30 / 101
30
しおりを挟む「ちょっと! あんたたち!」
モッコと輝也の座っているテーブル席の前に沙也加が腕組みして仁王立ちしていた。
「沙也加!」
モッコは驚いた。
「あ…そのっ…あのっ…モッコさんとは偶然ここで会って…」
輝也は慌てた。
「何、言い訳めいた事言ってんの? まるで不倫現場に遭遇したみたいじゃない!」
沙也加は眉間に皺を寄せて言った。
「そ…そんなんじゃないよ!」
輝也はますます慌てた。その様子を見て沙也加は大笑いした。
「あったりまえでしょ! まさかそんな事あるなんて思う訳無いじゃん! ねっ、モッコ!」
沙也加は笑いながらモッコにも言った。
「そうよ…そんな事ある訳ないじゃない! だって私よ! こんな中年のおばさんといたって疑われるはず無いわ…。」
モッコは自虐的に言った。
―そんな事ない…。現に俺は…
輝也はモッコを見つめた。その場を取り繕うために自分を貶めているモッコをさらに愛おしく思った。
「これから夫婦でデート?」
モッコは沙也加に聞いた。
「あ~、別にこの人と約束して来たんじゃないけど、ここに来たらたまたまあんたたちに出くわしたって訳よ。それよりさ、モッコはこの後、時間ある?」
「え…私? 夕方まで別に用事は無いけど…。沙也加! 今晩、私たちの同窓会だって忘れてない?」
「忘れる訳無いでしょ! その為に私、ここに来たんだから! ねぇ、今晩着ていく服を買いたいの! 付き合って!」
「あ…あぁ…私で良かったら構わないけど…」
―え! 沙也加のやつ、モッコさんを独り占めすんなよ! …せっかくまた会えたって言うのに…
輝也は予期せぬ妻の登場にイラついた。
「今晩着ていく服を買いたいの。付き合って!」
沙也加はモッコに言った。
「今晩の為に服まで新調するの? 来るのは気の知れたメンバーなのに勿体なくない?」
モッコは驚いた。
モッコも夜のお出かけなので少しはお洒落するつもりだったが、その為に服まで新調しようなどとは思いもしないからだ。
「分かってないわね…。みんなが揃うのって15年ぶりなのよ! バカにされないように武装しなくちゃ!」
沙也加は鼻息交りだ。
きっと朋美と張り合おうと思っているのだろう…。沙也加は全然変わってないな、とモッコは思った。
「わかった。付き合うわ! …えっと…」
モッコは輝也を見て、そして沙也加を見た。
「あんたはどうすんの? どうせ私の服選びなんて退屈だろうから帰っていいわよ。」
沙也加は輝也に言った。
「お…俺も行くよ!」
輝也は急いで立ち上がった。
「珍しいわね…。普段は全く付き合わないくせに…。ま、いいわ、時間が無いから行きましょう。」
三人はカフェを後にした。
「もっと早く言ってくれたらジムとか行ってダイエットしたのに!」
モールの通路を歩きながら沙也加が文句を垂れた。
「だってぇ、みんなに再会したの、ほんとつい最近なのよ! それに気心知れた女同士の集まりなのに、そこまで気合いれなくてもいいじゃない!」
モッコは必死に沙也加について行きながら言った。
モッコより背の高い沙也加の歩幅は広く、一緒のペースで歩いていても背の低いモッコは速足でないと並んで歩けない。
モールの長い通路をほぼ駆け足状態で歩いていると次第に息が切れてきた。
―モッコさん、小動物みたいだな…。
後ろからついて来ている輝也は、モッコの必死な駆け足姿を見て、さらに胸がキュンとなった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ぼくたちのたぬきち物語
アポロ
ライト文芸
一章にエピソード①〜⑩をまとめました。大人のための童話風ライト文芸として書きましたが、小学生でも読めます。
どの章から読みはじめても大丈夫です。
挿絵はアポロの友人・絵描きのひろ生さん提供。
アポロとたぬきちの見守り隊長、いつもありがとう。
初稿はnoteにて2021年夏〜22年冬、「こたぬきたぬきち、町へゆく」のタイトルで連載していました。
この思い入れのある作品を、全編加筆修正してアルファポリスに投稿します。
🍀一章│①〜⑩のあらすじ🍀
たぬきちは、化け狸の子です。
生まれてはじめて変化の術に成功し、ちょっとおしゃれなかわいい少年にうまく化けました。やったね。
たぬきちは、人生ではじめて山から町へ行くのです。(はい、人生です)
現在行方不明の父さんたぬき・ぽんたから教えてもらった記憶を頼りに、憧れの町の「映画館」を目指します。
さて無事にたどり着けるかどうか。
旅にハプニングはつきものです。
少年たぬきちの小さな冒険を、ぜひ見守ってあげてください。
届けたいのは、ささやかな感動です。
心を込め込め書きました。
あなたにも、届け。
【1】胃の中の君彦【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
喜志芸術大学・文芸学科一回生の神楽小路君彦は、教室に忘れた筆箱を渡されたのをきっかけに、同じ学科の同級生、佐野真綾に出会う。
ある日、人と関わることを嫌う神楽小路に、佐野は一緒に課題制作をしようと持ちかける。最初は断るも、しつこく誘ってくる佐野に折れた神楽小路は彼女と一緒に食堂のメニュー調査を始める。
佐野や同級生との交流を通じ、閉鎖的だった神楽小路の日常は少しずつ変わっていく。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ一作目。
※完結済。全三十六話。(トラブルがあり、完結後に編集し直しましたため、他サイトより話数は少なくなってますが、内容量は同じです)
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」「貸し本棚」にも掲載)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる