ときめきざかりの妻たちへ

まんまるムーン

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和也(今、会社を出たとこ。これからそっちに行くから)

 絵梨はさっき来た和也のメッセージを見た。

 ここ何日か体調が悪かったのと、沙也加に相談に乗ってもらったり病院に付いてきてもらったりしていたので、和也とは会っていなかった。

―ちゃんと言わなきゃ…。

 絵梨は以前にも増して体調が悪かった。

 吐き気も酷かったし、とにかく眠くて体がだるい。

 しかし、いつかはハッキリさせなければならないのだと、意を決した。



 ピンポーン

 和也が絵梨のマンションにやってきた。

 絵梨はエントランスの解除ボタンを押すと、玄関の鍵を開けた。

 しばらくすると和也がドアを開ける音がした。

「絵梨!」
和也が呼び掛けた。

 絵梨はぐったりとしてソファにもたれかかるように座っていた。

 和也は絵梨の横に座った。

「絵梨! 大丈夫か? 具合悪いの?」

「…ううん。ちょっと寝不足なだけ…。」
絵梨は体を起こした。

 すると和也は絵梨をギュっと抱きしめた。

「会いたかった…。俺がどれだけ絵梨に会いたかったか分かる?」
和也は絵梨を抱きしめたまま言った。

「仕事中、絵梨の事ばかり考えちゃってさ…高校生かって…我ながら情けなくなるよ…」
和也の言葉に絵梨はクスっと笑った。

「…絵梨…また痩せたんじゃないか? 顔色も…すごく悪い…。病院に行った方がいいんじゃないか?」

「ううん、ほんとに大丈夫なの。」

「俺、薬買ってこようか?」

「ほんとにそんなんじゃないから!」

 絵梨はそう言うが、和也は納得がいかないようだった。

 絵梨は和也をジッと見つめた。

―愛してる…。

 気持ちが込み上げてくる。

 そして自分のお腹の愛しい存在が何か訴えているような違和感を放っていた。

 沙也加の顔が浮かんできた。

“隠し通せることでは無いのだから、ちゃんと青山さんに言わなきゃダメよ! 生まれてくる子供の為にも ”

―沙也加の言う通り、ちゃんと言わなきゃいけない。だけど…それを知ったら青山さんはどうするのかしら…? 朋美は…?

 絵梨は戸惑った。

 しかし心を決めた。やはり和也には子供の存在を明かさない方がいいのだ…。



「どうした? お腹空いてない? どこか食べに行こうか? それとも何か取る?」
和也は聞いてきた。

「青山さん…話があるの…。」
絵梨は真剣な目で和也を見つめた。


「私たち…別れましょう…。」

「…え?」
和也は何が起こっているのか把握できなかった。

「どうして? 何でそんな事言うの?」
和也は絵梨に迫った。

「…もう…潮時だと思うの。このまま関係を続けていたら、必ず朋美に気付かれるわ…」

「…。」

「青山さんも、家庭を壊すつもりなんて無いでしょう? だからもう別れた方がいいと思う…。」

「…。」

 絵梨の言葉に和也は何も言えなかった。

「もう会わないし、連絡もしてこないで!」

「君は…それでいいの?」

「…え?」

「俺は毎日でも君に会いたいよ! 会えない日は辛くて、仕事だって手につかないし、いつも君の顔が頭に浮かんでくるんだ。それなのにもう会わないって? そんなの耐えられない! 俺は君の事がこんなに好きなのに! 君は俺の事、何とも思ってないの?」

 大の大人が涙目で訴えていた。

 和也の必死な訴えに絵梨の心は揺れた。

 しかし、朋美の顔が浮かんできた。

 昔、自分が朋美の好きな人を奪ったのにも関わらず、朋美は許してくれた。

 それなのに自分はまた…。

 絵梨の心はグシャグシャになった。泣きそうになるのを必死で堪えた。

 そしてお腹に手を当てた。

―私はこの子がいるから大丈夫。一人でも絶対に守ってみせる!

「私…申し訳ないけど…もう青山さんの事は何とも思ってないの。だからもう会いたくない!」
絵梨は毅然とした態度で言った。

 和也は絵梨の顔を見て悟った。彼女の決心はもう揺ぎ無い物なのだと。

 そしてヨロヨロと立ち上がり、何も言わずに玄関を出て行った。

 絵梨は見送ることすらしなかった。

 和也が出て行ったあと、涙が止めどなく溢れた。

 絵梨はお腹を優しくさすりながら、いつまでも泣き続けた。





 和也はその後、自分がどうやってどこを歩いたのかも分からなかった。

 気が付くとたまに行くバーの前にいた。

 和也は吸い込まれるように中に入っていった。

 とにかく飲んで気を紛らわしたかった。

 そうでもしないとどうかなりそうだった。

 これだけ酒を飲んでいるのに絵梨の事しか思い浮かばない。

 その想いをかき消そうとすればするほど、鮮明に蘇ってくる。

―どうかしてるぞ…全く…。


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