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しおりを挟む(取引先との会食が入った。今晩、遅くなる)
和也から朋美にメッセージが来た。
―そっか…。良かった、準備する前で。
朋美は一気に料理をする気が失せた。というか、晩御飯の準備が無くなったことを喜んだ。
― 一人だし…外食しようかな…。
朋美はそろそろ買い物に行こうかと切り上げた仕事を、もう少し続ける事にした。
正直、料理はコスパが悪いと朋美は常日頃から思っていた。
買い物や料理に費やす時間があったら、もっと仕事に時間を回したい。
夫婦二人だし、自分で作るのも出来た物を買うのも、費用的には大差ない。
―実際、海外では外食が普通で、家にキッチンが無いというとこもあるわよね…。
料理するのが嫌いという訳ではないけど、この国では女が支度をするのが当たり前というところにも少し疑問を持っていた。
―ま、手を抜いた所でうるさく言うような男で無いだけマシだわね…。
朋美はフフと笑った。
その時、スマホにメッセージが入った。
(朋美~! 今から少し会えない?)
モッコからだった。
朋美はちょうど良かったと思い、モッコに返信した。
そして身支度をしていると、早くもモッコが朋美の家にやって来た。
玄関の扉を開けると、モッコは困ったような、照れているような、なんとも表しがたい表情を浮かべていた。
「どこ行く?」
朋美は聞いた。
「場所はどこでもいいの…。私、もう食事は済ませてるし…。あ! 朋美はしっかり食べていいのよ! 私、お茶をいただくから…。」
「そう…」
朋美はすぐに横田のいるカフェを思いついた。
あそこなら食事も出来るし、お茶だけでも何の遠慮もいらないだろう…。
「あ! 朋美さん!」
店に入ると、すぐに横田が気づいて朋美たちの方へやって来た。
「嬉しいなぁ~! 俺に会いに来てくれたの?」
横田の顔はパァ~と明るくなった。
―全くこの人は…。
朋美は苦笑いした。
横田は朋美たちを窓際のゆったりとしたソファ席へ案内した。
「ん~と、私はパスタにしようかな…。モッコは?」
「私はカフェオレにする。」
モッコは俯いて小さな声で呟いた。
「はい! 少々お待ちください!」
横田はニッコリと笑って奥へ引っ込んで行った。
「あの人…朋美とどういう関係?」
「あぁ…ただの知り合いよ。いつもね、ああいう風に私の事からかうのよ。全く…。」
朋美はクスっと笑った。
モッコは窓の外を眺めながら切なそうな顔で小さく溜息を洩らした。
「…あなた…何かあったの?」
朋美が聞いた
「…聞きたい?」
モッコは待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「…別に。」
朋美がそう言うとモッコはほっぺを大きく膨らました。
「もうっ! 聞いてよ~!」
「はいはい…。で、何よ?」
朋美が改めて聞くと、モッコは顔を赤らめてモジモジした。
朋美はそれを見て、苦笑いしながらハァ~と溜息をついた。
「何? 誰かに愛の告白でもされちゃったの?」
朋美は冗談交じりにモッコをイジった。
「…。」
モッコは目を見開いて、ますます顔を赤くした。
「…マジ? そうなの? 誰よ、相手は?」
「…愛の告白とか…そんなんじゃないわよ…ただ…。」
モッコは益々身をよじらせて言うのをためらった。
「わざわざ私の事呼びだしといて言わないとは言わせないわよ! 誰? 白状しなさい!」
朋美は身を乗り出してモッコに圧をかけた。
「…輝也さん…。」
モッコは俯いたままか細い声で言った。
「え? 誰?」
「…だから…その…沙也加のご主人なの…。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!」
朋美の叫び声に店にいた客が一同朋美たちの方を振り返った。
横田も厨房の奥からわざわざ顔を出して朋美を見た。
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