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 朋美は夕食の準備をしなくてよくなったので、一日仕事に没頭した。

 ずっとパソコンに向き合っていたので体が凝り固まっていた。

 少し体を動かそうと、ジムに行くことにした。

 簡単に準備を済ませると、ジムのある駅ビルへ向かった。

 横田の経営するカフェの前を通ると、中にいた横田は朋美に気付き、表に出てきた。

「ジムですか?」

「えぇ。」

「じゃっ、僕も行こうかな!」

「えっ! 仕事はいいんですか?」

「正直、僕がいない方が彼ら楽なんですよ。それに、もう任せても大丈夫だし。」
横田は満足そうに店を眺めた。

「先に行っててください! 後で行きますから!」

― 一緒にトレーニングすると言った訳でも無いのに…。

 朋美は思ったが、「断固としてお断りします!」とも言えず、朋美は先にジムに向かった。



 朋美は十分ストレッチをすると、いつものようにランニングマシーンに向かった。

 走っている時、ふとモッコの事を思い出した。

―あれからどうなったのかしら…。

 後でモッコに連絡してみようと思った。その時、

「待ってぇ~!」
ふざけてこの間と同じ事をいいながら横田がやって来た。

「あら、ほんとに来たのね…。」
朋美はわざと冷たく言った。

「あ~! 酷いなぁ~。俺の事、心配してくれてるんじゃなかったの?」
横田は忌々しそうに言った。

「だって…もう心配する理由が無くなったもの…。横田さん、見習いバイトじゃなくて経営者なんでしょ!」

「だったら朋美さん、俺と結婚してくれる?」

「何でそうなるよ!」

「だってこないだ、俺が正社員になったら結婚してくれるっていったじゃない!」

「そんな事、一言も言ってないし!」
朋美は可笑しくなって笑い出した。

「…旦那さんと離婚しても?」
横田は急に真顔で呟いた。

「え?」

 何を言っているんだろう、この人は…と、朋美は思った。

 朋美はマシンを止め、ペットボトルの水を飲んだ。

「あのね、横田さん。私たち夫婦は完璧に上手くいってるし、お互い支えあってるし、離婚の原因なんて何も無いの。だから、私が再婚するなんてことは有り得ないのよ!」
朋美は子供を諭すように横田に言った。

「旦那さんに他に女がいたら…どうする?」

―やけに食い下がってくるわね…

「夫に女なんていないし、もし仮に浮気したとしても、そんな事で家庭を壊すほどあの人はバカじゃないわよ。きっと上手に隠して、のめり込む前に別れるわ。」

「朋美さんは、物分かりがいいんだね…。」
横田は朋美に笑顔を向けた。しかしその目は笑っていなかった。

「もし俺だったら、朋美さんを悲しませるような事はしないけどな…。」

「あの人も私の事を悲しませたりしてないわ。」

「だったらいいけど…。」
横田は朋美をジッと見つめた。

「ま、この話はこの辺にしといて…。実は朋美さんに仕事の依頼をしたくて…。」

「…仕事?」
横田はいつものように満面の笑みを向けた。




ジムの帰りに朋美はモッコに電話した。

「あぁ、モッコ! 元気にしてる?」

「…うん。」
モッコの声はどこか沈んでいた。

「どうしたの?」

「…その…」
モッコは何か言いたげだったが、言いにくそうにしていた。

「今、家だから…ちょっと電話じゃ言いにくいの…」
モッコは囁いた

―何かあったのね…。

「モッコの都合がつく時に会って話さない?」

「うん! 明日とかどう?」

「分かった。」
朋美は電話を切った。

―何かあったのは間違いないわね…。きっと沙也加のご主人の事ね…。もしかして沙也加にバレて修羅場になったとか…?

 朋美は心配になった。

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