小料理 タヌキ屋 2

まんまるムーン

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 俺は、かなりのダメージをくらっていた。5年間付き合った彼女と別れた。
こっちから別れを切り出したのに、何故おまえが凹んでんだ? と思われてしまうだろう。だけど…いや…いいんだ…。別にわかってもらおうなんて思ってねーし。

 だけど胸はズキズキ痛む。こんな時、まっすぐ帰りたくはないな…。どこかで一杯やっていくか…。

 その時、俺の目の前に、見たことのない路地が現れた。いつも通っている道にこんな路地あったか? 細い路地には、たくさんの提灯がぶら下がっていた。赤く光る怪しげなその小道を奥へ進んでいった。 


見上げると、空にはお月様


気づくと、一軒だけ灯りがついていた店の前に立っていた。

 小料理 たぬき

手が勝手に動いてその店の戸を開けていた。後ろから押されるように中へなだれ込んだ。

「いらっしゃいませ。」
女の人の声がした。優しく弾むような声。

 あぁ…なんだかこの声癒されるな…

とりあえずカウンターに腰かけると、熱々のおしぼりが出された。手に取ってみると、その肌触り、いい匂い、行儀悪いと思われるのを承知で、思わず顔の上に広げてしまった。

 癒されるぅ~…

しばらく放心状態だった。
「ハッ! すみません!」
俺は我に返り、おしぼりを顔から取った。。

「お客さん…随分とお疲れのようですね…」
優しく声をかけてくれた女将を見て腰を抜かしそうになった!

 タ…タヌキ!

「あらっ! お客さん、そんなに私の顔をジロジロみちゃって! 恥ずかしいじゃありませんか」

 タ…タヌキ…だよな? 着ぐるみ着てんのか?

「お飲み物、どうされます?」
「…あ、すみません…じゃ、とりあえずビールを…」

「スィ! ワンビアペルファボーレッ!」
「スィ! ビア承りました~!」

 …え…? 何? 何語…? んで、もしかして…一人で二役やってる…?


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