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しおりを挟む土曜の朝。開店したばかりのショッピングモールに輝也はいた。モール内のスーパーで、カートを押しながらメモ用紙片手に買い物をしていた。
―次は…バターか…。
輝也はバターを置いてある棚に目をやった。そこにはバターだけで何種類もあった。
―どれも大した違いないと思うけど…値段がかなり違うな…。
輝也はバターを手に取って見比べていた。その時、
「もしかして…沙也加のご主人様じゃないですか?」
声を掛けられた。振り向くと、愛嬌のある女性がにこにこしながら立っていた。
―誰だったっけ?
輝也は必死に思い出そうとした。
「覚えてる訳ないですよね…。私、沙也加の同級生の海野ココです。」
「あ~! モッコさん!」
輝也はやっと思い出した。
ー先日、自宅に来ていた女性だ!
沙也加に来客なんて珍しいと思っていた。自分が帰宅するのとモッコが帰るのが同時で、軽い挨拶程度にしなかったからなかなか思い出せなかったのだ。
「思い出してもらえて光栄です! 私は高橋さんのお顔、覚えてましたよ~!」
「え…すみません。」
輝也は首の後ろ掻きながらバツが悪そうに言った。
「いいの、いいの! 私、イケメンはすぐ覚えちゃうんだから! 歴史の年号とかは、全く覚えられなかったって言うのにね…。」
モッコはクシャっと笑いながら言った。そんなモッコにつられて輝也も笑った。
―楽しい人だな…。
輝也は思った。
「それ…どっちを買うか悩んでるんですか?」
モッコは和也が両手に持っていたバターを指さして言った。
「あ…あぁ…そうなんです。量は同じだけど値段が違うし…味も違うのかなぁって思って…。そもそも僕、バターの味の違いなんて分からないですけどね…。」
沙也加の友達の手前、安物を買うのも恥ずかしかったので、和也は高い方を買おうとカートに入れようとした。
「待って! こっちの方が良いですよ!」
モッコは安い方を手渡した。
「…そうなんですか?」
輝也は聞いた。
「この二つ、値段は違うけど中身は同じなのよ。同じ会社が製造してるの。こっちはこのスーパーのプライベートブランドだから、広告費をかけてない分安くなっているんです。」
「…そうなんだ…。」
輝也はモッコを感心した目で見つめた。
モッコは輝也のカートを覗き込んだ。
「この洗剤もオリジナルブランドがあるのよ! こっちこっち!」
モッコはニコニコしながら輝也を先導した。
「ほら! 200円も違うのよ! 凄いでしょ!」
モッコは嬉しそうに洗剤を取り出して言った。
―可愛いな…この人…。
輝也はそう思った。
「…ごめんなさい。私ったらいつもの悪い癖が出ちゃったわ。人様の買い物を覗き込んだりして、偉そうにアドバイスまで…。」
モッコは眉も目尻も口角も下げてしょんぼり小さく呟いた。
「いつもね、主人から言われるの! お節介だって!」
「そんな事ない! 凄く勉強になりましたよ!」
輝也は言った。
「ほんとに?」
「本当に!」
輝也の言葉を聞いてモッコはまた笑顔になった。
「あの…買い物が終わったらそこのカフェでも行きませんか? いい情報を教えてもらったお礼がしたいので…。」
輝也は言った。
「…そんな…お礼されるほどの事は…」
「僕にとっては有益な情報ですよ! ねっ、良かったら!」
「…じゃあ、お言葉に甘えて…。」
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