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 三人はモール内のブティックを全て制覇した。最終的にはスペイン発祥のブランドの店で全て買う事にした。

「これ、どう思う?」

 沙也加が見せてきたのは、体の線がハッキリ出そうな白のカチッとしたジャケットに丸襟の白い薄手のセーター、細身の七分丈パンツだった。

 それはいかにも朋美が選びそうな服だった。

「はぁ~驚いた! 沙也加ったらずっと朋美と会ってないのに、何で朋美が着てそうな服が分かるの?」
モッコは目を丸くしていった。

「…別に、朋美を意識してないわよ!」
沙也加は口を尖らせて言った。

―犬猿の仲って言うけど…沙也加は世界中の誰よりも朋美の理解者なのかもね…認めないだろうけどねえ~。

 モッコは思った。

「その服もいいけどさ、沙也加はこっちの方が似合うと思うな~。」

 モッコは緑のレースのタイトなロングスカートに丸襟のバルーン袖ブラウスを持って来た。

「え~! 甘すぎない?」

 沙也加は思いっきり嫌そうな顔をしたが、モッコは「とりあえず着るだけ着てみて!」と言って、試着室に沙也加と洋服を押し込んだ。

―沙也加には沙也加の良さがあるわ…。

 モッコはずっと思っていた。

 高校時代から沙也加はいつも朋美の真似をして、朋美が何か買うたびに自分も同じ物を買っていた。

 時には朋美が買おうとしている物を先取りして買って、見つけたのは朋美よりも自分なのだと強調する始末だった。

 初めは面食らうだけだった朋美も、次第にウンザリしていた。

 朋美の性格上、それを表に出すことは無かったけど、モッコは朋美の気持ちが分かっていた。

 沙也加からの一方的な行動だけど、傍から見たらバチバチに張り合っているように見えるこの二人の中に挟まれたモッコはいつもオロオロしていた。

 もちろん朋美は沙也加の事は何も言わない。しかし沙也加からはいつも朋美の悪口を聞いていた。

 そんなに嫌いなんだったら関わらなければいいのに…と思うけど、沙也加は絶対に離れようとはしなかった。

 朋美が東京の大学に行くと聞いて、沙也加も同じ大学を受けようとしたが、そもそも朋美が受験するのは芸大だったので、沙也加は横浜のお嬢様短大に指定校推薦で入学して、二人の進路はバラバラになった。

 そうしてやっと朋美は沙也加から離れる事が出来た。

 モッコはいつも思っていた。沙也加が朋美に張り合う理由なんて無いと…。

 そりゃあ朋美は家柄も頭も容姿も抜群で、誰もが憧れる存在だけど、沙也加だって朋美とは違うタイプの美人だし、足も長くてスタイルいい。

 家は沙也加が言うには成金で品が無いらしいけど、叔父さんと叔母さんはモッコが遊びに行ったとき、とても喜んでもてなしくれるような全く気取ったところの無い、いい人たちだった。

 張り合う必要なんて…いったいどこにあるというのだろう…。


「…どう?」
試着室のカーテンが開いた。

「す…すごく素敵! 似合ってるわ!」
モッコは手を叩いて褒めた。

「…ほう…」
輝也もさすがに驚いた。

―やっぱり沙也加は少し甘めな感じの方がいいわ。

 モッコは頷きながらしみじみ思った。

 性格がキツイところがあるから見逃しがちだけど、実は沙也加の顔は甘めな可愛い感じなのだ。少し垂れ目で大きな目も可愛いし、肌はイエベだからこのトーンの緑はすごく似合っている。

―さすがモッコさんだな…。
妻の変身にも驚いたが、輝也はモッコのセンスに感心していた。

「…悪くないわね…」
何だかんだ言いながらも沙也加はモッコのコーディネートを気に入ったようだった。

 結局その洋服を買って、さらにアクセサリーと靴まで新調した。沙也加はそれらもモッコのアドバイスで選んだ。

「…モッコの意外な才能を発見したわ!」
沙也加は満足げに言った。

「何言ってんのよ。」
モッコは謙遜した。

―謙虚な女性だな…モッコさんは…これが沙也加だったら「もういいよ!」って言いたくなるくらいまで自慢してくるけどな…

 輝也はそんな事を思いながらモッコを見つめた。沙也加と話しながら大口を開けてケタケタ笑う、そんな飾りっ気の無さも可愛いなと思った。

「じゃあ、私たち帰るわ。」
沙也加がモッコに言った。

―え? 私…たち!

 輝也は沙也加が当然自分も一緒に帰るみたいにモッコに告げたので戸惑った。

―帰るなら一人で帰ればいいのに…。今日はモッコさんとまともに会話すらしてない…。

「さ! 行くわよ!」
沙也加はそう言うと輝也の腕を引っ張った。

「モ…モッコさん…じゃあ、また…。」
輝也は後ろ髪引かれる思いでそう言った。

「さよなら!」
モッコは二人に笑顔でそう言った。

「あ…あの!」
輝也は立ち止まった。

 モッコは首を傾げて輝也を見た。

 沙也加は「何ちんたらしてんだ?」とばかりに眉間に皺を寄せて夫を見た。

「今日は…その…沙也加に服を選んでくれてありがとう! モッコさんのセンス、最高だよ!」
輝也は頭を下げて言った。

 モッコは自分の事を褒めてもらえて顔を赤らめた。

―か…可愛い…

 輝也の胸はキュンと音を立てた。

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