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999回目の私

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「フローリア・ナイトレイ侯爵令嬢、君とは結婚出来ない婚約解消してくれ」

 それは王都にある最高峰の貴族学校であるモルガン学園の卒業式の後に開かれるプロムでの出来事。

 目の前には仲睦まじく寄り添い抱き合う男女。
 男はこの国の王太子様で私の婚約者でもあるライアン・スタインベルグ、女はマリーベル・ナイトレイ侯爵令嬢で私の義妹だ。

 私の義妹は数か月ほど前にお父様の侍女だった方が亡くなられ、天涯孤独となったその方の娘を可哀そうに思ったお父様が、ナイトレイ家に養女として迎えられた少女。
 お父様の血は引いておらずまるっきりの庶民だが、お父様のご厚意でナイトレイ家に正式に迎えられた。

 私との仲は可もなく不可もなくただただ普通ですかね?

 義妹はよく私に纏わりつきなぜか「私は貴族よ」と謎のアピールをするちょっと頭の弱い子?だけど見た目は可愛いので周囲の者もわりと騙されていた。人の本質を見抜けないようじゃナイトレイ家では勤まりませんわね。

 あの子の周りはアホな侍女と侍従しかいないので特に問題ありませんが、他の優秀な者たちに迷惑を掛けるようでしたら考えなくてはいけませんね。

 とにかく私は庶民とはこういう物かと思って義妹の事は大して気にもしておりませんでした。

 それよりも義妹とライアン殿下はお会いした事ないはずなのにどうして一緒に居らっしゃるのかしら?
 しかもやたら仲良しアピールがうざいですわね。

 離れがたいのかあからさまにベタベタする2人の密着度の高さに思わず眉を寄せる。

「ライアン様、どう言う理由かお聞きしても宜しいですか?」

 私と話しの最中だと言うのにイチャつく2人に苛立つ私は手に持つ扇子を思わずミシリと鳴らす。

「幼少の頃、私の番だと思いフローリアそなたと婚約したが、私は今日、見つけてしまったのだ私の唯一の運命の番であるマリーベルを。運命の番には抗えない悪いが諦めてくれ」

 そう言うとマリーベルの頬にキスを落とす。

「お姉様ごめんなさい。私がライアン殿下の運命の番だったみたいです。運命の番は何より優先されますので諦めてくださいね」

 悪びれもせず、そう言い放つ義妹にムカッ腹がたつが、正直私にも思うところがある。

 あ、お父様がキレそうですわ。ですがここでお父様が出てきても得策ではありませんので耐えるよう合図を送る。

「左様でございますか、婚約破棄結構でございます。陛下への報告はこちらでさせていただきます。長い間お世話になりました」

 丁寧に礼を尽くしてもうここには用はないと会場を出ようとすると。

「ちょ、フロル」

 ライアン殿下に声を掛けられた。

「なんでございましょう王太子殿下・ ・ ・ ・ ・

 立ち止まりそう返事するも、何かモゴモゴしてるばかりで殿下からの返答はない。

「お姉様……」

 なぜか残念そうにするマリーベルに私は蔑みを込めた笑みを浮かべる。

 沢山の人が集まる会場でわざわざ婚約破棄をして私に恥をかかせておいてまだ何か御用があるのかしら?
 
 ふざけた事を言う2人に呆れかえる私は2人を無視して。

「では、ごきげんよう。もうお会いする事もありませんわね王太子殿下、マリーベルお幸せに」

 全力のアルカイックスマイルを浮かべると私は会場を後にした。


 プロムの開かれているモルガン学園のダンスホールから外に出ると速足で講堂と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩く。

 無意識に私の瞳から零れ落ちる涙をそのままに私は馬車の乗降口へ急ぐ。


 ナイトレイ家の馬車の前で私の侍従が待ち構えていた。

「お嬢様お疲れ様です。どうぞお乗りください」

 侍従の手にエスコートされナイトレイ家の馬車に乗り込もうとすると後ろから衝撃を感じた。

「フローリア様!!」

 隣に居た侍従が真っ青になりながら私の名前を叫ぶ。

「お姉様が悪いのよ。いつも素直になってくれないから……リセット」

 私の耳に聞き覚えのある彼女の声が聞こえた。


 カラン……


 床に落ちる金属音と背中から心臓を一突きされた私はそこで意識を手放した。


 あ、そうか。



 これは999回目だ。




 死の間際に思い出す。


 私、フローリア・ナイトレイは悠久の時を彷徨い、巻き戻り人生を繰り返している。




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