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選択 とそれから
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しおりを挟むそれから
湊がアメリカに戻るまでの10日程は、怒涛の日々だった。
まずはお互いの両親に挨拶をし結婚の了承を得て、プロポーズの翌日には入籍した。
愛美に籍だけ先に入れたと話したら
「何それ。篠原さん、余裕なさすぎー!!!」
と大爆笑していた。
でもそのあと、泣きながら
「おめでとう香奈子。よかったね。」
そう言ってくれた。
急いでセッティングした両家の顔合わせのとき
うちの母は自慢げに
「香奈子、あんた感謝しなさいよ。私が湊くん煽らなければ未だにほったらかされてたわよ~。」
と、言って湊を焦らせていた。
「すまないね。湊くん。」
そう言って苦笑い気味の父から肩を叩かれて、湊は更に恐縮していた。
篠原のお母さんには
「ほんとヘタレな息子でごめんなさいね。」
と、言われた。
「でも香奈子ちゃんがお嫁に来てくれることは確信してたのよ~。」
うふふふ、と笑っていらした。さすが湊のお母さん…。きっと息子のやってることに気づいていらしゃいましたね…。
篠原のお父さんには
「湊のことよろしく頼むよ。」
と素敵な声で言っていただいた。
ダンディなお父さんの笑顔に一瞬ポーっとなっちゃって、未来の湊の姿にドキッとしただけなのに。ヤキモチをやいた湊にその晩散々な目にあわされた。
お互いの会社にも報告して、たくさんの祝福の言葉をもらった。
男のおの字もなかった私がいきなり入籍しました、と報告した後、会社中に急速に広まってひどい騒ぎになったらしい。
らしい…というのは、私はその騒ぎを知らないから。
愛美から
「もう!香奈子に聞けないからって、私のところにみんな押しかけてきて大変だったのよ!」と愚痴られた。
入籍報告後、溜まっていた有給休暇を入れてもらって、そのまま休ませてもらっている。私たちの事情を聞いた上司が、湊がアメリカに戻るまで少しでも一緒に過ごせるように、と有給休暇の消化を進めてくれたので甘えさせてもらった。
課長感謝です!さすが既婚者!まさか結婚がこんなに面倒くさいとは思いませんでした!
だって書類の山!ですよ!
入籍って、それだけじゃないんですね…。
各機関の氏変更やら何やらでいろんな場所に行って、書類提出して、と ものすごい時間が掛かりましたよ。まあ、私たちの場合、湊がいるうちに、と細かいものまで全てやりましたからね。
でも、それも昨日でほぼ終了。
今日は注文した結婚指輪を取りに行くだけ。
無理を言って最速で仕上げていただいた結婚指輪。この婚約指輪も素敵だけど、湊とお揃いの結婚指輪を嵌めるのがすごく楽しみだ。
開けたままの窓から、朝の爽やかな風が舞い込んできて、レースのカーテンを揺らした。
私はソファに座って膝を抱えながらコーヒーを啜り。
キッチンの小さなカウンターで、タブレットとノートパソコンを広げて仕事をしている湊をみる。
またここに湊がいることが、まだ信じられない。
今まで
何度も何度も湊と笑い合う夢をみた
でも
目を覚ますと湊はいなくて
悲しくて
さみしくて
何度も何度も泣いて
でも
どんなに泣いても
あの大きくて温かな腕が抱きしめてくれることはなくて
枕に顔を埋めて
泣いた
なんだか夢みたいだ
まだ夢の中にいるんじゃないかしら…
「…みなと」
思わず名前を呼んだ。
「ん?なんだ?」
タブレットから顔を上げて、湊が振り向いた。
夢じゃない…
消えない湊
にっこり笑って返事をする
「ううん、何でもない。」
「そうか?」
微笑む湊は
「コーヒーもう一杯いかがかな、奥さん?」
ときいてきた。
「まだあるから大丈夫。ありがと。」
「欲しかったら言えよ。」
そう言って立ち上がり自分のマグにコーヒーを注いだ。
湊はそのままマグを持ってきて、ソファーに座る私の顔を覗き込む。そして私の頬を手の甲で撫でた。
「寂しいって言ってる、おまえの顔。」
そうだった。もう強がらなくてもいい。
「うん。なんだかまだ夢を見てるみたいで…ごめんなさい、仕事の邪魔しちゃった。」
「構わないよ。ちょっと休憩。」
そう言ってそばに座ってコーヒーを啜った。
「今は仕事よりも、また暫く会えなくなる奥さんが大事。」
私のおでこにキスした湊に、肩を抱かれた。
湊の肩に頭を預ける。
「なぁ、やっぱり次帰ったらマンション探そうか。やっぱりここじゃ狭いだろ。」
そう言って私の1DKの部屋を見回す。
「いいの。ちゃんと”単身赴任”が終わってからで。」
そう。籍を入れ、私は 篠原香奈子 になり、湊は 妻帯者 になった。だから”単身赴任”。
湊はなかなか気に入ってるようで、よく使う。
「そうか?うーん、そうだな。単身赴任もそんな長くはならないだろうし。帰ってきてからゆっくり探すか。」
「うん」
明後日の朝、湊はまたアメリカに戻る。
やっぱり寂しい。
きっと空港に見送りに行けば泣くだろうし、うちに一人で戻ってからも泣くだろう。
それは仕方ない。寂しいのは当たり前だ。だって愛しているのだもの。
でも大丈夫。
私達は大丈夫。
どんなに離れていても
湊と二人で
一緒に
同じ路を歩いていけると信じてるから
湊に肩を抱かれながら
今までで一番おいしいコーヒーを飲んだ。
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