彼と彼女の選択

沢 美桜湖

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彼の

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目の前にぐでんぐでんに酔った香奈子が、テーブルに突っ伏している。テーブルに腕を重ねてその上に自分の頭をのせ、目を閉じていて規則正しい寝息がきこえる。



四年ぶりにみる”本物の香奈子じつぶつ”は、綺麗だ。
洒落た服を着こなし、化粧をして、苦手だったハイヒールを履いて…。

愛美ちゃんがたまに送ってくれるメールに、香奈子の近影を添付してくれることもあった。大人の女性になっていく香奈子の変化を見ていたはずなのに。知っていたはずなのに。自分の目で見る実際の、今の香奈子に、自分だけが過去の記憶の中に取り残されていたのだと、痛感する。


香奈子
綺麗になったな


いつものように心で話しかけながら、香奈子の顔にかかる髪をすく。お酒のせいか、頬は赤く色づいていて薄く開いた唇は妙に色気がある。顔を寄せて頬にくちづけた。それでも香奈子の瞳は閉じたままだ。



目を開けてくれないか、香奈子。
俺はここにいるよ。



「ちょっと!ここ居酒屋!しかも本日女子限定!そして私もまだいますから!」
 

「うん。わかってる。」

そう言って、香奈子の髪を撫で、頬や首筋を指先でなぞっていく。
後ろで吠える愛美ちゃんには悪いけど、香奈子から目が離せないんだ。



はあ…とため息をついた愛美ちゃんだったけど。
「すみません。香奈子、私が思っていたよりもまいっていたみたいで。珍しく潰れちゃいました。」

「そうみたいだね。潰れるまで飲むなんて…見たことなかったな。」
「私も初めて見ました。何とか篠原さんが来るまでは、と、思っていたんですけど。香奈子、止めるのをきかずに…。」
「いや、仕方ないよ。香奈子は俺が来ることなんて知らなかったんだし。」

「新しいプロジェクトのサブマネージャーに新人教育、他にも産休に入った子のフォローにもまわっているみたいで、今が山場だ!と、自分を鼓舞してましたけど…。すごく頑張ってるみたいで。香奈子の上司からも、今日は思い切り飲ませてやってくれって、帰りに言われたくらいで…。」

頑張ってるな、香奈子


「でも…。どうしますか? また明日にでもセッティングし直しますか?」

俺は香奈子の頬を撫でながら、言った。
「いや、このまま香奈子を送るよ。ありがとう。」

「そうですか…。」

ふぅっともう一度ため息をついて愛美ちゃんは、「それじゃあ、香奈子のことよろしくお願いします。」そう言って帰って行った。






香奈子を抱き上げて店の前で待たせてあったタクシーに乗せ、彼女の部屋の住所を運転手に告げた。
タクシーは静かに走り出した。


香奈子はあれから一度も引っ越していないと愛美ちゃんがいっていた。香奈子の住所が今もスラスラと出てきたことに我ながらちょっと驚いた。


あの頃、毎日のように行き来していたのだからあたりまえか
なぁ香奈子


俺の膝に頭を乗せて眠る香奈子の髪を撫でながら、その横顔を見つめる。



一晩だけの夢だ


今回はそう割り切るしかない



そう自分に言い聞かせながら。フーっと長い息を吐き出した。









部屋のベッドに香奈子を寝かせて、ハイヒールを脱がす。
結構高さがあるヒールだ。前は、足が痛い と言っていたのに。こんな靴も履けるようになったんだな。


靴をベッド脇に置いて、足の甲にくちづけた。
足の甲からふくらはぎを撫で上げる。ストッキングを履いていて素足じゃないのが残念だ。

そんな自分の思考に、完全にストーカーだな、と自嘲する。




香奈子


足にキスしながら、上に上にと足を辿ればタイトなスカートの奥に。
思わず手がスカートの奥に忍び込みそうになったとき、香奈子が身じろいだ。

「…んん…。」


立ち上がって顔を覗き込むが、香奈子の目は閉じられたままだ。
「香奈子、大丈夫か? 気分 悪くないか?」

しこたま飲んだようなので、体調が心配だ。
キッチンへ行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してベッドサイドへ戻る。

「香奈子、水だ。少し飲んで。」

うっすらと目を開けた香奈子は、しかしまだ夢現つだ。
「ほら、かな、少し起こすぞ。」
香奈子の体を持ち上げて上体を起こす。ぅんん~と唸りながらも、香奈子は自分でペットボトルを持ち口に運ぶ。

「ふはぁ…ありがと…みなと。」

そう言ってにっこり微笑み、また頭を枕に預けて目を閉じる。

こいつ、わかってるのかなこの状況


頬を撫でれば、安心したように口元が弧を描く。


これじゃ朝にはきっと俺のことなんて綺麗さっぱり忘れてるだろうな…
夢をみたんだって、きっと思うんだろう。

まあ、今回は仕方ないか。




寂しい感情をいつもの様に押し殺して、香奈子のスーツを脱がせた。














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