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「あんた…化粧が剥がれて、すっごくブサイクよ!」
沙也加は溜息をつきながら言った。

「…でもさ…何でよりによって青山さんなんだろうね…。あんたなら他にもい~っぱい言い寄って来る人いそうなのにさ…。」
沙也加の言葉に絵梨は何も言えなかった。

「でも…私には少しだけ分かる気がするわ…。」
沙也加は絵梨をジッと見つめて言った。

「え?」
絵梨もまた沙也加を見つめ返した。

「朋美の物は…全部欲しくなっちゃうよね…。何でもない物でも、朋美が持っているだけで良い物に思えちゃう。欲しくなっちゃうの…。」
沙也加は呟いた。

「初めてさ、朋美の家に行った時…ほぉ~んとビックリしちゃった…。あまりにうちと違い過ぎて…。ほら、うちはもともとド庶民の成金でしょ! うちの父親なんか、家にいる時は良くて寝間着、夏なんてタンクトップにトランクスよ! 私はそれがどこの家庭も普通だと思って育ってきたのに…朋美のお父さん、家の中でも普通に外出できるような服着てんのよ!」

 沙也加の発言に絵梨は

―それは普通なんじゃないかな…?

 と思ったが何も言わずに沙也加の言葉に耳を傾けた。

「朋美のお母さんが出してくれるお菓子なんて、普通その辺で見ないようなオーガニックで美味しさより栄養を重視している優等生な物ばかりで…友達が来たときにうちのママが出すようなポンタコスとかうめぇ~棒とか、そんなの全く出てこないのよ!」

 身を乗り出して語る沙也加に絵梨は

―私は逆に沙也加のママの出すお菓子が食べたい…

 と思ったが、口には出さなかった。

「…愕然としたわ…。」
沙也加は溜息をついた。

「私はずっと朋美になりたかった…。分かってるの…朋美にはどうやったって敵わない。立っている場所が最初から違うし、人間としてのスペックも違うのよ。…朋美の事は大好きよ…だけど、そばにいられると、自分が惨めになってきて、悔しくなっちゃって、全て奪ってやりたいって…思ってしまうのよ…。」
沙也加は窓の外を眺めてフッと笑った。

「あ~あ、また私の性格の悪さがバレちゃったわね!」
沙也加は目をギュっと閉じた。

「…沙也加は…優しいわ。みんな…それを分かってるよ。」
絵梨は微笑みかけた。

「よしてよ! なんだかむずがゆくなっちゃうじゃない!」
沙也加は手で追い払う真似をした。

「とにかく絵梨、一緒に病院に行こう! 話はそれからよ。」

―許されることでは無いけど…恋愛って理性で止められない事もあるのかもしれない…。

 絵梨の哀れな姿を見ていると、沙也加は不道徳にもそう思ってしまった。




 絵梨をマンションまで送って沙也加はまた駅へ戻り電車に乗った。

 窓の外はもうすっかり日が暮れ、街灯りが通り過ぎて行った。


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