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しおりを挟む「バー・きさらぎカクテル」
浩太とユナは駅から近いビルの二階にあるバーに入った。賑わいのある路面店に比べて人も少なく落ち着いて話が出来る店だ。
二人は店の一番奥のボックス席に座った。ちょうど店の角だったので壁に沿ってL字型にソファがあり、手前に小さなテーブルが置いてあった。
「すみません…私の我儘に振り回せてしまって…。」
「いや、ちょうど一杯やりたいなって思ってたんですよ。暇を持て余してたし…。」
「そうなんですか? そのキャリーバッグ…もしかして出張帰りとか? ご家族の皆さん、パパさんの帰りを待ってるんじゃないですか? ごめんなさい、私ったら…。」
―するどい…。
「大丈夫ですよ! 僕なんかいてもいなくても同じだし、亭主元気で留守がいいって言うでしょ! アハハ…。」
本当はさっきからずっとスマホが鳴っている。妻のココからだ…。
しかし浩太は目の前の誘惑に抗う事が出来なかった。
「…付き合って五年になるんです。」
浩太が聞かずともユナが話し始めた。
「大学時代のダンスサークルの先輩で…卒業してからもずっと付き合ってて…私このまま…あの人と結婚するんだって思ってたんですよ…。」
ユナは涙を堪えて話した。その横顔を浩太は本当に綺麗だなと思って見つめた。
「だけどあの人…仕事関係で知り合った人といい感じになっちゃったみたいで…それで私と別れたがってるみたいなんです…。」
ユナは運ばれて来たカクテルを一気に飲み干した。
「あぁ…そんなに一気に飲んじゃダメだよ。」
浩太はハラハラしながらユナに言った。
ユナは浩太が止めるのも聞かず、バーテンにもう一杯注文した。そしてまた一気に飲み干した。
「私、遊びの女だったんですかねぇ~。結婚となると、男は平気で乗り換えるんですかねぇ~。」
ユナは酔いが回ってきたようでカウンターテーブルの上にうつ伏した。
「大丈夫? そろそろ帰った方がいいよ。」
浩太は心配になってきた。
ユナはその体制のまま浩太の方を振り向いた。
「パパさん、優しい~! うん、結婚するならあんなクソ野郎じゃなくて、パパさんみたいな人がいいなぁ~。」
ユナの潤んだ目でそう言われて浩太の心臓はズキューンと音を上げた。
見れば見るほどユナは可愛い。
キラキラした大きな瞳、スベスベの肌、緩くウェーブのかかった明るい色の髪、全てが可愛くて堪らない。
そんな可愛い顔に反して胸は大きくお尻もキュっと上がっている。
それに反比例してウエストは信じられないくらい細い。
―ココとは正反対だ…。
その時、急にユナが浩太の肩に頭を持たれかけてきた。
―え!
浩太は心臓の音がユナに聞こえてしまうんじゃないかと思った。それくらい浩太の胸は高鳴っていた。
「パパさん、私と付き合って!」
ユナがふざけて言った。
「先生、酔い過ぎですよ。そろそろ帰りましょ!」
「先生、先生って…私、パパさんの先生じゃありませんよ。ユナって呼んで!」
「え?」
「呼んで!」
ユナは浩太の方に頭を持たれたまま浩太の目を見つめた。
―ち…近い…!
「パパさん、名前何て言うの?」
「海野です…。」
「そんなこと分かってるってばぁ~! 下の名前はっ?」
ユナは浩太の胸を軽く叩いた。
「…こ…浩太…。」
浩太は小さく呟いた。
「浩太!」
ユナは浩太に顔を近づけて呟いた。
―もうだめだぁ~。
浩太はユナの色気にフラフラした。
「…ユ…ユナ…。」
浩太が照れながらそう言うと、ユナはニッコリ笑って、そして浩太にキスをした。
―いったい俺の身に…何が起きているんだ…。生まれて今まで真面目に生きてきた。妻子を養って立派な家庭を築いてきた…。いけないだろ…こんなこと!
そんな考えが高速で浩太の頭の中を駆け抜けた。
が!
それはほんの一瞬の事で、そのまま全力疾走で頭の中から跡形も残さず綺麗さっぱり走り去って行った。
そして浩太はユナをギュっと抱きしめると無我夢中にユナの唇を自分の舌でこじ開けた。
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