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5.雨
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しおりを挟む―雨か…
小さな雨粒が繁充の肩に落ちた。そんなに酷くはならないだろうと思ったが、少し速足で家路へと急いだ。ちょうど駅前の商店街を抜ける時、急に雨脚は強まり、傘無しでは歩けぬくらいに強く降り出した。
―参ったな…
繁充は雨宿り出来る所は無いかと辺りを見回した。ちょうどすぐ前に閉店したと思われる店の軒先があった。繁充は頭にカバンを乗せ、急いでそこに駆け込んだ。やれやれ…と思ったその時、ふいに声をかけられた。
「…降りますね…。」
見ると少し古めかしいセーラー服の女生徒が同じ軒先に立っていた。
「…そうですね。」
繁充は短く返事をした。
「天気予報では雨なんて言ってなかったのに…。」
女生徒は空を見上げながら呟いた。漆黒の髪から雨粒が滴り落ちていた。
「通り雨だと思いますよ。向こうの空は薄っすら明るくなってる。」
繁充が指さすと、女生徒のその指の先を見つめた。
「…あぁ、嫌だ。止まなければいいのに…。」
空を見つめる女生徒の大きな目から涙がポトリと落ちた。涙は漆黒の髪から滴り落ちる雨粒と交わった。
―あぁ…そうか…
繁充は小さく溜息をついた。
「繁充君! 放課後クリスマスバザー用の試食会をするんだけど来るでしょ?」
綾女が期待に満ちた目で繁充に聞いてきた。
「行くに決まってるでしょ!」
砂原はとっさに答えた。
「砂原君! どこから湧いて出たのっ?」
「湧いて出たって酷いな…。なぁ繁充、おまえだってそんなこと言わないよな!」
砂原は繁充に言った。繁充は手に顎を置いたまま動かなかった。
「…繁充君?」
綾女は繁充の顔を覗き込んだ。
「あ…ごめん、何?」
繁充はやっと綾女たちに気付いた。
「おまえ、朝から何ボケっとしてんだよ。せっかく旨い物が食えるってのに!」
繁充は呆れて言った。
「あぁ、試食会ね。行くよ。」
繁充は綾女に微笑んで言った。綾女は繁充の笑顔にホッっとしたが、どこかいつもとは違う違和感を感じた。
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