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しおりを挟むハァ…
沙也加はベランダに出てタバコに火をつけた。
目の前には弥生台の夜景が広がっている。
遠くに見える、ひと際輝いている場所は、皆の住むきさらぎガーデンヒルズ駅だ。
―みんな…輝いてた…。
朋美は言うまでも無く、絵梨は昔から別次元の存在だったし、今でも別次元を生きている。あの人が醜く老いる姿など想像できない。
自分よりも下だと思っていたモッコですら、経済的なゆとりからくるのか、趣味を謳歌しているからなのか、イキイキして見えた。
ーまぁ…旦那との修羅場を見て、彼女もいろいろあるのだと分かったけど…。
それでもモッコは高校時代より遥かに垢抜けていた。
―輝いていないのは私だけ…。
沙也加は言葉にならない焦りを感じた。
―何が原因なんだろう…。
沙也加はイライラをぶつけるように荒っぽくタバコの火を灰皿に押し付けて消した。
「ただいまぁ~。」
輝也が帰ってきた。
―あいつのせいだ!
沙也加は振り返って輝也を睨んだ。
「あれ…夕ご飯は?」
輝也が沙也加に聞いた。
その時、沙也加の頭の中で何かがプツっと切れる音がした。
「あんたさ、夕ご飯が自動で出てくるとでも思ってんの? 買い物して、料理して、盛り付けて、やっと食べれるんだよ! その後には片付けも待ってんの! 家に帰って夕ご飯が出てくるのが当たり前だと思ってない?」
キレ気味の沙也加に輝也はたじろいだ。
「そもそもさ、うちは共働きなのに、なんで私が夕ご飯を作んなきゃいけないわけ? 普通に考えて、私の方が家事の分担が多すぎない?」
―そんな事言うけど…実際は今朝の洗い物もそのままだし、洗濯物も取り込んで無いようだし…掃除もしてないよね…。
輝也は心の中で反論したが、言葉に出す勇気は無い。
「…ママ…疲れてるなら…今晩は外食しようか?」
輝也は恐る恐る言った。
「そういう問題じゃないっ!」
沙也加は怒鳴った。
「…俺だって家事を手伝ってるだろ?」
「はぁ? 何て?」
「…そ…その…ゴミ出しだってしてるし…週末の買い物も俺が行ってるよ! たまにだけど…風呂掃除だって…。純が小さい頃は育児だってたくさん手伝ったじゃないか! 俺だっていろいろ手伝ってるよ!」
その言葉を聞いた瞬間、沙也加は輝也にまるで汚い物でも見るかのような表情をした。
「あんた! 今、手伝ってるって…言った?」
鬼のような妻の形相に輝也は怯えた。
「そもそもさ、手伝ってるって、その意識が問題なんだよ! ここ、おまえの家だろ! 純はお前の子供だろ! 何、自分だけ客観的立場にいんだよ! あんたが主体的に動かなきゃダメだろ! あんたの家族なんだからさ!」
沙也加は怒りで息が上がりそうだった。
「…で…でも…俺が家事で疲れて…その…仕事に支障が出たら…そのせいで給料下がったりする事があったら…うちの家族はやっていけなくなるんじゃない…?」
輝也はか細い声で主張した。
「あぁ? おまえの方が稼いでるから、たいして稼ぎの無い私が家事をしろとでも思ってる訳? 私はおまえの奴隷か?」
妻はブチ切れた。
「…そ…そんな事言ってないだろ…」
輝也は呟いた。
沙也加はまたベランダへ戻ってタバコをふかした。
輝也は恐る恐る妻の元へ歩み寄って声をかけた。
「…ママ…」
沙也加は親の仇でも見るような目つきで輝也を睨んだ。
「今度からさ、家事はキッチリ半分ずつにしよ! 分担表作って冷蔵庫に貼っとくから…。」
妻の言葉に輝也はもう何も言い返すことが出来なかった。
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