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しおりを挟む和也はちょうど駅の改札を出たところだった。
改札の前に酒も飲めるカフェがあり、窓際に絵梨が座っているのが見えた。
―彼女…一人なのか…?
中に入って声を掛けたい衝動に駆られたが、君子危うきに近寄らず…と、その場を通り過ぎようとした。
その時、絵梨の元に近寄る男が見えた。
他に空いている席がたくさんあるにも関わらず、横に座ろうとしている。
絵梨の様子からいって、どう見ても知り合いでは無さそうだ。
明らかに彼女は嫌がっている。
「ずっとあなたの事…想ってたんです…」
男は言った。
「あ…あの…私…もう行かなくちゃ…」
絵梨は急いでバッグを持つと席を立とうとした。
「行くってどこへ? もう仕事は終わってるでしょ?」
男は絵梨の前を塞いだ。
「どいてください!」
「よくここに来ますよね? 僕がずっと見てたの…気づかなかったですか?」
男の言葉に絵梨はゾッとした。
「妻に何の用ですか?」
その時、突然後ろから和也が男の腕を掴み上げた。
男は学生時代アメフトで鍛えた和也のガタイの良さと掴まれた力の強さに怖気づいた。
「…え? 旦那さん? おっかしいな…。」
男は絵梨の事を調べているようだった。
頭を傾げながら怯えるように後ずさりして去って行った。
和也は男の姿が見えなくなるまで睨んでいた。
「青山さん…ありがとうございました。」
絵梨は感謝の言葉を述べた。
「いや…僕は何も…。それよりも、あの男に付きまとわれてるんですか? 警察に通報した方がいいな…。」
「話しかけられたのはさっきが初めてなんです。ビックリしちゃって…。」
絵梨は震えが止まらなかった。
「完全にストーカーだな…。」
和也は言った。
絵梨は店員に合図した。
店員はメニューを持って来た。
「何か頼んでください。」
絵梨は和也にメニューを差し出した。
「いいですよ! 気を使わないで!」
和也は笑って言った。
「いえ…それじゃ私の気が…。せめて少しでもお礼させてください!」
絵梨はメニューを両手で差し出して頭を下げた。
絵梨のその姿が可愛くて、和也は断るのを諦めた。
「絵梨さん、ビール飲んでるの?」
「あ…はい!」
「じゃ、俺も!」
絵梨はニッコリ笑った。
「よくここで飲んでるの?」
和也は聞いた。
「いえ…いつもって訳じゃないんですけど…今日はちょっと飲みたい気分だったので…」
仕事で嫌な事があったのかもしれない。和也は絵梨の表情からそう思った。
「一人で飲んで寂しくない? 朋美を呼べばいいのに…。」
「一人で飲むのも意外といいものですよ! こうして窓の外の行きかう人たちを眺めながら一杯やるのって。」
和也は絵梨の言葉を聞いて、ビールを飲みながら行きかう人々を眺めた。
学生、ビジネスマン、老人、主婦、子供…普段あまり気にも留めないが、このきさらぎガーデンヒルズには、いろんな人が住んでいるのだな…と思った。
そしてその一人一人に自分の知らない暮らしがある…。和也はふと絵梨を見た。
絵梨は優しく微笑みながら窓の外を見つめていた。
和也はその横顔が美しいと思った。
そして、ついこの間まで全く知らなかったこの目の前の美しい女と自分は、今一緒に酒を飲んでいる。
関係の無い女の人生と自分の人生が交差している。
―その人生は…すれ違うのか…重なり合うのか…
変な事を考えてしまう自分自身に和也は呆れてしまった。
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