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選択 とそれから
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しおりを挟む「ああ!じゃなかった!」
こんなことしている場合じゃなかった。電話しなきゃ。
私が俯いていた顔を上げると、湊が私の両腕を宥めるように撫でながら言った。
「さっき美智子さんと話したよ。だから大丈夫。」
「え?美智子さん?」
優しく慈しむように笑う湊の顔を見ながら、
誰?
って、一瞬考えちゃったわよ!
「は?…うちの母?! お母さんと話したの?!大丈夫?!え?!何で⁈ な、何か言われなかった?」
「うん。せっかくだから今夜夕飯食べに帰っておいでって。赤飯炊いてご馳走作って待ってるって言ってたよ。」
そう言って湊はニヤリと笑った。
…………
…なんだか、だんだんパターンが読めてきたぞ
おでこに手を置いて隙間から湊を睨む。嬉しそうにニヤつく湊は。
「あ、気づいた?さっすが香奈子。」
なんて言っている。
「…お見合いのこと喋ったのは、うちの母ね?」
疑問形だが、私はほぼ確信している。きっとそうだ。
片眉を上げて笑う湊。
私は恐る恐る聞いてみる。
「…もしかして…母とも連絡を取ってたの…?」
「ご名答!!」
声高に言う湊に「アホか!!」とつい口が滑った。
「もう、ほんと何やってんのよ…。」
一気に疲れてきた…。
はあーっと大きなため息をついた私を抱き寄せて、湊はそのままソファに身を鎮める。
「うん、ごめん。」
そう言って頭を撫でるから。
ドクンドクンと脈打つ湊の胸に顔を埋めて言った。
「ほんとバカ。」
「うん。ごめん。」
「見合い相手にはちゃんと断りの返事してもらってるから。」
そう言って私の頭を撫で続ける湊。
「そう。」
「二ヶ月くらい前に美智子さんから、『妹が持ってくる見合い話が多すぎてもう押さえきれないから、一度香奈子に見合いさせる』って連絡が来たんだ。」
「うん。」
「もう少しでこっちも落ち着くから、あとちょっとだけ時間をくれって頼んだんだけど。『お見合いもあの子のいい肥やしになるわよ~もっといい女になって引く手数多ね!さすが私の娘!』…なんて言って、取り合ってもらえなくて。」
ふっと苦笑いが漏れたらしい。見なくてもわかる。今の湊の顔。母を相手にするのはなかなか大変だったようだね。
そして想像できるよ。嬉々として湊を弄りまくっているうちの母親の顔が。
「どうにか見合い前に香奈子に会おうって思ってたんだけど、向こうで新規の契約を結んでいるところでさ。どうしても見合い当日までに間に合わなかった。その日、美智子さんから、香奈子と見合い相手が並んで歩いている写真が送られてきて、ほんと参った。」
母、ほんとエゲツないな
「ごめんね…」
項垂れる湊に思わず謝ってしまう。
「いや、香奈子が謝ることじゃない。でも、あの写真みて…もうだめだって思った。もう待てないって。だからちゃんとプロポーズしようと思ったんだ。」
「え?」
湊の胸から顔を離して湊を見上げれば、真剣な表情でみつめてきた。
「いよっと」
私を膝にのせたまま、浅く座り直した湊の手には真紅のビロードケース。
うそ…
開けた箱の中にはキラキラ輝くダイヤモンドの指輪が納まっていた。
「俺が不甲斐ないせいで、あの時は言えなかった。ごめん。たくさん泣かせたよな。ごめんな。…でも今なら、自信をもっておまえに言える。」
話す湊の笑顔を見つめていたら、だんだん涙で霞んできた。
「俺、もうしばらくはアメリカにいなきゃいけない。でも帰るところは香奈子のところがいい。」
そう言って指輪をビロードの箱から抜きとった。それから私の左手を優しく握ってきた。
「しばらくは離れて生活することになるけど。でも、今なら、今の俺たちなら、離れていてもお互いに大丈夫だと思うんだ。距離になんて邪魔されずに、想いあって、支え合ってやっていけるって思ってる。」
涙が止まらなくて、私は“うんうん”と頷くしかできない。
私もそう思う
「だから香奈子
結婚してくれないか」
もう完全に泣き出した私は、頷く事しかできなくて。
湊が私の左手の薬指に指輪を入れるのを、涙で霞む目で見ていた。
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