4 / 101
4
しおりを挟む「見た感じからいって、てっきり最初の店員が店長かと思った…。って事はあれだな…あっちの店員はかなりの年下から使われているって事だ。」
和也はテラス席の片づけを終えて店内に入ってきた先ほどの感じの良い同世代の男性スタッフについて呟いた。
「そんな事どうでもいいじゃない。別によくある事でしょ…。」
朋美は和也のこんな所があまり好きじゃない。
「俺はただ感心してただけだよ。俺だったら絶対無理だもん。年下から顎で使われるなんてさ…。」
「別に顎で使われてる訳じゃないかもしれないでしょ。それにそんな事、関係の無い私たちが話題にするのは失礼だよ。」
もういい加減こんな退屈な話題は切り上げて欲しいと思ったのだが、和也はまだ食いついてきた。
「きっとあの人、リストラでもされたんじゃないか? 多分バイトだろ…俺たちと同じくらいの年で…。自分だったらって思うと…あぁ怖い! 身震いするよ…。」
ハァ…
朋美は呆れて溜息をついた。
「はいはい、俺は意地が悪いですよ。朋美はお利巧さんだからな…。」
和也は話したい事を遮断されて頭にきたのか、嫌味を言った。
―この人は何でこうなんだろ…
と思った時に、注文の品が運ばれてきた。運んできてくれたのは、例の同世代の男性スタッフだった。
「お待たせいたしました。」
その人は満面の笑みで丁寧に皿を置いた。
「研修中 横田」
その人の胸のプレートにはそう書いてあった。
―すごく感じがいいし、所作も丁寧で綺麗…。こんな人でも和也の言うようにリストラされたりするのだろうか…。もしそうなのだったら…この国はいったいどうなってしまったんだろう…。
その人が本当にリストラされたかも不明なのに、朋美までそんな事を考えてしまった。
―結局、私も人の事言えないって事ね…。
「駅の中にさ、洒落た酒屋を見つけてさ、輸入品のオシャレなつまみなんかも売ってるんだよ。どう? 帰りに寄って買って帰ってさ、夜はワインでささやかな引っ越し祝いをするってのは?」
和也は空腹が解消されたのもあって、さっきまでの不機嫌は無かったかの如く、そんな事を切り出してきた。気持ちの切り替えが速い所はこの人の良いところだ。
「いいね! そうしよ。」
朋美たちは夫婦の時間を満喫した。
モッコ、絵梨、沙也加…そして朋美の四人は、地元でお嬢様学校と言われる小学校から女子大まである私立の女子高に通っていた仲良しグループだった。
ブレザーの制服が増えていく中、彼女たちの学校は頑なにセーラー服を固持していた。
他校の生徒からは、今時セーラー服なんてダサい…と言われながらも、上品な制服は一目置かれていた。
あれから20年…。
―あっという間のような気もするけど、それなりにいろいろあった。みんなどうしているんだろう…。モッコは、私が会いたくないのは沙也加だと思っている。正直、私は沙也加が少し苦手だったけど、それは嫌いという意味では無い。そして会いたくないのは…沙也加じゃない…。
昔の心の傷が少しだけ蘇った。
ふと視線を感じてそれを辿ると、研修中の横田さんと目が合った。彼は朋美に笑顔でお辞儀をした。朋美も笑顔でそれに応じた。
昔の古傷が不意に疼きだした…そんな気持ちが朋美の表情にも表れていたのかもしれない。彼は気遣ってくれるような表情で微笑んでいるように朋美は感じた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ぼくたちのたぬきち物語
アポロ
ライト文芸
一章にエピソード①〜⑩をまとめました。大人のための童話風ライト文芸として書きましたが、小学生でも読めます。
どの章から読みはじめても大丈夫です。
挿絵はアポロの友人・絵描きのひろ生さん提供。
アポロとたぬきちの見守り隊長、いつもありがとう。
初稿はnoteにて2021年夏〜22年冬、「こたぬきたぬきち、町へゆく」のタイトルで連載していました。
この思い入れのある作品を、全編加筆修正してアルファポリスに投稿します。
🍀一章│①〜⑩のあらすじ🍀
たぬきちは、化け狸の子です。
生まれてはじめて変化の術に成功し、ちょっとおしゃれなかわいい少年にうまく化けました。やったね。
たぬきちは、人生ではじめて山から町へ行くのです。(はい、人生です)
現在行方不明の父さんたぬき・ぽんたから教えてもらった記憶を頼りに、憧れの町の「映画館」を目指します。
さて無事にたどり着けるかどうか。
旅にハプニングはつきものです。
少年たぬきちの小さな冒険を、ぜひ見守ってあげてください。
届けたいのは、ささやかな感動です。
心を込め込め書きました。
あなたにも、届け。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる