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しおりを挟む「ねぇ、本当に会社辞めちゃうの?」
休憩時間、江原さんが沙也加に聞いてきた。
「はい。辞めて夫に付いて行くことにしました。」
沙也加はタバコをふかしながら言った。
江原さんはそう言う沙也加をジッと見つめて、隣に座って自分もタバコに火をつけた。
「せっかくチーフになれるってのに…。」
江原さんは呟いた。
「そうですよぉ~! 旦那さんだけ単身赴任してもらったらいい事じゃないですかぁ~!」
小野寺ちゃんもやって来て沙也加に言った。
「私も最初はそうしようって思ってたんだけどねぇ…。今までさぁ、自分の事がこんなに認められたことって無かったから、チーフになってくれって刈谷部長から言われたとき…ほんっとに嬉しかったんだぁ~。やっと自分が認められたんだぁ~って…。」
沙也加は煙を吐き出しながら言った。
「だったらどうして?」
江原さんと小野寺ちゃんは同時に言った。
「あいつ…うちの旦那ね、浮気しやがったんですよ…。」
沙也加は吐き捨てるように言った。
「ハァ~? 最低!」
二人はまた同時に言った。
「でしょ? しかも相手、私の親友!」
「うわぁ~! 鬼畜! マジぶっ殺してもたんねーわ!」
江原さんは言った。
「慰謝料搾り取って離婚届突き付けてやったらどうですか?」
小野寺ちゃんも興奮して言った。
「でもね…体の関係があったとかじゃないの。あくまでプラトニック…。」
沙也加は言った。
「逆に腹立たない?」
江原さんが言った。
「そうなんですよ! なんか気持ち持ってかれる方が私の人格を否定されてるみたいで、余計腹立たしい!」
沙也加は鼻息交りで言った。
「でもねぇ…私の親友にアイツがフラれている現場にたまたま遭遇しちゃって…失恋して打ちひしがれているアイツの事見てたら…なんだか可愛そうになっちゃって…。」
沙也加は携帯灰皿にタバコの灰を落とした。
「高橋さんは物分かりが良すぎるわ…。」
江原さんは溜息をついた。
「優しすぎます、高橋さん!」
小野寺ちゃんも言った。
「ほんっと…頼りなさすぎるから、私が付いて行ってやるの! アイツ、実家の病院の理事になるらしいんだけど、どうも経理で不正があるらしいのよ。アイツの弟たちの話だと、父親の代からずっといる太々しい爺さんがいるんだけど、どうもそいつが他の職員を巻き込んでいるらしいの。そんな魑魅魍魎が渦巻く中、あんな頼りないヤツが戦えるとは到底思えない…。その爺さんたち、私が血祭りにあげてやろうと思ってさ…。」
沙也加はフゥ~とタバコの煙を吐いた。
「キャ~! それでこそ高橋さんよ!」
「カッコイイです~!」
江原さんと小野寺ちゃんは目をハートにさせて沙也加に言った。
「やめてよ~! 恥ずかしい。」
沙也加はまんざらでも無かった。
休憩時間が終わろうとしていた。
江原さんと小野寺ちゃんは先にトイレに行くと去って行った。
沙也加も仕事に戻ろうと思い立ち上がった。
その時、立ち止まってビニールの社内用バッグからスマホを取り出した。
(仕事終わりに少し会えない?)
沙也加はメッセージを送った。
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