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しおりを挟む「旭ちゃん、お気持ちだけで十分ですので、どうぞお構いなくって言ってたそうです。」
ノエルは家庭教師の安藤にそう伝えた。
「は?そんだけ?」
安藤は訝しげな顔でノエルに詰め寄った。
そんな安藤に、申し訳なく思う理由は無いのだが、ノエルは少し申し訳無さそうに言った。
「本当は…、乃海君に聞いてもらったんですけど、旭ちゃん…先生にお礼されるような事した自覚が無いそうで…。それに、そんな小さい事もう忘れてた…というか、先生の事もあんまり覚えて無かったみたいで…その…しばらく思い出せなかった…そうです…。」
廃校の校舎で爆発事故があった日、乃海とノエル、旭、類、そして安藤は同じ夢を見た。
その夢は、乃海とノエルと安藤の前世の夢だった。
第二次世界大戦の末期、前世の安藤は、自分の婚約者だったノエルとノエルの想い人であった乃海の仲を裂くために、自分の権力を利用して、乃海を南方の最前線に送ったのだった。
そんな卑怯でクソ野郎だった前世の自分を垣間見て落ち込んでいた時、慰めてくれたのが旭だった。
安藤は旭のおかげで救われたのであった。
自分にとっての大事件とも言える出来事を、簡単に忘れ去ってしまっている旭に安藤は愕然とした。
「はぁ~? そんな小さい事! そんな小さい事って言ってたの? しかも俺の事覚えて無かったって~??? 乃海のやつ、俺に恨み持ってるからわざとそう言ってるんじゃないか? ほんとは旭の連絡先もらってるんじゃないの?」
安藤はいまだ現実を受け入れられないようだった。
「いえ! ほんとですよ! 乃海君、恨みを引きずるような人じゃないし、安藤先生の事、もう別に何とも思ってないというか…。旭ちゃん、あんな性格だから、別にお礼を期待して何かするとかいうタイプじゃないし…。」
安藤は何かぶつぶつ言いながら不満そうにしていた。
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あーーー! こっちこそおまえの事なんて忘れてたさ!
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