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しおりを挟む夢から覚めても、まだ現実と夢との区別がつかなかった。私はまだ健二さんに会いたいと思っていた。家から飛び出して健二さんのところに行こうと思った。私は由紀子のままだった。目覚ましのアラームが鳴って、やっと我に返った。
そうか、あれは全て夢なんだ、と思いつつも、あまりにリアルだったので単なる夢だとは思えなかった。
そして夢なのに、現実にいるはずもない健二さんに私は恋をしてしまっていた。
その日、祖母のお通夜が営まれた。昨日から引き続き、朝から霧雨が降っていた。私はいまだに祖母がいなくなってしまったことが信じられないでいた。祖母の住んでいた離れに行ったら、笑顔の祖母がお茶とお菓子を出してくれそうな気がした。ふと、あのアンティークのラジオはひとりぼっちになってしまったんだなと思った。
お通夜が終わって、親戚や知り合いの人たちを見送って、両親とごく内輪の親戚たちは、今夜一晩祖母の亡骸と一緒に過ごす部屋へ戻っていった。私はなんとなくそのまま外で、持っていた傘を降ろして雨に打たれた。安全地帯だった祖母がいなくなった私の心の穴を埋めるすべがわからなかった。急に生きていくのが怖くなった。
「ノエルちゃん…。」
急に声をかけられ振り向くと、安藤先生がそこに立っていて、持っていた傘を私に差し出した。
「辛い思いをしたね…。」
安藤先生の言葉に、体の中に溜まってた涙が一気に溢れ出てきた。
私は泣くのを我慢していたみたいだ。
その時、信じられない事が起きた。
安藤先生は私をギュっと抱きしめた。
「こんな時にこんな事言うの…申し訳ないと思うんだけど、君の事がずっと好きだったんだ。」
私の頭に、夢で見た斉藤という人だった安藤先生の事が蘇った。
その事もあってか、私は先生の事が怖くなった。私は気が動転して何も話せないでいた。
「真剣に付き合って欲しいと思ってる。」
「え…? あ…あの…。」
私は安藤先生の手をゆっくりどけて、言うべき言葉を言おうとしていたが、体が固まってしまって言う事が出来ずにいた。
「返事はすぐじゃなくていい。考えといて。」
先生はそう言って帰っていった。
その晩、棺おけに横たわる祖母の顔を見ながら、すでに返事の出来ない祖母に問いかけた。
夢の中の斉藤さんも現実の安藤先生も、私の事を好きだと言っていた。
あの夢は、本当に夢なの?
夢の中の斉藤さんは、現実の安藤先生という人になって私の前に現れている。
もしかしたら健二さんも…この現実に存在しているの?
あの夢は、私に何を伝えようとしているの?
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