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 ダンス教室の前方は壁一面鏡張りになっていて、先生と生徒たちは鏡に向かってダンスをしている。

 後方には保護者用にいくつか席が設けられていた。浩太は保護者席には座らずに、教室の外で窓越しに中の様子を見ていた。

 視線の先はリクでもルイでも無く、ユナだった。

 先日のバーでの一件のせいで、教室の中には入ることが出来なかった。

 浩太の心臓は今にも飛び出るんじゃないかというほどバクバクと高鳴った。

 軽快なK-popの曲に合わせてユナが躍っている。

 男物の大きなサイズの服を着ていても、そのスタイルの良さは隠しきれていない。

 鏡に映るユナの顔を浩太はボーっと見つめた。

 つぶらなアーモンドアイズ、小ぶりだけど筋の通った形のいい鼻、そしてぽってりした…唇…! 

 浩太の脳裏にバーでのキスがフラッシュバックした。

 その瞬間、浩太は頭に血が上って顔が真っ赤になった。

―俺はいったいどうしたんだ!

 浩太は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか?」
通りがかりの人が心配して声をかけてくれた。

「大丈夫です。ちょっと立ち眩みがしただけです。」
浩太は頭を下げてお礼を言った。通行人は安心したように笑顔を向けるとそのまま通り過ぎて行った。

―さすが「きさらぎガーデンプレイス」…ここの住人は親切な人が多いな…

 浩太はこの街に家を買った自分の判断が正しかったと誇らしく思った。

 そしてまた窓越しに教室の中のユナを眺めた。もはやユナ以外に浩太の視界に入ってこなかった。

―本当に可愛いな…。あんな可愛い子…めったにいない…。何であの男はユナ先生の事を振るのだろう…信じられない…。

 といっても浩太自身、以前は美人が苦手だった。

 しかし今考えると、美人が苦手なんじゃなくて、美人は自分の事なんか相手にする訳無い、あったとしても自分の社会的地位か収入が好きなだけだし、どうせ好きになってもらえないのだから、こっちが好きになってフラれて傷つくより、こっちから美人が嫌いになった方がいい、そう心の奥で思っていた。

 バカにされたくなくて、そんな本心を隠していたのだ。

 浩太は本当の気持ちに気付いた。



「ありがとうございました!」
生徒たちの声がした。レッスンが終了したようだ。

 子供たちは靴を履き替えて帰り支度をしている。

 ユナ先生を見ると、何人かの母親たちに囲まれて雑談していた。

「パパ~! どうだったぁ~? 上手に踊れてた~?」
リクが駆け寄ってきて聞いてきた。

「うん! 上手だったよ! パパ、驚いちゃった。」

 ―本当はユナ先生に目が釘付けで我が子のダンスをほとんど見ていないけど…。

「僕は?」
ルイも聞いてきた。

「いやぁ~ルイがあそこまで踊れるなんてビックリしたよ!」
浩太がそう言うとルイは満足そうに笑った。

「嘘ばっかり! ルイ間違えてばっかだったじゃん!」
リクが顔をしかめて言った。

「おまえこそ間違いばっかだろ!」
ルイはリクに掴みかかり今にもケンカになりそうだった。

「いい加減にしなさい! 二人とも上手だったよ。」
浩太はそう言って二人を引き離した。

 そこへユナ先生がやって来た。先生と目が合うと、浩太の心臓は跳ね上がって動悸が激しくなった。ユナ先生は子供たちに笑顔を向けた。

「リクちゃん、ルイ君、先生、ちょっとパパとお話してもいいかな?」

―いきなり二人で話?

 浩太は気絶しそうになった。

「パパさん…少しだけ…いいですか?」
ユナ先生は上目がちに言った。

「…も…もちろん!」

 浩太はリクとユナに1階のファーストフード店で待っているように言って二人にお金を渡した。

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