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7 それは残酷過ぎる現実と無償の愛だった…。ナビ最終章。今、全ての謎が解き明かされる。

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「…昔、よく遊んだよね。そうそう! 頼人、よく泣いてたよね~、三人でかくれんぼした時。」
「あれは~!」

 僕らは幼い頃、よくかくれんぼをして遊んだ。僕が隠れるのが天才的に上手いのか、二人とも僕を見つけられなかった。そしていつの間にか、二人はかくれんぼをしている事を忘れてしまって、家に帰ってしまったり、どこかで別の遊びを始めたりしたのだった。

 最初は意気揚々に隠れていた僕も、誰も見つけに来ないとだんだん心細くなって、外は次第に暗くなるし、最後には泣き出していたものだ。

 先に家に帰った理人が母から僕の事を聞かれてやっとかくれんぼをしていたことを思い出し、迎えに来てくれていた。僕は泣きながら理人とつかみ合いのケンカをした。


「頼人、隠れるの天才だったよね。」
「そんなこともあったな…。」

 全ては懐かしい思い出。かけがえのない思い出。いつも三人で一緒にいたその頃の事を思い出すと、今でも胸が暖かくなる。

「…私もあの頃の思い出があるから…これからに向かっていけるの…。」
奈美は感慨深げに呟いた…。

 食事を終えて、僕たちは駐車場へ向かった。奈美は親の車で僕を迎えに来てくれていた。奈美は僕を大学の学生寮まで送ってくれた。

 実家は人に貸していたし、もし貸していなかったとしても一人暮らしには広すぎるので、僕は寮に入ることを選択したのだった。

 奈美は僕を送ると「じゃあまたね」と言って去って行った。理人が車を運転する年になったって灌漑深そうにしていたけど、僕にしてみたら奈美の運転する姿の方が感慨深い。

 そうか…僕らは大人になったんだ…。
 僕もそろそろ運転免許を取ろうかな…。




 「じゃあまたね」なんて言っておきながら、僕たちはその後、ほとんど会う事は無かった。

 僕は勉強とバイトに忙しかったし、休みの日は登山サークルの仲間と山に行くことが多かった。いつでも会える距離にいると、意外と会わないものなのだとつくづく思った。

 奈美が大学4年の夏休みに彼女の方から連絡があって、久しぶりに僕らは会った。さぞかし就活で疲れ切っているだろうなと思いきや、彼女は全くそんな様子が無かった。

 無理も無い。奈美は就活すらしていなかったからだ。彼女は就職しないと言った。信じられなかった。人望も責任感もあって、知力体力を備えている彼女は、望めばどこだって就職できただろうし、それをしないなんて有り得ないと思った。

 就職しないで何をするのかと聞いたら、最初は世界の聖地を巡って、それが終わったら日本に帰り、山に籠って修行するというのだ。


 僕はそれを聞いて奈美が何を考えているか本当に分からなくなった。きっと彼女の両親も反対するはずだ。何か変な宗教にでも入ってしまったんじゃないか? もしそうなら僕が奈美を助けてやる番だ!

 僕は奈美が全うな道へ進むように説得を始めた。しかし最後まで彼女は首を縦には振らなかった。その決心は揺ぎない物だった。

 大事な幼馴染が遠い世界に行ってしまいそうな気がして不安で仕方なかった。だけど奈美は僕にこういうだけだった。

「大丈夫! 私を信じて! なんてったって私はこの地球の次元を超越した存在なんだから!」

 自信満々に笑いながら僕の背中を叩いた。そして僕らはいつもしているようにハグして別れた。



 3月に奈美から絵葉書が届いた。スイスからだ。最初の世界の聖地巡りの前に、奈美は卒業旅行も兼ねてスイスへ旅立ったのだ。向こうで理人やうちの両親にも会ったそうだ。

 約束を思い出している二人は、さぞかしその話で盛り上がったのだろう…。自分だけ蚊帳の外のような、若干の嫉妬心はあったけど、僕は自分の目の前の課題に没頭する事でそれを紛らわした。

 そうこうしているうちに月日は経ち、僕は大学院へ進み、父親と同じ研究職を目指すようになっていた。誰もが僕は将来教授職に就くのだろうと思っていた。僕自身そう思っていたし、それしか考えていなかった。

 しかしある日、何故か僕は急に全く違う事がしたくなった。急に気が変わるなんて、これは一時の気の迷いだと思い、最初は忘れようとした。

 だけど、一週間経っても二週間経っても、その思いは深まるばかり。ついに僕はいともあっさり進路変更して、一般企業に入社した。

 大手自動車メーカーだ。僕は技術職として入社した。就職してからは毎日忙しく、山に籠って修行をしている奈美とも益々疎遠になった。
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