ときめきざかりの妻たちへ

まんまるムーン

文字の大きさ
上 下
15 / 101

15

しおりを挟む


 土曜の朝。開店したばかりのショッピングモールに輝也はいた。モール内のスーパーで、カートを押しながらメモ用紙片手に買い物をしていた。

―次は…バターか…。

 輝也はバターを置いてある棚に目をやった。そこにはバターだけで何種類もあった。

―どれも大した違いないと思うけど…値段がかなり違うな…。

 輝也はバターを手に取って見比べていた。その時、

「もしかして…沙也加のご主人様じゃないですか?」

 声を掛けられた。振り向くと、愛嬌のある女性がにこにこしながら立っていた。

―誰だったっけ?

 輝也は必死に思い出そうとした。

「覚えてる訳ないですよね…。私、沙也加の同級生の海野ココです。」

「あ~! モッコさん!」

 輝也はやっと思い出した。

ー先日、自宅に来ていた女性だ! 

 沙也加に来客なんて珍しいと思っていた。自分が帰宅するのとモッコが帰るのが同時で、軽い挨拶程度にしなかったからなかなか思い出せなかったのだ。

「思い出してもらえて光栄です! 私は高橋さんのお顔、覚えてましたよ~!」

「え…すみません。」
輝也は首の後ろ掻きながらバツが悪そうに言った。

「いいの、いいの! 私、イケメンはすぐ覚えちゃうんだから! 歴史の年号とかは、全く覚えられなかったって言うのにね…。」

 モッコはクシャっと笑いながら言った。そんなモッコにつられて輝也も笑った。

―楽しい人だな…。
輝也は思った。

「それ…どっちを買うか悩んでるんですか?」
モッコは和也が両手に持っていたバターを指さして言った。

「あ…あぁ…そうなんです。量は同じだけど値段が違うし…味も違うのかなぁって思って…。そもそも僕、バターの味の違いなんて分からないですけどね…。」

 沙也加の友達の手前、安物を買うのも恥ずかしかったので、和也は高い方を買おうとカートに入れようとした。

「待って! こっちの方が良いですよ!」
モッコは安い方を手渡した。

「…そうなんですか?」
輝也は聞いた。

「この二つ、値段は違うけど中身は同じなのよ。同じ会社が製造してるの。こっちはこのスーパーのプライベートブランドだから、広告費をかけてない分安くなっているんです。」

「…そうなんだ…。」
輝也はモッコを感心した目で見つめた。

 モッコは輝也のカートを覗き込んだ。

「この洗剤もオリジナルブランドがあるのよ! こっちこっち!」
モッコはニコニコしながら輝也を先導した。

「ほら! 200円も違うのよ! 凄いでしょ!」
モッコは嬉しそうに洗剤を取り出して言った。

―可愛いな…この人…。
輝也はそう思った。

「…ごめんなさい。私ったらいつもの悪い癖が出ちゃったわ。人様の買い物を覗き込んだりして、偉そうにアドバイスまで…。」
モッコは眉も目尻も口角も下げてしょんぼり小さく呟いた。

「いつもね、主人から言われるの! お節介だって!」

「そんな事ない! 凄く勉強になりましたよ!」
輝也は言った。

「ほんとに?」

「本当に!」
輝也の言葉を聞いてモッコはまた笑顔になった。

「あの…買い物が終わったらそこのカフェでも行きませんか? いい情報を教えてもらったお礼がしたいので…。」
輝也は言った。

「…そんな…お礼されるほどの事は…」

「僕にとっては有益な情報ですよ! ねっ、良かったら!」

「…じゃあ、お言葉に甘えて…。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...