小料理 タヌキ屋 3

まんまるムーン

文字の大きさ
上 下
11 / 16

11

しおりを挟む



「どうぞ…」

食べ終わると、女将はコーン茶を出してくれた。
コーン茶の香ばしさが鼻先から入ってきて、それだけでも体中が癒されていく。一口飲んでみた。

「香ばしくて美味しい~。」

コーン茶の暖かさに、こわばっていた体が緩んでいくようだ。こんなにホッとしたのって、久しぶりのような気がする…。

急に涙が頬を伝った。女将はそれを見て、そっとおしぼりを差し出してくれた。

「このおしぼり…温かくて…、とっても温かくて…いい匂い…」

「思いっきり泣けばいいのよ。誰だって泣きたいときくらいあるわ。」

「…女将…」

私は思いっきり泣いた。声をあげて泣いた。こんなに泣いたことって、もしかしたら子供の時以来しれない。

「…私でよかったら…話を聞くわ…」

「女将!」

私は溜まっていた心のモヤモヤを女将にぶちまけた。

ついていけない美穂の豪華すぎるプレゼント攻撃、エスカレートしていく付き合い、里香の不倫の掃き溜めにされたこと、マウンティングされたこと、遥からいいように使われていたこと、実はバカにされていること、必死に家計を切り詰めようと頑張っている自分を旦那がわかってくれないこと、今までのことを包み隠さず話した。

タヌキ女将は真剣に聞いてくれていた。

「みんな自分勝手で…私は…自分だけ損をしてるような気がして…、もう限界なんです!」

「辛いわね…」

タヌキ女将の言葉に、また涙が溢れ出てきた。

「泣きたいだけだけ泣くといいわ…。」

「ありがとう女将。」

私はもう一杯マッコリを注文した。

「私ね、ここ、たぬプラーザの地にこの店を始めて何十年か経つのだけど、いろんなお客様が訪れてくれたわ。不思議な物でね、その日居合わすお客様同士が、不思議なご縁のある方だったりするのよ…。ほら、今日も…。あちらのお客様、あなたに縁のある方じゃないかしら?」

 え?

 てかここ、たぬプラーザって名前だった?

 たまじゃなくて?

 それはそうと、お客って…

私はすでにかなり酔っていた。ろれつもあまり回らなくなってきていたし、目の前もぼやけている。

   タヌキ女将に私に縁のある人が来ているなんて言われたんだけど誰なんだろ?

私は目を凝らして見てみた。L字型になっているカウンターの端に、年配の女の人が座っていた。


 ん? 見たことあるぞ! …え…えーっ!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...