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しおりを挟む「きさらぎって、住み心地どうですか?」
横田が聞いてきた。
「そうですね…感想を言える程長く住んでいる訳ではないですけど…すごく住みやすい街だと思います。」
朋美はそう答えると、ケーキを一口食べた。
そのケーキの美味しさに驚いた。その様子を横田は見逃さなかった。
「美味しいでしょ!」
朋美がケーキの美味しさに驚いているのがそんなに嬉しいのか、横田は前のめりになって言った。
「…今まで食べた中で一番美味しいかも…。」
朋美がそう言うと横田は満足そうに何度も頷いた。
「ただねぇ…器が合っていない気がするんだよな…」
横田が皿をマジマジと見ながら呟いた。
その皿は有名なブランドの物で装飾も美しかったが、朋美も実はそう思っていた。
「私もそう思いました。私だったら…もっとこう…何て言うんだろ…むしろ「石」って感じの…暗めで重厚感あるお皿にするかな…。ケーキの色が映えるような…」
朋美が呟くと
「そうそう! まさにそんな感じ!」
横田が目を輝かせながら言った。
「朋美さんだったらここのカフェの内装をどんな風にする?」
「…そうですねぇ…」
朋美は店内を見回した。
ホテルのカフェだけあって内装は豪華だった。
ただ気になっていたのは貫禄のある滝だった。
ヨーロッパ風のインテリアが凄みのある滝を生かしきれていないような気がした。
「…テーブルや椅子をシンプルで重厚感のある重めな物にして…装飾品も数を減らして…外の滝の存在感がもっと増すように室内はもっと暗めにして…詫びさびを効かせた和テイストにするかな…。壁に掛けてある絵画も、鳥獣戯画みたいな、渋いけどどこかクスっと笑えるものにしたいな。ここって海外からいらっしゃるお客様も多いし、そういう方がウケるかも!」
朋美は考えだしたら妄想が止まらなくなって、アイデアがどんどん湧いてきた。横田はそれをニコニコしながら聞いていた。
「…いいですねぇ! 僕も和テイスト大好きなんだ! 京都とか好きで良く行くんですよ。」
「京都いいですよね! 私も時々行きます。」
「そっかぁ、もしかして向こうですれ違ってたかもしれないな!」
浮かれて話す横田を見て朋美はフフと笑った。
「朋美さん、お仕事もしかしてインテリア関係ですか?」
「…デザインの仕事をしてます。」
「そうなんだぁ~。カッコいいなぁ。」
横田は目を細めて微笑んだ。
「…いえ…大した事はしてないですよ。」
朋美は謙遜した。
「いいですよね。充実した人生って感じで。」
横田は言った。
「そんな事無いですよ。」
「そうですよ! それにご主人もイケメンだしね!」
朋美は返答に困った。
「ご主人が羨ましいな、こんな素敵な奥さんがいて!」
朋美はますます返答に困って苦笑いをした。
「横田さんだって…」
朋美は言いかけて戸惑った。
―横田さん…定職についてない訳だし、離婚してるし…なんと返したらいいのだろう…。
「人生いろいろ乗り越えると更なる飛躍が期待出来ますよ…ね…。」
さんざん悩んだ挙句、朋美はそう言った。言った後で、もっと気の利いた事を言えなかったのかと自分が情けなくなった。
「プッ…ありがとう。」
横田は嬉しそうに大笑いした。
そして二人はしばらくの間、会話を楽しんだ。
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