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4. デート代は男が払うのか否か

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「布団、とろうか?」
繁充は言った。

「大丈夫なのかよ? 家の中こんなにした生霊だろ? 俺たちやられるって!」

「俺達には何も出来ないよ。付け入られる所が無いから。」
繁充に促されて、砂原は霊に覆いかぶせていた布団をそっとめくった。襲い掛かって来るかと思いきや、生霊は意外と大人しくその場にじっとしたままだった。

 繁充たちがじっと見ていると、生霊も部屋と同じく頭の方からベロリと薄皮のように剥げて、それが塊になった。

 ブランド物のアクセサリー バッグ 高級レストラン 大きなバラの花束…

 生霊が絵美に貢いできた物が塊から次々と浮かんで来た。それらは浮かんでは枯れる様にチリジリになって落ちていった。

「…ここまで貢がせるって…女ってこえーな…」
砂原は呟いた。繁充は顎に手をやって、それらをじっと観察した。

 豪華な品物や体験が出尽くすと、また生霊の頭からベロリと剥げて塊になった。塊から漂ってきたのは、まさに怨念その物だった。

 絵美に対する怒り、恨み、嫌悪感。それらは絵美の存在自体を破壊してもまだ収まらないほどいきり立っていた。

「こんなに嫌いなら会わなきゃいいのにって…俺だったら思うけど…。」
砂原が呟いた。

「可愛さ余って憎さ百倍ってことなんだろうね。」
繁充は言った。

「あなた…まだ前田さんに未練がありますか?」
繁充はいきなり生霊に話しかけた。

「えっ? この人話せるの?」
砂原は驚いて言った。

「…俺は…本当にあいつの事が好きなんだ…。だから…」
生霊は小さく呟いた。

「本当に…好きなの?」
繁充は聞いた。

「…。」
悪霊は考え込むように俯いた。するとまたベロリと剥がれて塊になった。塊は上に伸びて、モニターのような形になった。 

 塊から出来たモニターは、生霊の気持ちを映し出した。



 思えば俺は、コンプレックスの塊だった。頭は良くないし、顔もブサイクだ。金持ちの家に生まれた訳でも無いし、大学にも行けなかった。生まれて人から認められたことなんて、一度も無い。

 そんな俺が、絵美と出会って…こんな可愛い子が俺の事を好きになってくれるだなんて…初めて世間から認められたような気持ちになったんだ…。

 絵美の喜ぶ事なら何でもしてあげたくて、欲しい物は何でも買ってあげたくて、俺の全てを絵美に捧げてきた。

 絵美はもともと性格がいい女ではない事くらい、俺も分かってたさ…。だけど好きだったから、彼女の悪いところも受け入れるのが愛情だと思って、全てを受け入れようとしてきた。

 それなのに! あいつは俺からこれだけ愛情を受けていながら、他の男に目移りしたんだ! 許せない!




「なるほどね…。まあ、同情はしますよ…。」
砂原は呟いた。

「それって…愛情じゃないですよ。執着ですよ。」
繁充は言った。


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