お前!実力試験、2位だったらしいじゃねーか!」

開口一番にリーダー格の男子学生が地面に倒れたショーンの腹を思い切り蹴り上げた。咳き込みながらうずくまると、今度は背中を上から踏みつけられる。

「半端者のくせに生意気なんだよ!」

今度は頭を踏まれて目から星が飛ぶ。
…僕の成績が良いのは、別に今に始まったことじゃない。友達がいないから勉強しかすることがないのだ。一体、今日になってなぜ?

男子学生たちが暴力をふるってきたことは、これまでになかった。飲み物をかけられたり、ごみ箱の中身をかけられたり、噴水に落とされたり、物を盗まれたり…、そんなことは多々あったが。

「お、おい。やりすぎだぞ…。」

男子学生の取り巻きがあまりの暴力に止めようとするが、リーダー格の学生は、うるせえとばかりに取り巻きを突き飛ばす。


殴られすぎてショーンの意識が朦朧としてきたところで、今日はこれぐらいにしてやる、と捨て台詞を吐いて男子学生たちは去っていった。

ショーンはそこから動けなかった。午後には授業が始まり、ショーンの不在はクラスメイトも教員も気づいたはずだが、誰も助けには来なかった。
しばし意識を失い、はっと目覚めると日が暮れて周囲は真っ暗だった。…これは門限も破ってしまっている。

…ああ、だから退学したいって言ったのに。これからいじめが暴力になるのか。もうここでずっと倒れていようか。


ショーンは目を閉じた。

『任せて!私が助けてあげるから!』

…ん?誰の声?



目を開くとショーンは張り出された実力試験の成績表の前に立っていた。


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