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しおりを挟むあれ以来、浩太は家に戻ってこない。
子供達には父親の不在を出張だと言って誤魔化している。
「ねぇ、ママ~! パパはいつ帰って来るの?」
ルイが聞いた。
「…ママには分からないわ。」
モッコは言った。
「…そっかぁ…。僕、パパに買ってもらいたいゲームあるんだけどな…」
「もうすぐクリスマスでしょ! サンタさんが持ってきてくれるわ!」
モッコがそう言うとルイはニコっと笑った。
モッコは子供たちに準備させると、ダンス教室へ向かった。
冬物のコートを羽織ったが、今日の風は特別冷たく感じた。
―あの人は…このまま私たち家族を捨ててユナ先生と一緒になるつもりなのかしら…。
ダンス教室が近づくにつれて、モッコの表情は暗くなった。
「おはようございまぁ~す!」
教室の前では入って来る生徒やその保護者たちに、ユナは明るく挨拶をしていた。
モッコはユナの姿を捉えると、体が固まってしまった。
「先生、おはようございま~す!」
リクとルイは笑顔で挨拶すると、教室の中へ入っていった。
「あ! ママさん! おはようございます! 今日はパパさんじゃないんですね!」
ユナは悪びれる事も無くモッコにそう言った。
―この人は…人の夫を誘惑しといて何の罪悪感も感じないのかしら?
モッコの心にユナに対する憎しみの気持ちがフツフツと湧いてきた。
「主人の事は…私より先生の方がよくご存じなんじゃないですか?」
モッコは精一杯の作り笑いで言った。
「私がですか? いいえ、何も…。って言うか…パパさん…何かあったんですか?」
ユナの表情には嘘が見当たらないとモッコは感じた。
―どういう事? あの人はこの人と一緒になる為に家を出て行ったのよね…。
「先生は…」
モッコが言いかけると
「あ、すみません! 時間なのでレッスンを始めますね!」
そう笑顔で言って中に入っていった。
モッコは戸惑った。
状況が全く把握できない。
ふと横を見ると、背の高いユナと同じくらいの年齢の好青年がニコニコしながらレッスンを見学していた。
モッコの視線に気付くと、その青年はモッコに笑顔で会釈した。
見たことない青年だが、モッコもつられて会釈した。
レッスンが終りの時間に近づいて、ユナは生徒と保護者たちに話がある、と、外で見学していた保護者たちにも中に入ってもらうようにお願いした。
「…突然の事で申し訳ないのですが…私…結婚する事になりました!」
ユナは顔を赤らめて言った。
モッコは胸に鉛のような物が入り込んだような気持ちになった。
―やっぱり先生は…あの人と結婚するつもりなの!?
モッコは頭にカーっと血が昇ってきた。
「センセー! 誰と~?」
子供たちがユナをはやし立てた。
「え~? 知りたいの~?」
ユナがもったいぶった。
「教えてよ~!」
生徒たちはせがんだ。
するとユナは恥ずかしそうに教室の外にいる青年を指さした。
子供たちが一斉に振り返ると、青年は目を大きく見開いて顔を真っ赤にした。
ユナは小さく手招きした。
青年は頭を掻きながら恥ずかしそうに教室の中に入った。
「この人と結婚します。」
二人は真っ赤になってお互いの目を見つめ微笑みあった。
「おめでとー!」
生徒たちは二人を祝福した。
保護者達も拍手で二人を祝った。
―どういう事…。あの人は…どうなるの? ユナ先生は若い男と結婚するために夫を捨てたの? でも…もしかしたら…あの人勘違いしてたんじゃない? 最初からユナ先生にそんな気無かったのよ! だって…こんなに若くて綺麗なユナ先生とうちの冴えない夫じゃ、どう考えても釣り合わないもの!
モッコは全てを悟った。
「それで…なんですけど…本当に皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳ないのですが…私、北海道に帰ることにしたんです。」
ユナは言った。少し目が潤んでいた。
「え~~~! 教室はどうなんの~?」
生徒たちは口々に言った。
「次のレッスンからは新しい先生が来ることになってるの。」
ユナはこぼれた涙を拭いながら言った。
「え~! やだ~! ユナ先生がいい~!」
生徒たちは文句を言った。
「ありがとう! 私もこの教室でみんなとレッスンできて…本当に楽しかった! 今までの時間は私の宝物だよ!」
ユナの瞳からポロポロ涙が溢れ出た。
「これね、みんなにプレゼント! 一緒に撮った写真と、タオルなの。タオルはレッスンの時にでも使ってね!」
ユナは一人一人に声をかけてプレゼントを手渡した。
「本当に今までありがとうございました!」
ユナは深々と頭を下げた。
すると生徒たちも泣きながらユナに抱き着いてきた。保護者たちも目を潤ませてた。
「先生~! 嫌だよ~! 行かないで~!」
「ごめんね。でもね、今度の先生は、めっちゃくちゃカッコいいイケメンのお兄ちゃんだよ!」
「え~~~!」
女の子たちはその言葉に沸いた。ユナはそれを見て大笑いした。
皆が笑っている中、モッコだけが沈みきった表情をしていた。
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