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しおりを挟む「おばあちゃん、来世の約束って、何なの?」
「それは…、もうずっと昔に聞いたことなんだけど…、生まれ変わって会う約束をした者同士は、来世でまた会えるって…。二人だけがわかる何かに導かれてまた出会えるんですって。」
「ロマンチックだね。」
私は祖母の話をウットリして聞いた。
その時ドアが開いて、私の両親が部屋の中へ入ってきた。
「母さん!」
「お義母さん!」
二人は祖母の意識が戻ったことを喜んだ。
「ノエル、夕べからずっと付き添ってくれてたんでしょ?疲れてるだろうから、一度帰って休んでちょうだい。あなたの体の方が心配だわ。」
祖母がそういうので、私は家に帰ることにした。
「ちょっと休んだらまたすぐ来るから!」
私がそういうと、祖母は少し困ったような嬉しいような顔をしてみせた。
私はまっすぐ家に帰るつもりは全くなかった。祖母の為に何か願掛けのような物をしたかった。ふと、四葉のクローバーを見つけて祖母にあげようと思った。私はクローバーが生えてそうな草むらを探した。しばらく探すと、それは見つかった。
四葉のクローバーを摘むと、突然体中に電気が走ったような強い衝動が駆け抜けた。頭の中に見たことも無い景色が走馬灯のように流れたかと思ったら、見たことも無い、だけどとてもよく知っている男の人が私の事を
「由紀子!」
と呼んだ。
その幻影は一瞬で無くなった。私の心臓の鼓動は信じられないくらい速くなり、壊れてしまうんじゃないかと思うくらい激しく打った。何故か涙が止まらなくて体が震えて、しばらくその場から動けなかった。
私は祖母の為に摘んできた四葉のクローバーをレジンで固めてキーホルダーを作って祖母にプレゼントした。祖母は「このキーホルダーは人を幸せにするキーホルダーだわ」と言って、とても喜んでくれた。思いのほか四葉のクローバーを多く見つけることが出来たので、全てキーホルダーにした。
祖母の容態はそれから落ち着いて、療養用の病院に転院した。その後その病院に入院したままもうすぐ一年になる。私は四つ葉を見つけるたびにキーホルダーを作り続けた。願掛けのような気持ちで毎月一つ、祖母に届けた。
キーホルダーは自分で言うのもなんだけど、かなりいい出来だと思った。光にかざすとレジンがキラキラ光って、幸運を運んできそうな気になってくる。私はふといいアイデアを思いついた。この間、スマホを見ていて偶然面白そうなアプリを見つけた。宝探しアプリだ。全世界、あらゆるところに宝が隠されてあって、宝と言っても金銀財宝ではなく、このアプリを利用している人が小さな箱に見つけた人の名前などを書く小さなノートとほんの気持ち程度の何かを入れて、またそれを見つけた人はそれをもらってもよく、変わりに何か同じくらいの価値の物を入れて次の人に繋ぐ、という物だ。その宝のありかはアプリの示す座標から探す。私はそのアプリを見つけたとき、わくわくして心が躍った。私はこの四つ葉のクローバーのキーホルダーを宝にしよう!そう決めた。さっそくアプリで家からいける場所にある宝を探した。私の住んでいる街にも宝はけっこうあった。最初に探す宝はお城の中の物に決めた。近くのバス停からバスに乗ってお城へ向かった。胸がワクワクしてくる!私は手のひらに四葉のクローバーのキーホルダーをのせた。窓から入ってくる光に反射してキラキラしている。このクローバー、もらってくれる人がいるだろうか?喜んでくれるといいな。そんな期待に胸を弾ませながらお城へ向かった。
お城に着いて、スマホで座標を確認した。座標は城門の辺りを示している。私はその近辺を注意深く探した。本当に宝なんてあるのだろうか?門の表には無かった。裏手を回ってみた。すると石垣のところに窪みがあるのに気付いた。
「あった!ほんとにあった!」
私はついに宝を探し当てた!
嬉しくて小躍りしそうだった。宝の入っているプラスチックケースを開けてみると、そこには緑色のキレイな石が入っていた。私の作ったキーホルダーも四葉が緑で、この石も緑色。私自身、緑は好きな色なので、何か縁のような物を感じた。
「この石…なんだろう?宝石かな?」
家に帰ってゆっくり調べようと思い、とりあえずハンカチに包んでバッグの中にしまった。
ノートを取り出して日付や名前を書いた。このキーホルダーを気に入ってもらえるといいなと思って、次の人へ短いメッセージを添えた。
― 8th Sep 2018 Noel Mizuhara
I made this clover key chain.
I hope you will like it.
どんな人このキーホルダーを受け取るんだろうと思うと、胸がワクワクした。家に帰って、私は今日手に入れた石のことを調べた。スマホで検索すると、どうもマラカイトという石に間違いないようだった。この石は孔雀石とも呼ばれているらしい。この石は、恐怖や不安などのネガティブな感情を取り払ってくれる効果があると書いてあった。手のひらのマラカイトをじっと見てみると、吸い込まれそうな美しい緑色が私のネガティブな感情を吸い取って浄化していくような感じがした。これは、今まさに私に必要な石なのではないかと思えて、この巡り合わせに感謝した。スマホでさらに検索すると、石言葉というものがある事を知った。
「マラカイトの石言葉…再会、恋の成就…。」
私はそれを読んで、私も誰かと再会して恋が成就するのだろうか?なんてロマンチックな妄想をしてみたけれど、現実に思い当たる人などいなかったのであった。ふと、四葉を見つけた時の幻聴を思い出した。私を「由紀子!」と呼んでいたあの声…。その事を思い出したら胸がドキドキ高鳴ってきた。
あの声の主は誰なんだろう…?
単なる幻聴なんだろうか?
もしも実在する人なんだったら会ってみたいな…。
いやいや、あれは単なる幻聴だよ…。
私は頭を振った。あまりに自分の生活の中にロマンチックな要素が無い故の妄想に過ぎない!と、我に返った。
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