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しおりを挟む朋美は日中、ずっとパソコン作業をしていたので、体が凝り固まっていた。
―ジムにでも行こうかな…。
朋美は必要な物を大きなバッグに詰め込むと、会員になっているジムへ向かった。
駅ビルの最上階にあるそのジムからは、きさらぎガーデンヒルズの街並みが一望できる。そんな所も気に入っていた。
朋美はトレーニングウェアに着替えると、念入りに準備運動をしてランニングマシンへ向かった。
ガラス張りの壁の外に夕日が見えた。
きさらぎヶ丘を真っ赤に染めている。
朋美はこの風景が大好きだった。
朋美はゆっくりと走るスピードを上げた。
「ま…待ってぇ~! 置いてかないでぇ~!」
横から声がした。見ると横のマシンで横田が朋美に満面の笑みを向けながら走っている。
プッ
朋美はわざとマヌケな走り方をしている横田が可笑しくて噴出した。
「横田さん、何やってんですか?」
朋美は大笑いしながら言った。
「だってぇ…朋美さんが速すぎて、俺、付いて行くのに必死!」
横田は鼻息交りに物凄いスピードで走った。
しばらく走った後、二人は水分補給した。
「偶然ですねぇ~。」
横田はニコニコして言った。
「もうここまで来ると、横田さん、ストーカーなんじゃないかって思うわ…。」
朋美はわざと冷たく言ってドリンクをグイっと飲んだ。
「わぁ~、ひっでぇ~! 朋美さんからそんな事言われたら、俺、生きていけねぇ~!」
横田は乱暴者に虐められた子供の様な顔をした。
「冗談よ。」
朋美はフフっと笑った。
「いつもこの時間に来るの?」
横田は聞いた。
「う~ん、決めてはないかな…。」
「じゃ、決めましょ!」
「何でよ~! また私の邪魔したいの?」
「ひっでぇ~な~! 俺、泣いちゃうよ!」
「まったく…人妻に近寄るなんてケシカラン!」
「人妻だから…じゃなくて、朋美さんだから会いたいなって思うんだよ…。」
横田は笑顔で言った。
―この人…ほんとに私に気があるのかしら…?
朋美は思った。
「ねぇ、横田さんさ、もしかして私の事好きなの?」
朋美は率直に聞いた。
「いいなぁ、そういう面倒くさくない所! くぅ~って来る!」
横田は胸に手をやって言った。
「中年女をからかうもんじゃないわよ!」
朋美はピシャリと言った。
「…からかってないのに。」
横田は口を尖らせた。
「俺、本気で朋美さんをいいなって思ってますよ! 出来る事なら旦那さんから奪ってやりたい!」
「ハァ~?」
朋美は眉間に皺を寄せて横田を見上げた。
「横田さん…人妻を誘惑する前に、しなきゃいけない事があるんじゃない?」
「…え、何?」
―この人は全く…。
朋美は言うか言うまいか悩んだ。
横田はこの年で見習いバイトなのに、ノンキにバーに行ったりジムに来たりしている…。
もう少し自分の人生をしっかり考えた方がいいんじゃないか…。
「横田さん…。きっと私と同年代ですよね?」
「うん。」
横田はご主人様の前で嬉しそうに尻尾を振る犬のような目で朋美の話を聞いていた。
「その…将来の為に…就職するとか…何か資格取る…とか…した方がいいんじゃないかなって…他人がとやかく言う事じゃないですけど…。」
朋美は言いづらそうに伝えた。
「朋美さん! 俺の事心配してくれてたのっ?」
横田の顔がパァ~っと明るくなった。
―何、喜んでんの?
朋美には横田が理解不能だった。
「じゃあ、じゃあさ、俺が定職に付けば、朋美さん俺と再婚してくれる?」
「ハァ? 何でそう言う話になるのっ?」
「だって、俺の事心配してくれるって事は、少なからずは俺の事思ってくれているって事でしょ!」
横田はキラキラした目で朋美を見つめた。
「横田さん! 私には夫がおりますし、離婚する予定もありません。よって再婚もありません!」
―心配するだけ損だわ…。
朋美はハァ~と溜息をついた。
「ちぇっ! でも俺はめげないぞ~!」
横田はそんな朋美を余所に握りこぶしを突き上げた。
窓の外はもうすっかり日が暮れて、きさらぎガーデンヒルズの美しい夜景が広がっていた。
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