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しおりを挟むモッコと輝也は一緒に買い物を済ますと、前回行ったモール内のカフェへ向かった。
「お時間…大丈夫なんですか? 沙也加が待ってるんじゃない?」
「待ってなんかないですよ。むしろ僕なんかいない方がいいと思ってるんじゃないかな? それより、モッコさんは大丈夫? って…僕が強引にお誘いしちゃってるんだけど…」
「私は大丈夫です。子供たちはダンス教室に行ってるし、夫が迎えに行ってくれるから。」
二人は前と同じテラス席に座った。
「この席も…僕らのいつもの席…になりそうですね。」
「そっ…そんな言い方…まるで付き合い始めの高校生みたいじゃない!」
輝也が恥ずかしそうに言うので、モッコも照れてしまった。
「モッコさんの動画、見ましたよ。良かったなぁ~! あれ、撮影も編集も自分でしてるんですか?」
「あぁ…まぁ…。ってってもね、今はいいアプリがあって、特別な技術や機材が無くてもスマホ一つで出来るの。まぁ。凝りだしたらキリが無いけど、私は主婦だし、自分の趣味にお金はかけたくないし…。」
―モッコさん、お金かけずに趣味を楽しめるなんて…なんて慎ましくて可愛いんだろう…
輝也は感心した。
「凄いなぁ…。スマホだけで作ってるんだ…。いや、僕…めちゃくちゃ感心したんですよ! すごい才能だなって…」
「そんな事無いですよ…。今は誰でもやってるんじゃないですか?」
「いや…僕の知り合いには一人もいない…。」
「そ…そう?」
モッコは輝也から褒めちぎられてどういう態度と取ればいいのか分からなかった。
「…でもね…うちの主人は私に呆れてるのよ。撮影中、あからさまに溜息もらしたりして…。あまり良く思ってないみたい…。」
浩太はモッコの動画に感心が無いばかりか見る事すら無い。絶好のシーンだと思い再撮影を頼むと、呆れたような表情で嫌々ながらやってくれる。
浩太が嫌がっているのも呆れているのもモッコは分かっていた。
それでも協力してくれるだけありがたいと思うようにして気にしないようにわざと大袈裟に明るく振舞った。
―私が我儘なだけ…。それ以外の面では、いい夫でありいい父親なんだから…。こんな風に思っているなんて悪い妻だわ…。
モッコはそう思う事にしていた。
「どうしてだろう…。あんなに素敵な動画なのに…。もし僕の妻があんな動画を作れるとしたら、周りに自慢して回るのに…。」
輝也は眉をしかめて呟いた。
その言葉にモッコは救われたような気がした。
「あ…あら…嫌だ…。何でかしら…。」
みるみるうちにモッコの瞳から涙が溢れ出てきた。輝也はすぐにテーブルにあった紙ナプキンを何枚か取り、モッコに渡した。
「ごめんなさいね…どうしたんだろ、私…。」
モッコはわざと笑いながら急いで涙を拭いた。
輝也はずっとモッコを見つめていた。
―可愛い…。抱きしめてあげたい…。
口には出せないそんな想いを飲み込んだ。
「ちょっとあんたたち!」
二人の席の前に女が近寄ってきた。
モッコと輝也が振り向くと、目の前に仁王立ちした沙也加がいた。
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