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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
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しおりを挟む興信所を使って得ようと思っていた情報は、全てナビともう一人の被害者が与えてくれたのだった。でも、ナビの存在を知らない尚之さんにどうやって説明すればいいか分からないし、そもそもそれを話すと、私と夏子が入れ替わっている事まで話さなければならなくなってしまうだろう…。そうなると、私の一存だけでは決められないんじゃないかと思った。
「…あの…その…実は、友達に頼んで張り込みを手伝ってもらったんです…。だから結局家計からは出してなくて…。」
「…君、そんな友達いたんだ…。」
うまく誤魔化せたかどうか不安で黙っていると、尚之さんはポツリと呟いた。
「…ありがとう。本当は俺がしなきゃいけない事だったんだよな…。だけど俺は姉の事がずっと許せなくて…」
「尚之さん…」
「誰にも言ってこなかったんだけどさ、俺、姉貴の借金のせいで大学に行けなかったんだ…」
私は最初、尚之さんは自分で会社を設立してここまで大きくしてきたくらいだから、てっきりお金に不自由した事なんて無くて、有名大学を出て、一般市民が歩むコースとは無縁の生活をしてきたんだと思っていた。遥人君から家族の事情を聞くまでは…。
「…真帆さんの…せい?」
「男に騙されてさ、変なマルチ商法に手を出してしまって、気付いたら借金がすごい金額になっていた。おふくろが俺の大学費用に貯めていた貯金を全額借金の返済に充てられたんだ。おふくろはそれを取り戻すために働き詰めで…無理しすぎて体を壊して…亡くなってしまった…。だからその事を根に持っていたのかもしれない。全てが姉貴のせいに思えてしまって、顔を見るとイライラしちゃってさ…。それ以来、気付いたら俺は世の中全てに対して冷めた目で見てしまうようになっていた。誰の事も信用できないって…。家族なのに…姉貴の事も見て見ぬふりしていたんだ…。」
「そんな事無いじゃないですか! 尚之さん、遥人君のこと面倒見てるじゃないですか! それにそんな目に遭わされたんだったら無理もないですよ。私だったら真帆さんの事、ぶち回してるかも!」
「ブッ!」
尚之さんは噴出した。
「ごめん、夏子が姉貴をぶち回してるとこ想像してしまった。」
彼はその想像がツボに入ってしまったようで肩を震わせてしばらく笑っていた。なんかそれ、失礼じゃないですか?
「…でも、それでも今の地位を築いているなんて、尚之さん、やっぱりすごいですよ!」
「大変だったよ。でも、今考えると、それはそれで良かったんだと思ってる。大学に行った友達に負けたくなくて、みんながコンパだ旅行だって浮かれている間、俺は誰とも会わずにひたすらプログラミングの勉強して…あんときの俺、夏子に見せてやりたいよ。髪も髭もボーボーで、目は充血して、バケモンみたいだった。今思うと…姉貴があんなだから、ああはなりたくないって頑張れたのかもしれないな…。ということは、今の生活があるのも姉貴のおかげって事なのか? 認めたくないけど…」
尚之さんがいつになく素の状態で話してくれて、私は彼の少年の心のようなものが見えた気がした。そしてそんな彼が、なんだか可愛いって思ってまった。見下すような視線と表情を出さない顔に、初めは都会のお金持ちだからって、勝手に冷たそうとか嫌いなタイプだとか思っちゃったけど、そう見えたのもそれなりの理由があった訳で、そんな事も知らずに勝手に偏見持っちゃって、私はダメだなぁ…。誤解しちゃったこと…ほんと謝りたい…。
「費用が発生してたとしても、そんなの君が返すとか、そういう風に考えないでほしい。」
「え? でも…」
「そもそもお金は夫婦の共有財産だし、君がしてくれたことは俺の姉の為…というか、遥人と俺の為でもあるんだから。大変だっただろ? 言ってくれたらよかったのに…。」
「大変なんてそんなこと無いですよ。私に出来ることなんてそんな事くらいしか無いし…」
「夏子…自分の事を卑下するの、もう止めな。何て言うか…昔の君とは人が入れ替わったみたいに…今の君は…その…すごく…何というか…」
尚之さんは明後日の方向を見ながら頭をひたすら搔いている。
バレた…?
もしかしてバレてしまった?!
まずいっ!
「あ、あのっ!」
尚之さんは何か言いたそうだったけど、私はとっさに話題を変えようとした。その時、タイミングよく誰かからラインが来た。真帆さんからだ。例の件だ!
「尚之さん、私ちょっと出かけてきますね。今週末は、なるべく早めに帰ってきてもらえますか?」
「…今週末?」
「無理そうですか?」
「いや、大丈夫。早めに帰って来るよ。」
「よかった。」
私はニッコリ笑顔でそう言った。尚之さんは私をしばらく見つめて、頭をポンポンと叩いて仕事へ行った。
よし!
やるぞ!
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