小料理 タヌキ屋 3

まんまるムーン

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「あなたのお友達もかなり派手な事をしているみたいだけど、あの頃の私たち世代もさんざんやらかしてるのよ。まぁこのお洒落な街並みがそうさせるのかもしれないわねぇ。」

「嘘でしょ~! 年配の方って、何かって言うと私たちの世代はそんなことしなかった。今の人は自由でいいわね~、好き勝手できて…って言いますよ。」

「みんな好き勝手やってたわよ。」

「…お義母さんも…?」

「そう! 義父母の悪口言いまくったり、お母さん友達の悪口言いまくったり、お姑さんに嘘ついて友達と旅行に行ったり、内緒で夫のカードでブランド物を買いまくったり…不倫だってしたことあるんだから…。まぁ、ドラマに負けないくらい、木妻ばりに楽しんでたわっ!」

「えーーーーー! お義父さん可哀そうじゃないですか。」

「いいのよ! あの人はあの人で散々遊びまくっていたんだから。」

「そうなんですかぁ…?」

「そうなのよ! 今だから言えるけど、立派な家庭に見えて、うちなんて完全崩壊してたのよ。私は褒められるような人間じゃない。自分でもほんとにバカだったなって思うもの。」

「…なんだか…意外です。お義母さんは完璧な人だと思ってたから。だから…私…どうしようない嫁って思われているだろうって…正直怖かったんです…。」

「思ってたわよ。」

「…面と向かって言われるとショックです…」


「あなたがこうやって腹を割って話してくれるから私も本心を言ってるの。

でもね、確かに何やってもちゃんと出来ない子だなとは思っていても、それを裁こうとは思っても無かったわ。そんな権利、私に無いもの。

私自身、はちゃめちゃな主婦だったから。私はね、家の中でよそ行きの顔をしてたの。仲のいいひと握りの友達か不倫相手にしか本当のろくでもない自分を出せなかったのよ。

苦しかったわー、長年いい子でい続けるの。」


義母はアハハハハ~と大声で笑った。私の知っている義母は、手で口を押えて軽く微笑む程度の笑顔しか見たことが無かったので、こんな笑い方をする義母は初めてだ。

「あなたはあなたなりによくやっているわ。」

「私がですか?」

「そうよ! 他に誰がいるの?」

タヌキ女将がそぉ~っと自分を指さしているのが見えたが生暖かく無視した。

「私なんて…ロクな大学出て無いし、仕事だって一人前になる前に辞めちゃったし、今だってパートすらしてなくて、見てくれもこんなだし…家事だって、お義母さんみたいに完璧に出来ない…。私、胸張って自慢できるような事…何一つ無いんですよ。」

「そんなことないじゃない。仕事していないことを引け目に思う必要なんて無いのよ。だってあなた、節約して、子育てして、浮気もせずに家族を守って、ほんとによくやってるわ!」

義母は美味しそうにお酒を飲んだ。

正直、誰も私の事なんて見てくれてないと思っていた。

しかし、私の事を一番認めてくれないと思っていた義母からの意外な言葉が胸を突き刺して、今まで溜まりに溜まっていた感情が溢れ出てきた。

こんなにしょぼくれていて周りからやられっぱなしの自分が…ちゃんとやってこられていたの? 

自己肯定感が低すぎた私は気づきもしなかった! 

周りに見下されている前に、自分で自分の事見下していた! 


 そうだよ! 私、ちゃんと家族守ってきたよ! 自分なりにすごく頑張ってるよ! 

私は涙が溢れて止まらなくなった。



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