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4章 長男歴の章
決断の別れ
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僕はパパが大好きだった。
小さい時から、いつも遊んでくれて保育園でも小学校でも、仕事が休みの時には友達のように遊んでくれた。
パパとママが喧嘩してパパが居なくなってしまった時は凄く不安だった。
それでも、パパは僕と弟と遊びに連れて行ってくれた。
最近は僕も弟も部活があるからあまり遊べなかったけど、パパはいつも面白いメールをしてくれて、寂しくないように、いつでも助けてくれた。
世の中がおかしくなったあの日も。
最初パパから電話があった時は、またからかっているのだろうと思っていた。
二回目の電話の時に僕と弟はママに連れられ体育館に来た。
体育館の中にはヤクザのような輩が怒っていた。
泣いている人を見れば、うるせえとガラスを割ったり、それを見て注意した男の人を手を縛って無理に外へ出して気を違えた人達の餌食にしたり、人の持って来た食べ物を勝手に食べたりしていた。
体育館にいる人達は皆アイツらに怯えていた。
パパが居れば、パパがこの体育館に居れば、アイツらは大人しくなるのに。
そう考えていた。
ママに連れてかれてここに来たけど、パパは家に迎えに来る。
早く家に行ってパパにアイツらをやっつけて貰わないと。
僕はそう思い、弟と一緒に武器をいっぱい手に入れてパパと一緒にアイツらをやっつけようと思って体育館を飛び出した。
武器になりそうなのがあるとすれば、ホームセンターだと思ってホームセンターに行った。
最初は気を違えた人は全然居なかったけど、武器を探すのに夢中になっていたら、気付いたら逃げ場のない位、気を違えた人達が中に入って来た。
僕は弟に青い大きなポリバケツを被せて影に隠れさせた。
僕も急いでバケツを被ったが弟の位置が離れてしまった。
それに気付いた弟が立ってはしゃがみを繰り返しゆっくりとこっちに近づいて来た。
僕は弟に、待ってと言ったが気を違えた人達がこっちに来てしまった。
弟はパニックになって気を違えた人達がいる方に向かってバケツを被ったまま走ってしまった。
気を違えた人にぶつかり転がってしまった時、僕の目線にはパパが居た。
急いでバケツから弟を抜き出し、パパの方に向かって走り抜けた。
パパは木刀で殴り回って気を違えた人達を倒していた。
やっぱりパパは強い。
弟はパパに抱き着いた。
僕はパパに手を引かれて、ホームセンターを走り抜けた。
車に戻るとママがくしゃくしゃになって泣いていた。
僕も弟もグッと抱き締められた。
パパは身体中怪我がないか確認していた。
久しぶりに家族四人揃って、僕は嬉しかった。
ママが体育館に荷物を置いて来たから取りに行かないと行けなくなった。
体育館に着くと皆気を違えた人達に噛まれていた。
仲の良かった友達も皆気を違えた人になっていた。
パパがアイツらがやったのかと怒っていた。
人の車に、人の荷物を積み込んでいるヤクザのような輩の三人がいた。
パパはここはもうダメだと言った。
ママに荷物を諦めて、アイツらは放っておこうと説得していた。
アイツらは船に乗って何処かに行くと言っていた。
僕は内心、ホッとした。
アイツらに気付かれないように、僕達は車でパパの友達がいる体育館へ向かった。
パパの友達がいる体育館は、僕がいた所とは比べ物にならない位しっかりとしていた。
僕はここなら安全だとすぐに思った。
パパは一緒にここに来た一人の女性に抱き着かれていた。
ママは、弟を連れてすぐに自分達の居場所を作っていた。
パパの友達の中に昔に遊んで貰ったゆり子さんもいた。
こんな世の中になってしまったけれど、僕は少しここでの生活が楽しみになっていた。
何週間たっただろうか、いや何ヶ月たっただろうか。もう日付けすらわからない。
ここでの生活はしっかりしている。パパはちゃんとしたリーダーが居れば、ちゃんとした生活を送れると言っていた。
でもここでの生活を支えているのは、間違いなくパパの活躍もあるだろう。
多分、パパが居なかったらここも安全じゃ無くなっていたと思う。
毎日、食糧探し、洗濯、食事、見張り、情報収集と役割がそれぞれの人に与えられ、未成年は勉強とトレーニング。
気を違えた人達に襲われても、戦えるように。
今日はパパとゆり子さんが食糧探し。
朝早くからパパとゆり子さんと他の二人と四人で出かけた。昼にはいつも戻って来る。
ママは洗濯係、明子さんは食事係、加藤さんは情報収集係だった。
僕は、弟と二人で戦いの訓練をしていた。
お昼を過ぎた頃パパとゆり子さんと他の二人が戻って来た。
パパはゆり子さんに少し怒っていた。
どうしても欲しい物があって取りに一人で行っていたようだ。
今日も大量に食糧を持って帰って来た。
食事が終わるとゆり子さんが僕に近付いて来て、何かを渡して来た。
僕が欲しいと言っていた本だ。
パパに内緒ねと言って、ギュッと抱き締めてくれた。
こんな世の中になっても娯楽は大事、訓練ばかりしてると変な大人になっちゃうよと言って、僕から離れていった。
僕は夕方からは、布団にこもって本を読んだ。
ふと気付くと、ゆり子さんがママと真剣に話していた。
ママが怒っていた。
僕は本を読み続けた。
本には薄ら赤い点が付いていた。
夜になるとゆり子さんが具合が悪いようで顔が青ざめていた。
パパが心配して、ゆり子さんに近付いて行くと、ママに止められた。
ママが少し離れた場所から、ゆり子さんに話した。
早く体育館を出て行きなさい。
僕は布団を飛び出しゆり子さんの近くに駆け寄った。
パパは何の事か戸惑っていた。
僕は気付いていた。
本に付いていた赤い点が血だという事に。
ママは僕にゆり子さんから離れるように怒っていた。
追い出さないで、せめて意識が無くなるまで、僕と居させて。
ここに来てからはパパは大忙しで、遊んでくれたのはゆり子さんだった。
僕の大親友だ。
ゆり子さんは僕から離れて、パパにギュッと抱き締めた。
僕と弟をほったらかさないで、二人ともまだ子供なんだよと言っていた。
ママは泣きながら微笑んで、ゆり子さんをそっと抱き締めた。
僕は声を出して泣いた。
パパもようやく察したようで、信じられないような顔をしてゆり子さんを見つめていた。
ゆり子さんは気を違えた人に噛まれていた。
噛まれると気を違えた人になってしまう。ウィルス感染してしまうのだ。
パパが言った。送ってもいいかと。
明子さんが近付いて来た。
怒っていた。パパが危険だと、気を違えた人になるのを分かっていて一緒に行かせるのは危険だと。
でも明子さんも泣いていた。
ゆり子さんは凄く良い人だったから。
ママが明子さんにパパなら大丈夫だから送らせてほしいと頼んでいた。
明子さんがうんとうなづくと、ゆり子さんは微笑んでパパの手を引いた。
僕も一緒に行きたかった。
ゆり子さんとの別れを決断して、僕は気丈にパパに言った。
気を付けて。ゆり子さんを寂しくない所に連れて行ってあげてと。
ゆり子さんが最後の挨拶を僕にしてくれた。
貴方はもう充分強いから、ママと明子さんと明子さんの子供達を守ってあげてと。
そしたらパパが凄く楽になれるかなって笑いながら言った。
僕は忘れない。ゆり子さんを。
パパがゆり子さんを連れて車で出て行った。
一時間位で戻って来た。
戻って来たパパは何処か寂しそうに僕を抱き寄せた。
次の日も皆いつも通りに働き始める。
僕はとてつもなく寂しい。
ゆり子さんと話した事を明子さんの子供達に話してあげよう。
こうしてゆり子さんが居た事をずっと語り続けよう。
ありがとう。ゆり子さん。
4章終
小さい時から、いつも遊んでくれて保育園でも小学校でも、仕事が休みの時には友達のように遊んでくれた。
パパとママが喧嘩してパパが居なくなってしまった時は凄く不安だった。
それでも、パパは僕と弟と遊びに連れて行ってくれた。
最近は僕も弟も部活があるからあまり遊べなかったけど、パパはいつも面白いメールをしてくれて、寂しくないように、いつでも助けてくれた。
世の中がおかしくなったあの日も。
最初パパから電話があった時は、またからかっているのだろうと思っていた。
二回目の電話の時に僕と弟はママに連れられ体育館に来た。
体育館の中にはヤクザのような輩が怒っていた。
泣いている人を見れば、うるせえとガラスを割ったり、それを見て注意した男の人を手を縛って無理に外へ出して気を違えた人達の餌食にしたり、人の持って来た食べ物を勝手に食べたりしていた。
体育館にいる人達は皆アイツらに怯えていた。
パパが居れば、パパがこの体育館に居れば、アイツらは大人しくなるのに。
そう考えていた。
ママに連れてかれてここに来たけど、パパは家に迎えに来る。
早く家に行ってパパにアイツらをやっつけて貰わないと。
僕はそう思い、弟と一緒に武器をいっぱい手に入れてパパと一緒にアイツらをやっつけようと思って体育館を飛び出した。
武器になりそうなのがあるとすれば、ホームセンターだと思ってホームセンターに行った。
最初は気を違えた人は全然居なかったけど、武器を探すのに夢中になっていたら、気付いたら逃げ場のない位、気を違えた人達が中に入って来た。
僕は弟に青い大きなポリバケツを被せて影に隠れさせた。
僕も急いでバケツを被ったが弟の位置が離れてしまった。
それに気付いた弟が立ってはしゃがみを繰り返しゆっくりとこっちに近づいて来た。
僕は弟に、待ってと言ったが気を違えた人達がこっちに来てしまった。
弟はパニックになって気を違えた人達がいる方に向かってバケツを被ったまま走ってしまった。
気を違えた人にぶつかり転がってしまった時、僕の目線にはパパが居た。
急いでバケツから弟を抜き出し、パパの方に向かって走り抜けた。
パパは木刀で殴り回って気を違えた人達を倒していた。
やっぱりパパは強い。
弟はパパに抱き着いた。
僕はパパに手を引かれて、ホームセンターを走り抜けた。
車に戻るとママがくしゃくしゃになって泣いていた。
僕も弟もグッと抱き締められた。
パパは身体中怪我がないか確認していた。
久しぶりに家族四人揃って、僕は嬉しかった。
ママが体育館に荷物を置いて来たから取りに行かないと行けなくなった。
体育館に着くと皆気を違えた人達に噛まれていた。
仲の良かった友達も皆気を違えた人になっていた。
パパがアイツらがやったのかと怒っていた。
人の車に、人の荷物を積み込んでいるヤクザのような輩の三人がいた。
パパはここはもうダメだと言った。
ママに荷物を諦めて、アイツらは放っておこうと説得していた。
アイツらは船に乗って何処かに行くと言っていた。
僕は内心、ホッとした。
アイツらに気付かれないように、僕達は車でパパの友達がいる体育館へ向かった。
パパの友達がいる体育館は、僕がいた所とは比べ物にならない位しっかりとしていた。
僕はここなら安全だとすぐに思った。
パパは一緒にここに来た一人の女性に抱き着かれていた。
ママは、弟を連れてすぐに自分達の居場所を作っていた。
パパの友達の中に昔に遊んで貰ったゆり子さんもいた。
こんな世の中になってしまったけれど、僕は少しここでの生活が楽しみになっていた。
何週間たっただろうか、いや何ヶ月たっただろうか。もう日付けすらわからない。
ここでの生活はしっかりしている。パパはちゃんとしたリーダーが居れば、ちゃんとした生活を送れると言っていた。
でもここでの生活を支えているのは、間違いなくパパの活躍もあるだろう。
多分、パパが居なかったらここも安全じゃ無くなっていたと思う。
毎日、食糧探し、洗濯、食事、見張り、情報収集と役割がそれぞれの人に与えられ、未成年は勉強とトレーニング。
気を違えた人達に襲われても、戦えるように。
今日はパパとゆり子さんが食糧探し。
朝早くからパパとゆり子さんと他の二人と四人で出かけた。昼にはいつも戻って来る。
ママは洗濯係、明子さんは食事係、加藤さんは情報収集係だった。
僕は、弟と二人で戦いの訓練をしていた。
お昼を過ぎた頃パパとゆり子さんと他の二人が戻って来た。
パパはゆり子さんに少し怒っていた。
どうしても欲しい物があって取りに一人で行っていたようだ。
今日も大量に食糧を持って帰って来た。
食事が終わるとゆり子さんが僕に近付いて来て、何かを渡して来た。
僕が欲しいと言っていた本だ。
パパに内緒ねと言って、ギュッと抱き締めてくれた。
こんな世の中になっても娯楽は大事、訓練ばかりしてると変な大人になっちゃうよと言って、僕から離れていった。
僕は夕方からは、布団にこもって本を読んだ。
ふと気付くと、ゆり子さんがママと真剣に話していた。
ママが怒っていた。
僕は本を読み続けた。
本には薄ら赤い点が付いていた。
夜になるとゆり子さんが具合が悪いようで顔が青ざめていた。
パパが心配して、ゆり子さんに近付いて行くと、ママに止められた。
ママが少し離れた場所から、ゆり子さんに話した。
早く体育館を出て行きなさい。
僕は布団を飛び出しゆり子さんの近くに駆け寄った。
パパは何の事か戸惑っていた。
僕は気付いていた。
本に付いていた赤い点が血だという事に。
ママは僕にゆり子さんから離れるように怒っていた。
追い出さないで、せめて意識が無くなるまで、僕と居させて。
ここに来てからはパパは大忙しで、遊んでくれたのはゆり子さんだった。
僕の大親友だ。
ゆり子さんは僕から離れて、パパにギュッと抱き締めた。
僕と弟をほったらかさないで、二人ともまだ子供なんだよと言っていた。
ママは泣きながら微笑んで、ゆり子さんをそっと抱き締めた。
僕は声を出して泣いた。
パパもようやく察したようで、信じられないような顔をしてゆり子さんを見つめていた。
ゆり子さんは気を違えた人に噛まれていた。
噛まれると気を違えた人になってしまう。ウィルス感染してしまうのだ。
パパが言った。送ってもいいかと。
明子さんが近付いて来た。
怒っていた。パパが危険だと、気を違えた人になるのを分かっていて一緒に行かせるのは危険だと。
でも明子さんも泣いていた。
ゆり子さんは凄く良い人だったから。
ママが明子さんにパパなら大丈夫だから送らせてほしいと頼んでいた。
明子さんがうんとうなづくと、ゆり子さんは微笑んでパパの手を引いた。
僕も一緒に行きたかった。
ゆり子さんとの別れを決断して、僕は気丈にパパに言った。
気を付けて。ゆり子さんを寂しくない所に連れて行ってあげてと。
ゆり子さんが最後の挨拶を僕にしてくれた。
貴方はもう充分強いから、ママと明子さんと明子さんの子供達を守ってあげてと。
そしたらパパが凄く楽になれるかなって笑いながら言った。
僕は忘れない。ゆり子さんを。
パパがゆり子さんを連れて車で出て行った。
一時間位で戻って来た。
戻って来たパパは何処か寂しそうに僕を抱き寄せた。
次の日も皆いつも通りに働き始める。
僕はとてつもなく寂しい。
ゆり子さんと話した事を明子さんの子供達に話してあげよう。
こうしてゆり子さんが居た事をずっと語り続けよう。
ありがとう。ゆり子さん。
4章終
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