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しおりを挟む類はさっきから腕組して考え込んでいた。
「ノエルに会えたのは良かったけどさ、澄ちゃん、亡くなってたなんてな…。それじーちゃんに言った?」
「そこ!それなんだよ!…類、俺、なんつってじーちゃんに言ったらいいと思う?」
「じーちゃん、絶対落ち込むよな…。しかもさ、澄ちゃん、例のラジオを死ぬまで大事に持ってたんだろ。しかもつい最近までまだ生きてて近くにいたのに…。そんな事聞いたら、じーちゃん余計に落ち込むよな。」
「そなんだよ。しかも俺、今月いっぱい動けねーし、こんなこと電話でする話じゃないし…。」
類も俺も溜息をついた。
「とりあえず来月になるまでは、じーちゃんから電話かかってきても言わないようにするよ。」
「そだな…。来月になったらじーちゃんとこ行くの?」
「うん。今でもしょっちゅう電話かかってきて、今度はいつ来るんだって言ってるからな。やっぱ寂しいんだろ。」
「乃海のじーちゃんに会うの久しぶりだな。最初の週末にする?」
「なんだよ、お前も来んの?」
「行くに決まってんじゃん!最近乃海、いっつも俺ら置いてくだろ!冷たすぎ!あ、旭ももちろん行くってよ。ノエルにも会わなきゃいかんって。」
「会わなきゃいかんって…。」
視線を感じて廊下を見ると、苺クレープにかぶりついた旭が、窓の外からこっちを見てニターっと笑っていた。
お前は妖怪かっ???
自習を終えて学校の外に出ると、もうすっかり暗くなって肌寒かった。空気がだんだん冬の空気に変わりつつあった。
「こんな日はシチューだぁ。」
類がシチューを思い浮かべてウットリとしている。
「でもうちのママ、シチューしかねだろっ!って日に限って海鮮丼作るんだよな。体冷えまくるんだよ…。まあ、美味しいんだけど…。」
美味しい海鮮丼作ってくれるママ、優しいじゃねぇか!
文句言うな!
てか類よ、俺たちもう高ニだ…。いまだに人前でママって呼ぶのはいかがなものか?
「あたしの腹は、今モーレツにおでんだね!」
旭がまたいつもの仏のような顔で言った。
「おでんだったらもうコンビニに出てるよな!食ってく?」
類の誘いに、なんだか俺もおでんが食べたくなってきた。
「いや、私の腹の欲するところのおでんは、うちの母親が作ったやつじゃないとダメだ。コンビニには無い…。」
「それ、どんなん?」
「名付けて…スイスおでん…。」
旭は目を細めて言った。
「スイス人もおでん食べるの?」
「食べないっ!」
「なんだそりゃ!」
「スイスおでんというのは…。」
旭が言うには、旭一家は旭が小学生だった頃、父親の仕事の関係で、何年間かスイスに住んでいたことがあって、向こうにいるときに母親がものすごくおでんが食べたくなり、でもおでんの材料すら存在してなく、向こうのスーパーに売ってある食材でなんとかおでん風の鍋を作ったらしい。
「練り物系は現地のスーパーに無かったんだけど、タイの人がやってるショップには練り物っぽい魚のおだんごがあって、それを使ってたの。タイだけあって、辛くておいしいんだよね。あと、向こうの野菜とか手羽先とかドイツソーセージみたいなハーブが入ってたり塩系のパンチのきいたソーセージ煮込んだりして、美味しいんだよ。おでんの出汁は売ってないからブイヨン使ってた。」
旭は今にもヨダレを垂らしそうな顔で言った。
「それって、ポトフ…?みたいな…?」
俺が恐る恐る言うと、
「おでんっ!!!」
クワーっと言った…。
俺たちはスイスおでんに想いを馳せながら家路を急いだ。
ああ、ダメだ…。
完全に口の中がおでんになってしまった。
今晩のごはん、おでんでありますように!
なんだかんだ言いつつ、俺の自習にさりげなく付き合ってくれてるこいつらは、やっぱ優しいな。持つべき物は友だ!俺は感謝と好意を顔面に表して二人に微笑んだ。
二人も俺に生暖か~い微妙な笑顔を返してくれた。
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