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第10話  vs変態さん

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「ウェポンアーツ、剣」


 変態さんと戦うにあたって、魔法主体でやるには分が悪そうです。
 さっきは防御魔法を使おうとしても間に合うことができませんでした。

 だからせめて近づかれても少しは対応できるように、レーラさんに習って近接武器を作ってみました。
 
 剣にしたのは特に理由はありません。
 ほら、剣ってかっこいいじゃないですか?



「アクセル」


 そして僕は、変態さんの素早い動きにも対応できるように、自分に魔法をかけます。

 変態さんの周りを縦横無尽に動きまわって、相手の目を眩ませて攻撃のタイミングを計って攻撃を与える。

 魔法を発動する前に攻撃されてしまうのなら、こちらも肉弾戦を仕掛けるしかありません。



「ふん。確かに速くて目で追えねえがな······」

「いやあぁぁぁぁぁあ!!」


 うまいこと変態さんの背後に回れたので、無防備なその背中に渾身の一撃を加える。


「ふんっ!」


 完璧な攻撃のはずだったのに、振り向き様に、いとも簡単に弾かれてしまう。
 そればかりか、その衝撃で僕の握っていた剣が手を離れて少し離れた場所に吹っ飛ぶ。


「っ!? ウェポンアーツ、剣」


 僕はとっさにもう一回魔法で剣を作って、変態さんの追撃をギリギリのところで防ぐ。

 今度は剣を飛ばされていないけど、一撃一撃の攻撃の重さは凄まじいもので、防戦一方になってしまう。

 
「その程度じゃ、俺は倒せねえぞ?」


 一瞬、攻撃が止んだと思ったけど、直後に強烈な一撃が飛んでくる。
 

「ぐっっ」


 寸前のところで直撃はまぬがれたけど、距離が空いてしまった。
 
 通用するかはわからないけれど、もう一度アクセルで隙をついて······


「戦ってる時は相手から目をそらすんじゃねえよ!!」  

 
 気付いたら離れていたはずの変態さんが目の前にいた。

 ──まただ

 最初に勇者さんを奪われてしまったときも、気付いたら近づかれていた。
 変態さんは一度も魔法を使っていないのに、まるでアクセルを使ったかのような加速で動くときがある。
 普通なら魔法を唱えた時点で気付けるのに、変態さんの場合はその兆候に気づけない。


「ぐはっっ!?」


 おもいっきり吹っ飛んで、後ろの木に激突した。
 その衝撃で一瞬息ができなくなる。


「ケホッ、ケホッ」

「まったく、魔法に頼りきっているのがいけないのですよ。私みたいに、己の肉体を頼りなさい。魔法を使えば相手に警戒されますけど、魔法を使っていなければ相手の油断を誘えますからね」


 木を背に倒れこむ。
 正直言ってもう動きたくない。
 変態さんがべらべらと喋ってるけど、あんまり頭に入ってきてない。

 ヒールを使えば体は回復するだろうけど痛みが消えるわけではない。

 そして、僕には少しでも時間が必要だった。


 この状況を打開することができる可能性があるもの······

 それは、天使さんにもらった数々の魔法。
 そのお陰で僕は、ヒールやアクセルなどの魔法が使える。

 もちろん他の魔法もいっぱい使えるはず。
 だけど、いきなり多くの魔法を覚えた障害なのか、頭の中ではちょっとしたパニックになっています。

 例えるならば、誕生日に何百何千という数のおもちゃをもらったとして、その中から自分が遊びたいおもちゃを探す時を想像してほしい。
 おもちゃは全部箱の中に入っていて、どんなものなのか確認するには一つ一つ箱を開けて確認するしかない。
 今の僕はこんな状況。
 いっぱい魔法をもらったのはいいけど、どんな魔法があるかわからないから一つ一つ確認している。

 今までは幸運にも、アクセルやヒール、アイスロックなどの使える魔法を発掘できましたが、場合によっては使えないダメな魔法のこともあります。
 ですが僕はちょっとした賭けに出ました。

 ヒールを使った持久戦に持ち込むのではなく、頭の中から新しい魔法を発掘して、それでこの状況を乗り切る。
 一つの魔法を確認するのはちょっと時間がかかるけど、変態さんはお喋りな人だから一つくらいなら魔法を確認することができるはず。


 
 そう決意して集中していたのですが、発掘した魔法は微妙な······
 いえ、使い方を考えれば意外と有能な? 魔法を発掘しました。


 ふむ、この効果なら······

 なんとかなりそうです。
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