Varth統一戦史

SummerSky

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第12話 ソアラとの会話

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ユミ・クロラル

  SDD作戦はあっさり終わった、ワタシはインペリアの発電所をいくつかぶっ壊しただけだ。発電所をぶっ壊したのは、ほとんどは陽動、あとは雰囲気づくりだ。何かが起こっている、これから起こるってことを世界に知らせるための。本当に大事な仕事はエクセとソアラが担当してる、ソアラは原子力潜水艦を奪取に、エクセが何をしているのかは知らぬ。たぶん何かしら核ミサイル関連だろう。世界には核ミサイルがありすぎる、うんざりするほどある。世界を何百回も燃やせるくらい。核の無い世界、そんなの無理だってワタシは思う。ぶっちゃけワタシは世界革命も平和もこれっぽっちも信じてない、そんなこと出来るわけあるかよ。
 
 何かを得るってことは何かを失うこと。滅多に本など読まないワタシもニーナ・ルーエルの「世界の全てについての本」だけは読んだ。
 すごい偉そうなタイトルだけれど一般向けの科学書で、死ぬほどベストセラーになった。宇宙の誕生から人類の終わりまで、為になる「事実」がたくさん書かれている。ニーナが言うに

「人間には手が二本しかない、盾と武器を持ったら他には何も持てない、誰かを救おうとして他人の手を握ったら、盾か剣、どちらかを手放さないといけない」

 進化ってのもそういうことらしい、インターネットを使いたかったら、核ミサイルにおびえて暮らさないといけない。自動車に乗りたかったら、ギャングにマシンガンで蜂の巣にされるのを覚悟しないといけない、何かを得たら、悪いものも必ず一緒にバンドルされてついてくる。でも一度手に入れた便利さ、ってのは手放すことは出来ない、そういうことなんだ、仕方ない。
 世界の平和と一緒に抱き合わせでついてくるものは、核ミサイルの何百倍も悪いものに決まっている。

 「ガイスト」(GEARを操作する専用のコントローラ。丸い球みたいな形をしていて、内部には球面モニターがあって360度とまではいかないが270度ほどの視野がある。さらに酸素濃度を調節可能で高酸素で集中力をあげられるらしい、ワタシは高酸素によるドーピングは使ったことはない、そんな強敵など現れない、ガイスト、ってのは魂、っていう古エクス語だ)
 から出るとソアラさんが歩いていくのが見えた。声をかけるぞ!まともにしゃべるのは初めてだ。
 そう思って走っていこうとすると誰かに腕をつかまれた、虫唾が走った。
シャンブルズ「どこ行くねん、ソアラに近寄るな、あの人はオマエみたいなよそ者が近寄っていい人とはちゃうねん」
ユミ「ワタシの!カラダに!触れるんじゃねぇ!マザーフ〇○カー!」
 ワタシは両手中指立てポーズで威嚇する。シャンブルズの額の血管がピクピク動くのが見えた。どうやら相当頭に来たらしい。ふふふ。もちろん組織内での暴力は厳禁だ。どうだ、ワタシを殴って追放されるがよい。二度とその湿気た面見せんなよ
カナビス「なんだ?喧嘩か?面白そうじゃねーか!やれやれ!」
街のヤンキーみたいな言葉を吐いてカナビスがやってくる、カナビスとシャンブルズは昔から非常に仲が悪いらしくカナビスはワタシの味方だ。
イズナ「組織内では暴力は厳禁、殴ったら両方追放だよ、これからって時に幹部が抜けてどうすんのよ」
イズナさんが知らない人をカプセルに入れてガラガラ運びながらやってきた。情報ソースだろう。機密情報を知ってるサンプルを何人かさらってくるっていうミッションだったみたいだ。
 さらって来た人はレーゼさんが麻酔と自白剤を投与して情報を抜き取る。よくカルト教団が信者を洗脳するためにやるやつだ。
 
「イニシエーション」とそれは言われている。

 ワタシももちろんイニシエーションをされた。スパイじゃないか調べる為にここに来た人は最初にあれを受ける。半分無意識状態だと人間は秘密をべらべらしゃべってしまう。
 催眠とか洗脳って都市伝説だと思っていたけれど、実はすごい簡単に出来るんだとわかってゾッとした。ワタシも何かすでに催眠状態に入ってるのかもしれない、でもそれを考え出すと精神衛生上良くないので何も考えないこととする。
 
 シャンブルズはこれ以上こいつに関わったらキレそうだと思ったらしく姿を消した、ちっ、賢いやつめ。
カナビス「何をもめてたんだ?」
ユミ「よそ者はソアラさんに近づくなって」
イズナ「あぁ・・・そりゃシャンブルズが正しいかもね」
カナビス「知らないってことは強いな」
ユミ「やっぱそんな怖いん?」
イズナ「怖いというか・・・、近づきがたい、昔っからだけどね」
カナビス「そうだな、島にいたころもほとんどしゃべったことねぇな、それがそのまま強化されてる」
ユミ「とにかく一度しゃべってみたいんだ、じゃあの!」

ソアラさんを追いかけてエレベータに乗る、ソアラさんは地上に突き出た潜水艦の潜望鏡みたいな部屋に住んでいる。破格の扱いだ、ワタシの部屋に窓なんて無い。個室があるだけマシなんだけどさ、部屋の前まで来るとドキドキでカラダが震えるのを感じた、これが恋!?インターホンを押す。
ユミ「あの!すいません、最近入ったユミってものです、挨拶とかいいですか?」
ソアラ「・・・何か用?」
ユミ「用・・・は特に無いんですけど、一度しゃべって見たくて」
こんな声なんだ、キレイだけれど無機質、合成言語のアナウンサーみたいな声だ
ソアラ「入っていいよ」
 ドアが開いた、目がチカチカする。ほとんどガラス張りのその部屋は刺すような青空が広がっていた、肉眼で青空を見るのなんて何ヶ月ぶりだ?というかいま昼だったのか。南極の青空は空というより宇宙そのもので、日光というより宇宙線がのまま降ってきているような感じだ。
 この星が宇宙っていう果てしない闇に豆電球みたいに光ってるんだろうなという寂しさを感じさせた、あとは一面真っ白の世界。
 ソアラさんはベッドに腰掛けていた、ソアラさんも大将と同じように口元から下をマスクで顔を隠している、赤紫の髪とティール色の鋭い目、エアレスそのものだ・・・感動。でも・・・?
ソアラ「話って何?」
ユミ「あっあの!ワタシソアラさんの大ファンで、ギアを始めたのもソアラさんを目指してなのです!」
ソアラ「そう・・・、それで幻滅した?ただのテロリストだとわかって?」
ユミ「・・・?いやいや!だって世界政府を作るための戦いなんですよね、環境汚染とか気候変動を止めるために・・・誰かがやらないといけないことです、テロじゃなくて革命・・っていうやつですたぶん。
 まじで最近の天気むちゃくちゃですもの、夏クソ暑いし台風はんぱねーし、ずっと山火事だし、ローランでも去年の夏暑すぎて何万人も死にましたよ、ヴェインランドは100万人死んだとか言ってたけどあそこの数字はテキトーだからたぶん嘘だろうけど。
 まじでこのままじゃ一握りの海底シェルターとか買える金持ち以外は全滅ですわ、なんにもしないよりも自分の手を汚して何かをする人のほうが死ぬほど偉いですよ」
ソアラ「・・・本当にそう思う?本当に世界なんて救いたい?自分が数人殺すだけで何百人、何千人が助かる。確かにそうなんだろうね、けど何億人救ったところで、どんどん空しくなるだけだ。
 なんで今まで誰も本当に世界を救おうとしてこなかったか、それは人を救っても嬉しくないからだ、全然知らないやつの命を救っても、全然嬉しくないからだよ」
ユミ「おっ・・えっ?じゃあなんでソアラさんは戦ってるんですか?」

ソアラ「ワタシの戦いはただの復讐だった、ワタシの友達を殺した奴らを殺すって決めた、そして全員殺し終わった・・・そしたら気づいたんだ、あいつらは全員ワタシと同じだった。
 大切な人とか大切なものを殺されたりぶっ壊されたりして、その復讐のためならなんだってやってやるって思ってる、その為に権力とかを武力を求める。ワタシと同じだった、ずっと自分と戦ってたんだ。
 人間は愚かだとか、愚劣だと言うやつがいるでしょう?ワタシも昔はそう思ってた、バカな人間どもをぶち殺してやる、復讐してやる!ってさ。
 でも気づいたんだ、違う、人間は愚劣なんかじゃない、ただそういうふうに作られてるってだけなんだ。ワタシは電子レンジに向かってなんで部屋の掃除をしてくれないの!!って怒ってるキXXイだった。
 電子レンジは愚かでも愚劣でも穢れてもいない、ただそういうモノだってだけだ。人間が愚かだって言うやつは、人間は賢いことをすることが出来る、人間はもっと良い世界を作れるっていう根拠のない楽観主義っていう宗教に洗脳されてるんだ、ワタシもそうだった。けどそれは嘘っぱちだ、そんな能力は初めから無いんだ。人間に何も期待しちゃいけない。
 本当は誰が悪いんでもない、この世界をこんなふうに作った神様のせいだ。ワタシは神様をぶっ殺してやりたい、でもそれは叶わぬ願い。
 今のワタシの願いといったら空が見えるところで死にたい、地下で埋もれて真っ暗で死ぬのはイヤダ、それくらいかな。この部屋は空が見えるからいいでしょう?」
 イズナさん達がソアラに会うのはやめたほうが良いと言っていた意味を完全に理解した。
ユミ「その・・・ソアラさんは疲れてるんですよ、おやすみのところ失礼しました」

 そそくさとワタシは退散した。ひゅー、まさかあぁいう最近のロープレのラスボスみたいなタイプだとは・・・。でも疑問が残った。疑問というより直感でわかった。あれは「エアレス」じゃない。
  ソアラには、エアレスのような燃えたぎるようなエネルギーは感じられなかった、エアレスはあんな達観したような無気力人間じゃない・・・これはどういうことだろう、エアレス、の正体はソアラじゃない。だとしたら候補は1人しかいない、我らの大将だ。エアレスの正体はエクセなのか・・・
 たぶん、きっとそうだ。エクセを初めて見た時、巨大な、何かを感じた。
 でもそれは怒り、じゃなかった。今まで感じたことのないようなもの。抗いがたい圧迫感、でも威圧とは違う。言うなれば重力みたいなもの。
 押さえつけられてるって感じはしないけれど、誰も逆らえずに地べたにへばりつかせるようなもの、そういうものをまとっていた。そして底が全然見えない。重力っていう目に見えないものを丸めて人間の形にしたみたいな存在・・・、エネルギーの形は変わっても、あれはエアレスが持っていたエネルギー量と同じレベルのものだ。
 これからはもっと大将を注視してみよう、そしてエアレスの正体を突き止めてやる・・・
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