あなたの為に出来る事ー逆行した私は愛する人を幸せにするために二度目の人生をあなたに捧ぐー

支倉りおと

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 私が逆行してしまったと受け入れてから2日。

 遂に敬斗さんと遭遇してしまう日になってしまった。

 正直に言おう。

 私は死ぬほどイケメンが好きだ!イケメンだけではなく綺麗な物に目がない!!

 逆行前も今もそれは変わらない。

 でも……どんなに私が敬斗さんを好きになっても報われる日なんて来ないのはもうわかっている。

 自分の我儘で婚約解消を認めなくて彼を苦しめた。

 その結果敬斗さんは死んでしまった。

 私がもっと早くに敬斗さんを手放す事が出来ていたら彼を死なせる事はなかった。

 変える事の出来ない出来事に私は後悔している。

 だから私が逆行なんて物をしたのか理由はわからなかったけれど、きっと神様は私にこう言っているんだ。

 愛しているなら彼の幸せを願いなさいと……。

 本当にそうすべきだったんだ。

 愛する人の幸せを願えない私が幸せになるなんて出来る訳ない。

 結局私がたどり着いたのは……。




 そして今日、両親に連れられて来たのは前の生で嫌と言う程通い慣れた枢木邸。

 ちょうどあの頃と同じ枢木邸のお庭は綺麗な桜が咲いていた。

 風に乗って舞い散る桜の花びらがとても綺麗で子供ながらに見惚れていたものだ。

 あの頃の事を思い出して感慨に耽っていると向こうからやってくる小さな人影が見えた。


 遠くからでもよくわかる。

 あのシルエットと綺麗な歩き方。

 初めてこの庭で出会った時の敬斗さんだ。

 生きている。

 その事が嬉しくて私の瞳には知らず知らずに涙の膜が張り零れそうだ。

「はじめまして。枢木敬斗と言います」

 それは私の知る敬斗さんの声じゃなく、出会った頃の声変わり前の少しだけ高音の声。
 
 その音に私は瞳に溜まる涙を堪えきれずポロポロと零し泣き出してしまった。

「え?だ、大丈夫?どこか具合でも悪いの?」

 慌てる敬斗さんにフルフルと顔を左右に振るけれど、零れる涙は止まる事はなく流れ続ける。

 もう一度彼に会う事が出来た。

 きっとこの人生でも私が敬斗さんに愛される事はない。

 彼は何度繰り返してもきっと愛するのはあの人だけ。

 それならば私が彼の為に出来る事はただ一つ。

 もう間違える事は許されない。

 彼が幸せになる為に、彼がずっと生きていてくれる為に。

 私が出来る事は……。






 涙はやっぱり止まらないけれど、泣きながら私は挨拶をした。


「はじめまして私は宇佐美爽香です。私はあなたと婚約はしたくありません。でも婚約する事自体が必要な事ならば婚約をするフリだけなら承ります。だから私と偽装婚約しませんか?」


 それは5歳の子供が発する言葉だときっと誰もが信じないだろう。

 目の前に居る敬斗さんが良い証拠だ。

 大きく目を見開き私の事を気味の悪いモノのような目で見ている。

 うん。それでいい。

 私はこの人生でも一番愛している人には必要とされないし愛される事もない。

 でも私が愛している人には幸せになって貰いたい。

 もう二度とあんな悲しい結末は嫌なんだ。

 彼には笑って居て貰いたい。

 ずっと笑顔で生きていて欲しいんだ。

 たとえそれが私の自己満足だとしても、私はそう願わずにはいられない。

 それが逆行した私が彼に出来る償いだから。

 どんなにツライ事だとしても絶対にあなたを幸せにしてみせる。

 そう心の中で息巻いていると、いまだに驚いた顔をした敬斗さんが私に向かって話しかけて来た。



「えっと……偽装婚約?それ意味が分かって言ってるの?」

 そうだよね。

 たった5歳の幼女が偽装婚約なんて言葉知ってるなんて思わないよね。
 
 確かにその不審さは私も理解出来るよ。

 でも見た目は5歳でもやっぱり中身は18歳だもの、どうしてもあの頃の思考に引っ張られてしまうのはしかたないよね。

「わかってます。もともと枢木さんもこの婚約に乗り気ではない事は兄から聞いています。私も私を好きになってくれない人との婚約なんかまっぴらご免です。ただ大人達は私達が婚約、そして結婚してくれないと困るのでしょう。だったら表面上婚約だけすればいい。結婚はお互い本当に愛する人とすればいいだけです。遺言だかなんだか知りませんが、私達が結婚する年齢になるまでに婚約自体無くならせるようにすればいいだけです」

 ここまでをノンブレスで言い放つと、間をおいて今度は敬斗さんが噴き出した。

「へ?何かおかしな事を言いましたか?」

 変だなぁ?どんな事を言っても敬斗さんは私に1ミリも興味を示してくれたことなかったし、笑顔なんか向けてくれた事なかった。

 あ、よく考えれば本当に彼は残酷な人だったのね。

「いや、何も間違った事は言ってないよ。そうか……偽装婚約は考えなかったな」

 そう言うと少し考える素振りをし、敬斗さんは私に手を差し出した。

「いいよ。キミが偽装婚約を望むのなら、僕はその茶番につきあってあげるよろしくね小さな婚約者さん」

「はい、私で良ければいつでも婚約破棄お待ちしております」

 笑顔で敬斗さんの手を取り握手すると、その手を敬斗さんに引っ張られ不意を突かれた私の身体は簡単に彼の腕の中に納まった。

 突然の事に驚いた私がそのまま固まっていると、私の額に柔らかな何かが触れた。

「え?」

 ようやく何が起きたのか理解した私がバッと顔を上げるとそこには今までで見た事のないような顔を私に向ける敬斗さんがいた。

「まぁ、僕は自分の気に入ったものを手放す気はないから覚悟しておいてね」

 と、バチンと音がしそうなほどのウインクをすると私の手を離さないように固く繋ぐと大人達が居る方へ歩き出した。

 私の記憶の中にある敬斗さんと全く違う行動に私の頭の中が真っ白になっている間に何故か事は進んでしまい……。


 何がどうなってか敬斗さん自身がノリノリで婚約を結んできた。

 その事に敬斗さんのご両親も私の両親も諸手を挙げて喜びそのまま祝宴が始まってしまった。


 え?え?


 ちょっと待ってどうなっているの?

 この婚約は偽装婚約で間違いないのよね?

 ソロリと敬斗さんの顔を覗き見るけれど、本心を見せないような眩しい笑顔を向けられた。

 あ、でもこの笑顔は偽装婚約って事でいいって事なのね。

 そう理解するとようやく私も少し落ち着けた。


 私の計画が上手く行ったのか些か不安な所もあるけれど、これで将来敬斗さんが死んでしまうという可能性を一つ潰す事が出来た事は上手く行ったとは思うのだけど……。

 なんだかちょっと心に引っかかる物がある。

 それは無視してもいいのか少し不安になるけれど、悪い方向には向いては居ないよね?

 と、少しの不安を抱えながらも彼を死へ向かわせないように導くしかないのだ。

 


 あなたの為に出来る事。



 これが逆行した私の生きる意味。





 

 
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